人形佐七捕物帳7 くらやみ婿
春陽文庫

本格仕立ての「春姿七福神」や「鶴の千番」、府中のくらやみ祭りに題材を取った表題作「くらやみ婿」、江戸の風俗も楽しめる「雷の宿」や「団十郎びいき」など全10編。

春姿七福神
正月七草、この春評判になった錦絵春姿七福神に描かれた七人衆が、船に乗って吉原に繰り込んだ。その船の中でおわんを一口飲んだ、吉原でも評判の太鼓持ち桜川三朝が血を吐いて死んだ。三朝は福禄寿として描かれていた。
調べてみると、おわんに毒が入っていた。佐七のライバル海坊主の茂平次が乗り込んだが、おわんは恵比寿様として描かれた役者の阪東松之助が、三朝のおわんと自分のおわんをすり替えたことがわかった。
松之助に言わせると、おわんに髪の毛が入っていたので、隙を見て三朝のおわんとすり替えたのだという。とするならば、毒は松之助を狙って入れられたもの。
茂平次は佐七を前に松之助を狙ったのは三朝だが、松之助がおわんをすり替えたので、自業自得で自分が死んだと述べて得意になったが…
血屋敷
菱川流は宝永のころから連綿と続いている踊りの家元で、代々が寅右衛門を名乗り当代が七代目にあたる。この七代寅右衛門は名前と違って老女であった。
独身を通したので子供がなく、幼いころにお銀という娘を養女にしていて、このお銀が筋もよかったのでやがて八代目を継ぐものとされていた。
ところがこの寅右衛門の家には幽霊が出るという噂があった。初代の寅右衛門が妾を成敗して土蔵の壁に塗り込めたとかで、ときに土蔵の壁に血で書いたようなまがまがしい人の姿が現れ、そのあとに決まって寅右衛門の容態が悪くなるというのだ。
土蔵は何度か建て替えられているのだが、この幽霊だけは出続けて、いつしか血屋敷といわれるようになった。最近になってその幽霊が土蔵に現れ、寅右衛門が寝込んでしまった。
さらに幽霊は時に夜中に姿を現した挙句に、寝込んでいる寅右衛門の枕元に立つこともあって、弟子のお千や女中のお吉にも目撃されているのだが、ついに寅右衛門が胸を突かれて殺されてしまった。
女虚無僧
佐七の女房お粂が浅草を歩いているといきなり声をかけられた。相手は油町の呉服屋喜久屋の娘でお菊と名乗り、変な奴に後を付けられているという。
変な奴とは蛇のような目をした若衆の格好をした若者で、じっとお菊のことを見ていた。お粂はお菊を連れて奥山のたぬきという出合い茶屋に入った。
そこでお菊の身の上を聞いたが、お菊は喜久屋が産ませた娘には違いないが、やきもち焼きの後妻が入ったときに里子に出されたのだという。
その後妻には子供ができず、先頃死んだのだが、こうなると実の娘に跡を譲りたいし、第一会いたくて仕方がない。人を立ててようやくお菊を探し出し、菊屋の娘に直ったという次第。
今日はお角というお菊を育ててくれた親同然の女とともに浅草寺に参詣に来て、お角とはぐれてしまったという。気がつくと若衆が後を付け回し怖くて仕方がなく、お粂に助けを求めたのだった。
お粂はそれを聞いて、お菊と衣装を替え囮となって若衆を引きつけ、その隙にお菊を逃がそうと作戦を立てた。お菊の着物を着て頭巾で顔を隠したお粂が若衆を引きつけるまではうまくいったが、逆に罠にかかって若衆に古寺に連れ込まれてしまった…
武者人形の首
5月3日の昼過ぎのこと、十軒店の人形屋山形屋にどこぞの奥女中と思われる女が人形を求めに来た。その人形とは加藤清正、弁慶に牛若丸、曽我兄弟の全部で5体の人形で、瀬戸物町の中村常山が作ったものだった。
ところが人形は全部売り切れていたが、奥女中はいくらかかってもいいからその人形が欲しいという。その態度に怒った人形屋の手代清七は売り先も教えなかった。
しかも常山は半年前に亡くなっていて、常山の人形自体手に入れることも不可能だった。その翌朝、佐七のところに山形屋で買った加藤清正の人形を盗まれたと、大工のおかみさんが駆け込んできた。
さらに曽我兄弟を買った横山町の鱗形屋に盗人が入り人形を盗んで行ったのだという。そのときに盗人が仲間割れして、ひとりが殺されてもいた。いったい常山の人形には何が…
狸御殿
酔っ払った辰と豆六が何処かの大名か大身の旗本の下屋敷に連れて行かれ、美女の姫君と凛々しい若様に酒と食事の接待を受けた。
いつしか眠くなった2人が、ふと気がつくと、寝ていたのは廃屋のような空屋敷。畳は破れ、襖はボロボロ、綿の飛び出した古布団でおまけに石の地蔵を抱いて寝ていた。
しかしよく見ると屋敷の作りも庭の造りも襖の絵も、昨夜接待を受けた屋敷にそっくり。寝ている僅かな間に豪華な屋敷がボロ屋敷に変わってしまったのだ。
