わが国の古典推理小説「捕物」を集めました。捕物帳には、犯罪の合理性やトリックなどより人情などを主題に描く推理小説とはいいがたい作品が多いのですが、ここでは捕物帳には珍しくトリッキーなシリーズを紹介します。

半七捕物帳 岡本綺堂
大正6年に雑誌「文芸倶楽部」に第一作「お文の魂」が掲載されて、三河町の半七親分が世に出ると同時に捕物帳という日本独特の推理小説の世界が作られた。その功績は大きく、その後数々の捕物帳が書かれたが、本格推理小説と呼ぶに耐えるのはそう多くない。
半七捕物帳は、明治期以降に聞き手である「わたし」が江戸期に活躍した岡っ引き半七の捕物談を聞かせてもらう形を取っている。
第一作「お文の魂」で綺堂が述べているように、半七は江戸時代における隠れたシャーロック・ホームズで、その捕物談は推理味の薄いものもあるが、現代でも十分読むに耐える作品で、後年「なめくじ長屋捕物さわぎ」を書いた都筑道夫も、「半七捕物帳」と「顎十郎捕物帳」を参考にしたと述べている。
半七捕物帳(一)
半七捕物帳(二)
半七捕物帳(三)
半七捕物帳(四)
半七捕物帳(五)
半七捕物帳(六)

人形佐七捕物帳 横溝正史
我が国のミステリ史に燦然と名を残す横溝正史も、捕物帳を書いている。昭和12年に「不知火捕物双紙」と題して旗本不知火甚左を主人公に据えたが、不評で全8話で終了、翌昭和13年に岡っ引き人形佐七を主人公に据えて新たなシリーズを開始した。
正史は岡本綺堂の「半七捕物帳」を意識していたようで、「不知火」で旗本を主人公にしたのは自身でも半七に対するコンプレックスであったと述べている。それが事実上失敗に終わり、コンプレックスを逆手にとって書いたのが佐七であった。
第1作の「羽子板娘」から戦前、戦中、戦後と書き続けられ、全180話あり、半七、むっつり右門、銭形平次、若さま侍捕物手帳とともに五大捕物帳ともいわれる。
主人公の人形佐七は神田お玉が池の岡っ引きで、人形のようないい男だが、女にだらしがなくて浮気性、女房の元花魁お粂がやきもち焼きで、2人の間では喧嘩ばかりだが、本当は似合いの夫婦。
人形佐七捕物帳1・ほおずき大尽
人形佐七捕物帳2・遠眼鏡の殿様
人形佐七捕物帳3・地獄の花嫁
人形佐七捕物帳4・好色いもり酒
人形佐七捕物帳5・春宵とんとんとん
人形佐七捕物帳6・坊主斬り貞宗
人形佐七捕物帳7・くらやみ婿
人形佐七捕物帳8・三人色若衆
人形佐七捕物帳9・女刺青師
人形佐七捕物帳10・小倉百人一首
人形佐七捕物帳11・鼓狂言
人形佐七捕物帳12・梅若水揚帳
人形佐七捕物帳13・浮世絵師

明治開化 安吾捕物帖 坂口安吾
明治開化安吾捕物帖は、小説新潮昭和25年10月号から27年8月号まで連載され、全20篇。明治開化のころが舞台で、すでに人力車や鉄道が通り、警察組織もできていたから、江戸期の捕物帳とは少し雰囲気が違う。
警視庁の紳士探偵結城新十郎と剣術使い泉山虎之助、戯作者花廻家因果が活躍するシリーズで、事件が起き虎之助が勝海舟のところに相談に行き、海舟が謎解きをするのだが七分どおり失敗、その後新十郎が事件を解き明かし海舟が負け惜しみを言う、というのがパターン。ただし後半の作品には海舟や虎之助、因果は登場しない作品も多い。
密室、アリバイ、読者への挑戦など本格推理の形式を持った作品が多い。
明治開化 安吾捕物帖

なめくじ長屋捕物さわぎ 都筑道夫
奇才都筑道夫が書いた連作短篇で、江戸でも有名な巣乱(スラム)神田橋本町の貧乏長屋に住む大道芸人たちが数々の事件を解決して、礼金にありつく物語。
その集団の頭が筋違御門前の八辻ヶ原で砂絵を描く元武士の砂絵のセンセーで、ほかに大道曲芸のマメゾー、一人大道芝居のオヤマ、河童のまねをするものもらいのカッパ、同じく熊のまねをするアラクマ、お札くばりの願人坊主ガンニン、幽霊のまねをして歩くユータなど。
神田下駄新道の岡っ引き常五郎も難しい事件があると酒を提げてセンセーに相談に来て、事件を解決してもらい名を上げているが、裏でセンセーたちはしっかり稼いでいる。渡し船から人が消えたり、密室の蔵で人が死んだりという不可能犯罪ものも多くある。
ちみどろ砂絵
くらやみ砂絵
からくり砂絵
あやかし砂絵
きまぐれ砂絵
かげろう砂絵
まぼろし砂絵
おもしろ砂絵
ときめき砂絵
いなずま砂絵

顎十郎捕物帳 久生十蘭
「魔都」で有名な久生十蘭は、昭和14年から雑誌「奇譚」に顎十郎捕物帳の連載を開始した。古袷、冷飯草履にはげちょろの大小というかまわぬなりに、長い顔、その顔の下半分が顎という特異な容貌の男の名は仙波阿古十郎。その容貌からついたあだ名が顎十郎、その顎十郎が江戸やその近辺におきる不可思議難解な事件を解き明かす名作短篇集。
顎十郎の叔父の森川庄兵衛が北町奉行所の与力で、その威光で北町奉行所に職を得るが、ほとんど出勤をせずに大名屋敷や旗本屋敷の中間部屋で中間たちに囲まれてのらくらして過ごす。この顎十郎どうしたわけか中間たちに人気があり、いざというときには江戸中の中間たちが死を賭して働こうというほど。
ライバルは南町奉行所の並同心藤波友衛で、将軍の前で推理合戦をしたことも。
顎十郎捕物帳

新顎十郎捕物帳 都筑道夫
「半七捕物帳」と「顎十郎捕物帳」に惚れた都筑道夫が、久生十蘭の遺族の了解を得て昭和59年から主に小説現代を舞台に発表した連作シリーズ。
新顎十郎捕物帳
新顎十郎捕物帳2

宝引の辰捕者帳 泡坂妻夫
作家であり、紋章上絵師であり、アマチュア奇術師である泡坂妻夫が書いたシリーズ。主人公は宝引の辰という神田千両町に住む岡っ引き。手当だけでは食えずに宝引(香具師が扱ういかさま福引)を内職で作っていることから、宝引の辰といわれている凄腕。
全篇が一人称として書かれ、その語り手は各篇で違い、辰は主人公とはいっても登場度合は作品によってかなり異なる。
不可能犯罪風のものや本格風の作品もある反面、ミステリの味はほとんどない人情話風の作品も多くある。平成7年(1995年)3月から7月にかけてNHKでドラマ化され、全21話が放映されている。
鬼女の鱗
自来也小町
凧をみる武士
朱房の鷹

曇斎先生捕物帳 芦辺拓
第1回鮎川哲也賞受賞者で本格作家として活躍する芦辺拓が書いた、蘭学の大家曇斎先生こと橋本宗吉を主人公に、大坂を舞台にした捕物帳。
殺しはエレキテル


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