人形佐七捕物帳6 坊主斬り貞宗
春陽文庫

戦争の為に3年ほど中断した人形佐七の戦後第一作が「銀の簪」、さらに「夢の浮橋」「藁人形」と続く。「銀の簪」では幕府の改革で佐七は十手を返上し、3年ほど旅をして再び復帰したことに。表題作「坊主斬り貞宗」は昭和17年の人形佐七捕物百話刊行の際の書下ろし作品。

銀の簪
幕府の改革で佐七を贔屓にしてくれていた与力神崎甚五郎が失脚し、厭気がさした佐七は十手を返上、江戸を出て旅の毎日。3年ほどして改革が頓挫し、甚五郎は返り咲き佐七も江戸に戻って再び十手を預かった。
その矢先にお粂が馬喰町の振袖稲荷のそばでかんざしを拾った。当時流行したひさごのかんざしであったが、そのかんざしには血が付いていた。夜のこととて、それに気付かずに持ち帰り、翌日気がついたのだ。
聞けば、暗がりから男が飛び出して来てお粂にぶちあたり、そのときにかんざしを落としたらしい。最初はお粂のかんざしがはずみで落ちたと思ったのだが、その日お粂はかんざしを差さずに出かけていて、男が落として行ったものと思われた。
佐七はお粂を連れて現場に行った。すると物陰に女の死体があった。首の後ろにはポツンと血の跡。かんざしを首に刺して殺したらしい。お粂が昨夜ぶつかったのは犯人で、ちょうど女を刺し殺した後、飛び出してきたところだったのだ…
夢の浮橋
佐七が江戸を出ていた3年間、辰と豆六はそれぞれ故郷に帰っていた。佐七が復帰して辰と豆六に飛脚をたてたが、いつまでたっても帰ってくるどころか、手紙一つよこさない。
そう思っているところに辰が帰ってきた。久しぶりの再会に積もる話の佐七とお粂と辰だが、辰は土産だと言って女帯を出した。高そうな帯だが、ぐっしょりと濡れて赤黒い血の跡もある。
実は江戸入りしてすぐ、大川で上がった帯で、持主までわかっているという。浅草の紙問屋紙宇の箱入り娘お光のものだった。お光は昨夜この帯を持って家を出たきり戻らなかった。
そうこうするうちに帯が上がり、そしてお光の水死体が上がった。ところが死体には帯がしっかり結んである。いったいお光はなんで帯など持って出たのだろうか…
藁人形
芸者お蔦の弟で役者の民之助が殺された。お蔦と民之助の父親は人気役者の中村歌五郎といったが、10年ほど前に若くして死んだ。後を継いだのが民之助だったが、役者をやめたいと言いはじめていた。
もともと気弱な民之助をお蔦は説得して帰したのだが、その夜に何者かに首を絞められたのだ。お蔦が佐七のところに駆け込んで訴えた犯人は市川吉十郎。
吉十郎の亡父も役者で、歌五郎と熾烈な人気争いを演じた吉左衛門といった。お蔦がいうには、父親時代から敵同士、舞台の上でいじめるだけでは満足せずに、ついに吉十郎が民之助を手に掛けたというのだった。
夜毎来る男
表向きは医者だが裏では高利貸し、血も涙もない取立てで細民から搾り取ることから人呼んで蛭の久庵という男。ある夜、火事で久庵夫妻と下男の銀造が焼死した。放火であった。
犯人はわかっていた。源兵衛という夜鷹そばやだった。源兵衛は久庵に金を借りたばかりに子供は捕まり、妻は死にして一家は壊滅、久庵のことを恨んでいた。
源兵衛は久庵一家が死んだ夜、大川に身を投げて死んだらしい。そしてその翌年の5月のこと…
両国の並び茶屋にお鈴という女がいた。実はお鈴は久庵の一人娘で、火事の夜には乳母の病気見舞いに行っていて助かったのだが、人の噂に絶えられずに行方をくらまし、名を変えて茶屋勤めをしていた。
そのお鈴目当てに毎夜頭巾をかぶった男がやってきた。その頭巾の男はちょいと顔を出すだけだが、その後をお店者らしい若い男がつけていく。これも毎夜のこと。さらにそれから暫くすると田舎者の商人がやって来る。この商人は顔は二目と見れぬご面相だが、お鈴にぞっこんで結婚を迫っているのだった。
ある夜、深川の荒れ寺西念寺の前から籠屋がお鈴を乗せたという。お鈴が降りた後店じまいをして戻ると、籠の中は血がべっとり。話を聞いた佐七が西念寺に行って見ると、そこは人殺しがあったように血で汚れていた。
離魂病
佐七が二人いる。あちこちで佐七が目撃されたが、いずれも佐七には身に覚えのないことばかり。最初は笑っていた佐七も、しまいには考え込み離魂病ではないかと言い出す。
そして佐七が人を殺したと訴えが出た。蔵前の大きな質屋伊豆屋の隠居お絹を佐七が殺したと訴えられたのだ。伊豆屋のお絹と佐七はこのところわりない仲になっていたと言う。
2人の女中やお絹の甥の金蔵は犯人は佐七に間違いないといい、与力神崎甚五郎も証人があっては、佐七を捕縛してしまった。
風流女相撲
評判の女相撲の両横綱は葛城と藤の花。ところがこの2人、土俵の上だけではなく普段から仲が悪い。勧進元でも手を焼いて、ある夜2人を招いて料理屋で手打をやった。なんとか打ち解けてお開きとなり、葛城が駕籠で帰り、続いて藤の花が帰った。
その藤の花の駕籠が襲われて、藤の花が殺された。しかも毒を飲まされたうえに刺され、おまけに豆絞りの手拭いで首を絞められていた。いったい藤の花は何で死んだのか?犯人はなんでこんな手のかかることをしたのか?