近くで鼓の音がしたから2人は狸にでも化かされたのだろうということになったが、その後も同じ体験をする人間が続出。たちまちその屋敷は有名になった。
化け物屋敷
小田原町の材木問屋近江屋のひとり息子好太郎は、今年の春に縁談の相手であった蔵前の地紙問屋亀屋の娘お町を亡くしてからは、がっくりと来て幽霊のよう。
心配をした母のお篠が隅田川の船遊びに連れ出したが、その帰りにはぐれてしまい両国橋のたもとでぼんやりしていると、前を通ったのが一丁の駕籠。
何の気なしに中を見ると乗っているのはお町であった。好太郎は駕籠を追おうとしたが追い切れず、ふと足元を見ると結び文が落ちていた。
読んでみるとお町からで、本所のこれこれの屋敷に今夜忍んで来いと記されていた。それ以来好太郎は夜な夜な忍んで本所の屋敷に行っていたが、そのうちに金を持ち出すようになった。そんな話を聞いたお篠の兄の伊丹屋利兵衛は佐七のところに相談に…
雷の宿
大の雷嫌いの辰が、深川への使いの帰りにあった大雷雨。手近に見えたどこかの大店の寮に無我夢中で飛び込んで震えていたが、雷鳴が少し静まって来ると少しは周りに目が行った。
そこにはお高祖頭巾に雨合羽を着た女が一人。その女が雷に震える辰を見ながら、妹の具合が悪いので医者を呼んで来る間、留守番をしててくれと言い置いて出て行った。
そこに再びの雷鳴で、辰の方は引き受けるも何もそんな余裕はなく、ただ震えるばかり。やがてさすがの雷雨も遠ざかり、辰は屏風の向うを見ると、そこには首に紐を巻かれて絞殺された女の死体があった。びっくりした辰は佐七のもとに走り、佐七と豆六とともに寮に戻ったが、そこから死体は消えていた。
鶴の千番
お大尽の浜松屋幸兵衛、狂歌師の阿漢兵衛、浮世絵師の豊川春麿、戯作者柳下亭種貞、彫金師叶千柳の5人は芸者のお蔦を争う仲だが、いつまで争ってもきりがないということになって、5人で同盟を結んだ。
その同盟というのは5人ともお蔦から手を引く代わりに、5人のほかは誰一人お蔦に触れさせないという不思議なもの。とにかく話が成立して、5人はお蔦の座敷に集まったが、そこに紛れ込んだのが富くじ売り。
売れ残った一枚を買ってくれとの哀願に浜松屋は祝儀もはずんでくじを買い、当たったら皆で山分け、ひとり死ねば分け前が増える、全員が死ねばお蔦に残そうと勢いもあって変な同盟がもう一つ結ばれた。
何となく不吉な空気が5人の間に流れ、くじの抽選の前に叶千柳が酔って海に入り生死不明となって現実となった。その後にくじの抽選があって、浜松屋の買ったくじが千両の大当たり。
さあそれからは春麿が大川に落ちて溺死、柳下亭も川にはまって死に、と次々に5人の仲間が死んでいった…
くらやみ婿
神田錦町の呉服屋甲州屋の娘お松は子供のころから体が弱く、府中の方に養生に出されていたが、そこで玉木新三郎という浪人者と知り合った。
知り合ったというより、お松は新三郎に一目惚れし、新三郎の方もまんざらでもない様子であった。やがてお松は新三郎から文をもらった。府中の暗闇祭りの夜、庚申堂で待っているというのだ。
祭りで真っ暗闇になったなか、お松は庚申堂に忍んで行き、そこにいた男と契り、そして妊娠した。驚いたのは甲州屋だったが、妊娠したのは仕方がないとあきらめて、相手を探すことにした。相手がしっかりした男なら、身分の違いには目をつぶって夫婦にしようと考えたのだ。そして相手捜しを佐七に依頼した。
佐七が調べてみると、玉木新三郎というのは昔江戸にいた悪党の新三のことで、浪人者とは真っ赤な嘘。だが、暗闇祭りの夜の新三にはアリバイがあった。布田の町で喧嘩をし牢に入れられていたのだ。
ところがこの話を聞いた新三は、お松と契ったのは自分だと、甲州屋に乗り込んできた。いったい、お松が契った男とは誰なのか…
団十郎びいき
市村座で初顔合わせをする二大人気役者の市川団十郎と中山歌七。ところが芝居の番付に双方の贔屓筋からクレームがついて初日があけられない始末。
贔屓筋といっても団十郎側は魚河岸の顔役伊豆寅、一方の歌七の方は道中師の浜辰で、どちらも血の気の多い連中を引き連れているから下手なことはできない。
さてそんなとき団十郎贔屓の伊豆寅の妾宅に賊が入った。妾宅は団十郎づくしの作りで、人形や衣装も団十郎ゆかりのものばかり。それらがめちゃめちゃにされ、団十郎の暫の博多人形が盗まれた。
伊豆寅は浜辰の仕業に違いないとして、殴り込みをかけると息巻いている。それを聞いた佐七は市村座の帳元からも頼まれて、伊豆寅のところに向った。
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