新顎十郎捕物帳
講談社文庫(入手難)

久生十蘭の顎十郎捕物帳にほれ込んだ作者が、十蘭の遺族の了解を得て書き始めたシリーズ。
三味線堀
周囲は武家屋敷の塀、その中に架かる小さな橋、橋の前後は奉行所の役人達という状況で激しい夕立と雷の中、誰も近づいたものがないのに一人の男が刺されて死んでしまった。
周囲は武家屋敷の塀が並び、その中に小さな川が流れて、小さな橋が架かっている。橋の少し上流は川幅が広くなって堀になっている。この堀を三味線堀、小さな川は鳥越川、橋の名を転軫橋という。橋は短く八歩くらいで渡れてしまう。この橋の真中あたりで人が殺された。殺されたのは大泥棒伏鐘の重三郎の手下で六蔵。
橋の前後には、南町奉行所の捕り手が六蔵を見張っていた。南町では六蔵の隠れ家を掴み、少し前から六蔵を見張っていた。六蔵もその気配を察知し仲間に知らせようと、隠れ家を出て歩き出したが、すぐにつけられてることを知り、三味線堀のほうに歩き出した。
すると俄かの大夕立で、六蔵が転軫橋にかかった頃すぐ近くの大名屋敷の木に雷が落ち、あたりは一瞬真っ白になり何も見えなくなった。その直前まで生きていた六蔵が、雷が落ちた直後には橋の真中に倒れていたのだ。
橋の両側にいた南町の人間が駆けつけて抱き起こしたが、六蔵は腹を刺されて死んでいた。最初に駆けつけたのは南の同心藤波友衛。伏鐘の重三郎は藤波が殺したと思い、顎十郎を連れ出し仇を取ってくれと手をついて頼んだ。

貧乏神
旗本屋敷の座敷牢、江戸の準密室ともいうべき部屋で死体が発見された。
旗本桜井庫之助は気がふれて屋敷内の座敷牢に閉じ込められていた。家を守るために病気の届けを出し、隠居させて養子を迎える手はずを親戚一同整えて、融通を利かせてもらうために上役に送る金二十両も用意した。
ところが、この庫之助が座敷牢で殺されてしまった。鍵のかかった座敷牢の一番奥の壁に寄りかかるようにして、胸を刺されて死んでいるのを朝、奥方が見つけ大騒ぎ。凶器はなく、用意した二十両もなくなっていた。
屋敷内では親戚や養子に来るはずの旗本の次男坊とその兄などが集まって相談、評判の顎十郎に助けを求めることにした。

亀屋たばこ入
花嫁衣裳を着たのっぺらぼうが出るとの噂が広まった。そののっぺらぼうを中間たちが面白半分に捕まえたが…
柳原土手に花嫁衣裳を着たのっぺらぼうの化物が出るとの噂が立った。顎十郎が居ついついて中間部屋の中間たちが面白がってかっさらってきたが、それは花嫁衣裳を着た若い娘。
のっぺらぼうに見えたのは、以前にいたずらで綿帽子をまくられたときに、真綿がはがれて顔にかかったのを早合点されて、以来のっぺらぼうがでるとの噂が広まったのだという。そのことを喜んでいる様子に、顎十郎が不審を抱き、娘から聞きだしたところによると…
娘の姉が一年ほど前に柳森稲荷の境内で裸に花嫁衣裳を着た格好で殺されていた。その犯人は未だに捕まらず、花嫁衣裳を着て立っていれば噂が広まって犯人が再びやってくるはず。その時には姉の仇を
…という話に顎十郎をはじめ居合わせた中間たちは娘の力になって犯人を捕まえるために立ち上がった。

離魂病
離魂病にかかったらしい大商人の跡取り息子。魂はあちこちに現れたが、ある日ついに人を殺してしまった
日本橋の紙問屋相模屋の跡取り息子徳次郎が離魂病にかかったらしい。徳次郎と姿かたちが同じ人間が、本人の知らないところに何回か現れて、本人はそれを気に病んでふさぎ込んでしまった。
実は、徳次郎は次男で、長男の清太郎は小説家になりたいと言い親は諦めて若隠居させ、店は徳次郎が継ぐことになっていた。この清太郎が弟思いで、ふさぎ込んだ徳次郎に元気をつけるために花見に連れ出したりもしたが、花見の宴の最中にも徳次郎そっくりの男が現れる始末。
その花見の宴があった数日後に、清太郎が殺された。真新しい手ぬぐいで首を絞められていたのだ。しかも清太郎の家から徳次郎が出て行くのを見たという目撃者が現れた。
徳次郎にはその時刻、店にいたというアリバイがあり証人もいた。離魂病にかかった徳次郎のたましいが、清太郎を殺したのだろうか?

さみだれ坊主
他に抜ける道のない一本道に入った大泥棒さみだれ坊主が、道の真ん中で消えてしまった
さみだれ坊主と呼ばれる泥棒が市中に出没した。雨降りの夜だけに盗みを働き、現場には花札の坊主を残していくために、いつしかさみだれ坊主と呼ばれるようになった。
奉行所はやっきになって、このさみだれ坊主を追い、ある夜ひょろ松が神田雉長子町の鉄物問屋釜屋に入った後、近くの鍋弦に追い込んだ。
鍋弦とは、一本の道から斜めに分かれて、ほかに抜ける道もなく、弧を描いてもとに戻る脇道のことで、その形状からついたものだが、この鍋弦でさみだれ坊主が消えてしまったのだ。
鍋弦に一方からはひょろ松が、もう一方の口からは別の岡っ引き三河町の半次がほぼ同時にさみだれ坊主を追ったが、途中でひょろ松と半次は鉢合わせしてしまったのだ。
鍋弦の右手は小旗本の屋敷で黒板塀には鉄の忍び返しがつき門もくぐりも厳重に締まっていた。反対側に左手は町屋で商家の女隠居、めかけ、盲人の按摩、手習いを教える若い浪人、小説家などが住んでいたが怪しい者はいなかった。
ひょろ松がさみだれ坊主の後を追って鍋弦に入ったときにはさみだれ坊主の後姿が、弧の先に消えるところで、それほど近くにいたさみだれ坊主はどこに消えてしまったのだろうか

閻魔堂橋
深川油堀に身投げしようとした少女は、2日前に死んだ父親の仇を取りに地獄に行こうとしていた。少女の父親は「お閻魔さん」というダイイングメッセージを残して殺されていたのだった。
年の頃13歳くらいの娘が、深川油堀に身投げをしようとしていた。その身を助けて、事情を聞く顎十郎。
その娘お竹の父親大工の袖吉が、2日ほど前に油堀にかかる閻魔堂橋で、刺されて死んでしまった。袖吉はその日博労屋敷に立つ賭場に行き、負けて帰る途中だったらしい。長屋から迎えにきたお竹が刺された直後に来合わせて、その時に袖吉は「お閻魔さん」と呟いてお竹の腕に抱かれて息を引き取った。
泣き叫ぶお竹の声を聞きつけて事が知られ、岡っ引の調べで袖吉の体には肩や腹などに匕首でついたらしい4、5ヶ所の傷がついていたが、凶器自体は現場にはなかった。
閻魔堂橋というのは、橋の近くにある法乗院という寺に閻魔を祭る閻魔堂があることからついた名で、お竹は閻魔堂の閻魔を下手人として縛ってくれといって周囲を困らせた。
誰も真剣に聞いてくれないので、お竹は地獄のお閻魔さんに掛け合いに行こうと堀に飛び込もうとしているところを助けられたのだった。この話を聞いた顎十郎は、お竹のために一肌脱ぐことに…


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