坊主斬り貞宗
身延山へお参りし、甲州街道を江戸に戻る佐七と辰と豆六の3人。今日は笹子峠にかかろうというとき、3人を坊主が追い抜いていった。その足の早いこと早いこと、とても佐七たちでも追いつけない。
峠に出ると坊主の姿はとうになく、代わりに侍が刀を抜いた格好でひとり呆然と突っ立っている。聞いてみると、いきなり坊主が来て刀に手をかけたので、無礼者と抜刀し坊主に斬りつけたが、その時にはもう坊主の姿は消えていたという。
その侍は永瀬隼人といって、甲府勤番から帰る途中で、持っていたあ刀は甲府で求めた貞宗という名刀だったが、これまでに何人もがこの刀で斬られているというのだ。
その中には坊主もいて、永瀬は坊主の恨みが幻覚を見せるのではないかと考えたが…
風流六歌仙
そのころ江戸の芸界を睥睨していたのは風流六歌仙という人々。狂言作者の桜田晴助を筆頭に、絵かきの宮川采女、俳諧師の葛野蝶雨、落語家春風亭扇馬、幇間桜川鳶平、柳橋の芸者お駒の6人だ。
パトロンとして付いているのは茨木屋鵬斎というお大尽。この6人の勢いはすさまじく、逆らったり睨まれたりしたらたちまち干され、二度と世の中に出られなくなる。
6人に睨まれたがために落ちぶれる者数知らず、中には自ら命を絶ったり憤死したりした者もいた。さてこの6人に茨木屋が新たな趣向を持ちかけた。
6人を錦絵にしてそれを鳩に結びつけて飛ばし、数日のうちにえを集めて持って来たものに賞金を出そうという。鳩歯はどこに飛んで行くかもわからない。皆血眼になって探し、それが宣伝にもなるというもの。
まことお大尽の遊び、と大川に浮かべた船の上から一斉に6羽の鳩を放ったまではよかったが、翌日まず鳶平が胸を刺されて殺された。鳶平の錦絵が一緒に刺されていた。
さらに蝶雨、采女も同じく殺され、やはり本人の錦絵が血にまみれていた。錦絵には茨木屋の落款が押されており、この世に1枚しかない。いったい犯人はどうやって鳩を集めて、小道具に使ったのか…
緋鹿の子娘
永代橋の上で豆六にぶつかった娘。様子を見ると気がふれているようだ。そのうち橋から川へ飛び込んでしまった。泳げもしないのに助けに行った豆六は、逆に相手に助けられた。
その娘こそお艶という少し前まで江戸一番の人気を誇った美女。お艶はライバルのお葉と争って勝ったが、2ヶ月もしないうちに男に弄ばれた。
お艶を弄んだのは吉之助という男だが、この男は凶状持ちのくせに若旦那と偽り、さらにそれを密告されたのだ。信じてきた吉之助に裏切られたお艶は気がふれ、市中を徘徊するようなったのだ。
川に飛び込んだお艶の着物は、豆六が抱きついたために破れたが、よく見ると血がべっとりと付いていた。しかも吉之助は島から抜けたという。そして大川沿いの藪の中から、お葉の死体が見つかった。
本所七不思議
本所には有名な七不思議があったが、最近急に有名になったのが新本所の七不思議ともういべき新たな怪異。官女屋敷、首洗い井戸、子を取ろ池、たぬき地蔵、鳴らずの鐘、振そで稲荷、七つちょうちんがそれだ。
たぬき地蔵ではたぬきの鼓が聞こえ、子を取ろ池では子を取ろと不気味な声が聞こえ、鳴らずの鐘はいくら鐘守が撞木をついても鐘がならないという具合だ。
そんな怪異が人々の噂に上り始めたころに、首洗い井戸で願人坊主の鉄牛の死体が見つかり、次いで子を取ろ池では唐人飴売りの鷺十郎が、たぬき地蔵では座頭の富之市が殺された。どうもそれぞれのいたずらの犯人は死体の主らしいが、いずれも腕に七つ星を描いた刺青をしていた…
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