人形佐七捕物帳8 三人色若衆
春陽文庫

「吉様まいる」や「比丘尼宿」はひねりのきいた作品。表題作「三人色若衆」は本格ミステリ仕立て、「お俊ざんげ」や「幽霊姉妹」の人情ものなど全10編。

万歳かぞえ唄
佐七が辰と豆六とともに向島から舟で両国橋に差し掛かったとき、橋の上で悲鳴が上がり叫び声とともに川に落ちてきた一人の若者。
佐七たちは若者をすぐに舟に助け上げるが、若者は深手を負っており遠くまで運べず、ひとまず両国緑町に住む辰の伯母のお源の住いに運び込んだ。
出来るだけの手当てをし、やがて若者も一色を回復したが、過去の記憶をすっかり忘れてうわごとで奇妙な数え唄を歌い始めた。その数え唄はお上のご政道を批判するようなものだが、若者の身元を知る手がかりはそれしかない。
一計を案じた佐七は、辰と豆六を万歳に仕立ててその数え唄を江戸中の往来で唄わせた。やがて薬研堀に住む伏見人形焼き幸兵衛の娘のお美乃と名乗る娘が辰たちの万歳を見て訪ねてきた結果、記憶を失った若者は伏見に住む善之助とわかった。
お美乃はすぐにお源のところにいる善之助の元へ向かったが、その途中でかどわかされてしまった。
神隠しばやり
江戸の町で立て続けに花嫁候補達が相次いで神隠しにあい、姿をくらますという事件が起きた。最初が京橋の呉服屋大和屋のお町、二人目が横山町のきさらぎ屋のお蝶、三人目が水茶屋の茶汲み女をしていたお藤。
お藤は伊豆綿屋という大きな綿屋の息子御勘六に見初められて、伊豆綿屋に嫁に行った晩に行方をくらましたのだという。ところがこの伊豆綿屋というのが親子揃って因業でいばりんぼう、近所では意地悪屋といわれるほど評判が悪い。だから伊豆綿屋から花嫁が逃げ出すのも無理はない、というのが近所の一致した見方だった。
だが、お蝶が陵辱された死体で見つかり、さらにお藤も死体となって見つかったとあっては、神隠しどころの話ではなくなってきた。
吉様まいる
佐七のところに江戸でも指折りの漆器塗り物の店紅殻屋の伊左衛門が相談にやって来た。娘のお七が妊娠し、それを知った伊左衛門がお七を強く攻めたが、お七は相手の名を言わなかった。そのうちに月が満ちて男の子を生んだが、産後の肥立ちが悪くて死んでしまった。
そのお七の枕の下から手紙が出てきて、読んでみると子供の父親は吉様ということがわかった。伊左衛門はお七を攻めた罪滅ぼしに吉様を養子に迎えることにした。
ところがその話を聞いて我こそが吉様と名乗って出てきたのが三人あった。絵草紙屋の三男坊の吉松、謡の師匠の金子吉之丞、それに一番番頭の吉兵衛の3人だった。いったい誰が本当の吉様なのか…
お俊ざんげ
上野広小路でのすり騒ぎは、すった方もすれらた方も別嬪だったから、その周りは黒山の人だかり。すられたと騒ぐほうはお幸といい、すったとされた方は名うての女すりのお俊。間に入ったのは佐七の好敵手の岡っ引き海坊主の茂平次。
結局すったとされたお幸の紙入れはどこからも見つからず、お俊は放免となったが、野次馬の中にいた佐七はお俊の後を追けてみた。すると不忍池で猿をつれた男銀之助と会い、お俊が猿を使ってすりとったお幸の紙入れを隠したことを知った。
それを知った佐七は、人情で銀之助とお俊を許したが、なんとお幸が斬り殺されて、その疑いが銀之助にかかってしまった。
比丘尼宿
本所にできた比丘尼宿、そこは売色比丘尼と遊ぶ場所だったが、そこに他の親分衆と遊びに行った佐七は、手洗いに立ったときお姫という若い比丘尼に耳打ちされた。
明日の晩の四つ半ごろに、大川端で人殺しがあるというのだ。誰が殺されるかは言えないが、目印は四つ目菱のちょうちんだという。
