離れた家
日本評論社

PART1は「砧順之助の事件簿」として「砧最初の事件」ほか砧ものの4短篇、PART2は「扉の向こう側」として短編6作、PART3は名作中篇「離れた家」の3部構成。
砧最初の事件
細井耕造は小野と名乗る男から呼び出しを受けた。細井は大企業の営業課長の傍ら、覚醒剤やピンクフィルムの密売の内職をしていたので、その方面の客であった。
まず喫茶店で30分待たされた上にホテルのロビーに待ち合わせ場所を変更され、さらにスナックに変えられた。しかもそのスナックはデタラメで、教えられた場所には工場しかなかった。
家を出てから5時間、あちこち引き回されたあげく、体よく騙されたのだ。怒って家に戻ると、その間に空巣に入られヤミの顧客名簿を盗まれていた。
さらに近くでバラバラ殺人事件が起き、その被害者が細井の仇敵であったことから細井に疑いの目が…しかも事件のあったころには細井は騙されてあちこち引き回されていたのでアリバイもない。困った細井は開業したばかりの探偵砧順之介を訪ねた。
銀知恵の輪
黒川圭造の他殺死体が発見されたのは、貸事務所の中であった。事件は土曜日に起き、その夜黒川には2人の女客があった。ひとりは日東新報記者の三門ひろ子で、夜8時に来て8時半に帰った。
2人目は10時ごろ来て10分ほどで帰った黒衣の女で名はわからなかった。夜間はビルの出入りは1か所で、全ての出入りは守衛室から見えるから、いくら守衛が将棋をしていたとはいえ、間違いはなかった。
黒川の死亡推定時刻は7時から11時ごろまでとされたが、その後黒川がある盗難事件に関係していたことがわかり、死亡時刻の幅は狭まった。
その盗難事件はある組合の金庫が破られたもので、現場の遺留品に黒川の指紋があり、一方黒川の事務所からも組合の通帳が見つかったのだ。盗難は月曜に発見されたが、土曜は9時まで人がいたので、それ以降月曜の間に行われたと考えられる。 拠って黒川の死亡時刻は9時から11時までとなり、俄然黒衣の女が怪しくなった。
死の黙劇
相生橋で起きたタクシーの交通事故で、乗客が死亡した。その乗客は顔を包帯でグルグル巻きにしていたが、包帯を外して見ると怪我ひとつしていなかった。タクシーの運行記録などから男は桜木駅前のホテルから乗ったことがわかった。男はホテルに投宿しており、ホテルには酷い火傷と包帯の理由を説明していた。
宿泊カードは偽名であったが、包帯男は有名な私立探偵砧順之介の紹介文入り名刺を所持しており、その名刺から木村信吉というブローカーだと分かった。砧は実業家の小泉氏の自宅に滞在しており、そこをたまたま訪ねてきた木村に名刺を渡していたのだ。
さて、タクシーの事故があったのは9時40分ごろ、木村がホテルからタクシーに乗ったのが9時30分であった。ところが木村は9時に佃駅前の洋菓子店でケーキを購入し、それを手土産にして小泉邸を訪れた。
小泉氏は不在で妻の玲子が応接し、そのとき滞在していた砧にも紹介された。砧はその時に名刺を渡し、木村の手土産の洋菓子も食べている。その木村が小泉邸にいたのは9時5分から40分の間だった。しかもそのときの木村は包帯はおろか、顔には火傷も怪我も負っていなかったのだ…
金知恵の輪
個人商店社長で詰め将棋の好きな葉山八郎が自宅で殺された。葉山の手にはこの日手に入れた将棋の駒の金将が握られていた。
この日の夕方6時50分に将棋の駒を預かった葉山の部下の女性は、7時5分に葉山の家に着き将棋の駒を渡した。その時間には葉山が生きていたことは間違いないと女性は証言。
その後、葉山は殺されたわけだが、7時5分以後関係者のほとんどにはアリバイがあった。唯一人アリバイがあやふやな男が、金村将夫。葉山の手に握られた駒は金村将夫を示すのだろうか…
中小企業の社長秘書内田京子は、社長のお供で日曜日に大阪市内を一緒に歩き回る。社長は両親代わりに育て、かつその後会社で仕事を与えてくれた人で、京子にとっては父親のような存在だった。
映画を見、立ち寄った古本屋で社長は本を買い、取引先の店を訪ねた。そこで社長から用事を頼まれ、阪和線南田辺駅前の喫茶店で、ある人に文書を届けてほしいと頼まれる。
喫茶店で待つ京子に、約束の4時を5分ほど過ぎた頃に社長から電話が入り、約束はキャンセル、変わりに会社に戻って手紙を出してくれと言われる。手紙の内容はカセットに吹き込んであるとのことだった。
会社に戻ると言われたとおりカセットに吹き込みがあったので、タイプにうち速達で出す。ふと見ると部屋の隅に先ほどまで社長の持っていた鞄があり、机の上には古本屋で買った本があった。
社長は電話で手紙をカセットに口述したあと、友人のところに行くと言っていたので、そう思ってビルを出ようとした。その時にビルの管理人に聞くと、社長はビルの玄関を通っていないと言う。その時は裏口から入ったと思っただけだったが、その後裏口に通じる扉が、作業のために塞がれていたことを知り、びっくりする。
社長はビルの玄関から入る以外にないはずなのに、いったいどこから入ったのだろうか…
神技
わたしが黒木俊平の神技を間近に見たのは、喫茶鈴蘭でのことだった。そこにやって来た一人の女性が、雑談をしていたわたしと黒木の隣のテーブルに座ると、黒木がホームズ張りの能力を発揮して、その女性のことを次々と言い当てた。
さらにトランプ占いをして、女性の性格や運命などを鑑定していった。女性は顔色を変えていった。後日そのときのことで黒木を問い詰めると…
厄日
喫茶白蘭で葉山さと子という女性が服毒死した。同席者がいた。M氏という温厚な人物で、M氏が女性の飲み物に毒を入れたなど、状況としても、動機面でも信じられなかった。さと子の死は自殺とされた。
そのM氏はしばらくしてJEWELという雑誌に「神技」という短篇ミステリを発表した。鈴蘭という喫茶店で、黒木俊平なる人物が女性に占いをしていく物語であった。そのM氏にわたしが出会ったのは、S湖畔でのことであった。
特殊映写機の試作品の進行を担当するわたしは、明日が納期の試作品の部品に重大なミスを発見した。ギアの寸法が1oも違うのだ。ベテランの工長に任せたのになんということだと憤慨したが、改めて確認すると工長のミスではなく、図面自体に誤りがあったのだ。
図面を引いたのはわたしだった。どうしたわけは1o寸法を誤記していた。どちらにしろ明日の納期には間に合いそうもない。わたしはこのところ立て続けに小さなミスをしているうえ、試作品の納期も何度か遅らせていた。このままではやっと抜擢された今の地位も棒に振るかもしれない。
そこでこのミスを転嫁する手を思いついた。宿直にあたっているのを幸い、図面を正しいものに差し替えたうえ、さらに次の工程の機械に細工をして不良品にしてしまうのだ。さっそくわたしは人気のない工場で細工にとりかかった。
宗歩忌
出張の帰りに足をのばして立ち寄った僻村にある寺でのこと。住職と話をし、寺の秘蔵の品を見るうちに、将棋の駒に気付いた。その駒は江戸後期の実力派棋士天野宗歩のものと思われたが、なぜか香車が一枚欠けていた。それには物語があると住職は語り始めたが…
時計
曽根崎の迷路のように入り組んだ路地にある喫茶店にたまたま入った私は、見知らぬ男から声を掛けられた。そしてその男の友人である川村五郎の因縁話を聞く羽目になった。
離れた家
大阪市内N区の金融業者馬場欽造の事務所で、欽造の絞殺死体が見つかった。警察に事件を報せる匿名電話が入ってきたために、警官が急行して発見したものであった。
死亡推定時刻は発見が早かったことや、事務所の人間の証言などから午後7時40分前後と推定できた。
そして容疑者として被害者の血の繋がらない甥の細川亮吉が浮んできたが、亮吉にはその時間麻雀をしていたというアリバイが成立した。
一方ほとんど同時刻に市内ではもう1つ不思議な殺人事件が起きていた。奇術好きな女性が部屋に複数の人間を呼んでトランプをしている最中にテレポーテーションを行い、直後に車でも15分ほどの距離の別の部屋で死体となって発見されたのだ。
2つの事件は解決が長引いたが、ひょんなことから両事件の間に関連があることがわかった…
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