ところが佐七が座敷に戻ってみると、お姫はずっとそこにいたと言う。では佐七に耳打ちしたのは誰なのか。狐につままれたようだが、佐七は翌日の晩大川端に行って見ることにした。するとそこに差し掛かった四つ目菱のちょうちんをつけた駕籠が本当に襲われて…
幽霊姉妹
お城御用の材木問屋山川屋宇兵衛が向島で舟遊びの最中に舟がひっくり返って、乗っていた人々が川に投げ出され、娘のお通が行方知れずになった。
それから1年後、お通の供養をかねて宇兵衛が向島に今年も舟を繰り出し、お通の妹のお島が燈籠流しをしようとすると、少し先の舟の上に人が立つのが見えた。その人物はなんと1年前に行方知れずになったお通。
幽霊だと舟の中は大騒ぎになったが、その瞬間に再び舟がひっくり返って今度は宇兵衛の後妻のお妻と番頭の茂左衛門の行方がわからなくなった。
浄玻璃の鏡
佐七のところに相談に来たのは三味線堀の杵屋お徳という長唄の師匠。相談と言うのは浄玻璃の鏡と名乗る人物から手紙が来て、恐喝されているのだという。
佐七に見せた浄玻璃の鏡からの手紙によれば、お徳の浮気が綴られていたが、お徳によれば書かれていることは本当のことだという。あきれる佐七を尻目にお徳は、浄玻璃の鏡の恐喝めいた手紙は下谷一帯にばらまかれているという。そして浄玻璃の鏡のやりだまに挙げられた尼の月光が無残に殺されるという事件が起きた。
三人色若衆
最近、江戸郊外の染井にできた大日坊の加持祈祷所。そこでは何やら怪しげなことが行われているようだが、確かな証拠もないために奉行所も手を出せないでいた。
そんなときに佐七の幼馴染の巳之介の兄で植木屋の友造が、大日坊の祈祷所の隣の屋敷で枝から落ちて怪我をするという事件が起きた。友造ははっきり言わないが、木の間越しに大日坊の祈祷所の中で行われる何かを見たらしい。
佐七はそれを調べるべく大日坊が留守の夜に祈祷所に忍び込んだ。そこで毒殺された土佐犬の死骸を見つけたが、その間大日坊自身が近所の信者の家で毒殺されていた。
生きている自来也
かつて自来也と名乗る怪盗が江戸市中を荒らしまわったが、ある日を境にふっと消息を絶ってしまった。それから7年、ふたたび自来也が江戸に現れた。
今度の自来也は2人組で黒装束に身を包み、芝金杉に住んで刀の鑑定などをする磯貝雁阿弥のところに忍び込み、雁阿弥夫妻を縛りあげて部屋を物色しはじめた。
ところが仲間割れを起こして片方がも片方を刺し殺し、覆面の下の顔をめちゃくちゃにして人相をわからなくして逃げて行った。壁には自来也と左書きで麗々しく書き残していったが、奪ったものは鈍な刀が一振りだけ。
その後、逃げて行った自来也の片われは、隠居所から使い古した印籠を盗んだり、芸者屋の寮から芸者の簪を盗んだりとケチな盗みを繰り返すばかり…
河童の捕り物
袋物問屋の山口屋のひとり娘お糸が、ある大身の武士の嫡男に見染められて嫁入りが決まった。お糸は支度のために柳橋の寮にひきこもっていたが、あるとき船遊山に出かけた。
その帰りに川の中からかっぱが現れて、船を追けてくる。そのときは船頭が追い払ったが、その後寮の部屋にお糸を訪ねてかっぱがやってくる。お糸はかっぱに見込まれてしまったのだろうか。
しかもそのかっぱは山口屋の寮から二町ほど上手にある花井才三郎という旗本の屋敷にある応挙の絵の掛軸のかっぱが、絵から抜け出してきたらしいのだ。
といのはお糸のところにかっぱが現れた翌朝、花井の屋敷のかっぱの絵の掛軸の前が水で濡れているというのだ。
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