人形佐七捕物帳5 春宵とんとんとん
春陽文庫

名作として名高い「春宵とんとんとん」や「雪達磨の怪」のほか、予告殺人の「まぼろし小町」、人間消失の「黒蝶呪縛」、人情ものの「蛇使い浪人」など全12編。

春宵とんとんとん
雪が降る凍てつく寒い夜、油町でも名代の大店、叶屋の離れ座敷に忍んできた一人の男。その男はとん、とん、とんと3回裏木戸を叩いたが、それが逢引の合図であった。
頭巾で顔を隠していたが、男の正体は御家人丹野丹十郎、乳母の手引きで叶屋の娘お染の待つ離れの座敷に入った。
丹野丹十郎という男は札付きの悪人であったが、なぜかお染は惚れていて何度か離れに忍んで来ていた。実はお染も内心では手を切りたがっていたのだが、女の体が言うことをきかなかった。
その夜も雪が降りしきるなか、お染は丹十郎を何度も受け入れて時間を忘れ、丹十郎が帰る頃には雪がやんでいるほどだった。
その丹十郎が叶屋からさほど離れていない火除け地の側、どぶに頭を突っ込んで死んでいるのが見つかったのは翌朝のことだった。そして丹十郎の手にはお染の赤い手がらが握られていた。
三河万歳
謡と鼓の師匠をしている宮部源之丞という浪人者が正月早々殺された。裏長屋の現場はあさましく、源之丞は浴衣一枚で帯も締めず、ふんどしも外されていた。
ふんどしで後ろ手に縛られたうえに、繻子の伊達巻をふんどしの結び目に通して床柱に源之丞を結いつけてあった。左の胸に脇差が突き立てられていたが、脇差には今ひょうばんの黒門町の生薬屋茗荷屋の娘お美乃の浮世絵が突き刺してあった。
一晩家を空けていたばあやのお紋によると、長屋への路地を入って来たときに三河万歳の太夫とすれ違ったという。しかもその太夫は昨日も来ていたらしい。
それを聞いた佐七はさっそく三河万歳を探そうと動き出したが、その前に死体をもう一度改めると、死体の下からかんざしが転がり出た…
蝶合戦
どういう天変地異なのか、向島に白と黄色の蝶の大群が乱舞しての大合戦。ひごとに舞う数が増えてきたから、これが評判にならぬはずはなく、今では合戦を目当てに物売りやら興行師やらが出る始末。
佐七と辰、豆六の一党も大きな事件がないのをさいわい、蝶合戦の見物と舟を乗り付けた。そこで豆六が若く美しい狂女に、美女丸という男に間違えられて付きまとわれた。
聞けば、この狂女は最近になって道行く男を捕まえては美女丸、美女丸と騒ぎ蝶合戦同様名物になっていた。その狂女が言った夜舞う蝶に光る蝶がいるとの言葉を聞き咎めた佐七。
不審を感じて気をつけていると、狂女の死骸を詰めた柳行李が新大橋のたもとに流れ着いたから、いよいよ佐七の正式な出番となった。
女難剣難
このころのラブホテルである出会い茶屋で、女芝居の役者染八の死体が見つかった。何度かこの出会い茶屋を利用している染八は、前日の夜やってきたという。密会相手は武士。
武士が先に来ていて、しばらくして染八がやってきた。2人とも頭巾で顔を隠していたから、武士の方は顔形がわからないが、染八の方は何度も利用しているので姿形から正体がわかったという。
2人は1時間ほど一緒にいて武士が帰り、そのときに女は気分が悪く泊まっていくと言い置いていた。翌朝に茶屋の人間が染八の死体を発見したのだった。
染八はほとんど裸で殺されており、服も凶器も持ち去られていた。犯人は武士に間違いないのだが、どうも武士の正体は佐七が面倒を見てやって浅草に占いの店を出させた白雲堂という浪人らしい。
まぼろし小町
お高祖頭巾の女が佐七の家に文とともに3枚に錦絵を投げ込んで行った。錦絵は若手第一といわれた鳥居清彦が書いた風流三小町で、モデルは芸者お喜多、水茶屋のお仙、矢取り女のお蝶。
ところが3枚に錦絵はそれぞれ顔の一部がくり抜いてある。お喜多はくちびるを、お仙は目を、お蝶は鼻を、そして文には「この3枚の錦絵の謎を解いてみろ」と書かれ、最後にはまぼろし小町と名が入れてあった。
まぼろし小町とは風流三小町と同時に発表された、すこぶるつきの美人の錦絵で、「故あってこの美人のみ名を秘す」とただし書きがされ、それをもってその錦絵はまぼろし小町といわれていた。
その直後お喜多が殺され、くちびるがえぐり取られていた。さらにお仙が行方不明になり、目をくりぬかれた死体となって見つかった…
蛇性の淫
きんちゃくの辰の伯母お源の同僚の娘、お勝が行方不明だという。お勝は山下の茶屋藤屋に勤めていたが、可内という鎌鬚の奴を連れた松若と名乗るきれいな小姓にどこかに連れ出されたらしいという。
松若という小姓は何回か藤屋に現れて茶だけを飲んで行ったが、明らかにお勝のことを意識していたという。この話を聞いた佐七はさっそく行動を起こすが、お松という天神下の生薬屋甲州屋の娘が、やはり美貌の小姓に連れ去られたと知る。
さらに美貌の小姓の幽霊が、かつては大店の寮であったが、今ではh使われなくなって荒れるに任せ、近所では化け物屋敷と噂される根岸の荒屋敷に出没するとの話を聞きこんで…
猫屋敷
三百石取りの旗本緒方伊織は役もつき、先代の心がけもよかったので内福であり、伊織本人も勤勉であり申し分はなかったが、唯一の欠点が猫好き。
とにかく一時期は猫が20匹以上も住み着いていたと言うから異常というほかはなく、これが原因で結婚もできなかったし、近所の評判も悪かった。
その伊織のところに嫁に行ったのが仙石十太夫の妹萩江で、萩江は伊織の猫狂いをやめさせると意気込んでいた。そしてある日のこと、萩江の努力の甲斐あってか伊織は20匹の猫を袋に入れて川に捨ててしまった。
これには周囲も驚いたが、伊織はその日から人が変わったようになった。半病人のようになり、しまいには猫が取り付いたようになった。
奉公人もやめていき、真面目で勤勉だった伊織が仕事を休むようになった。そしてある夜ついに事件が起きた。半狂乱になった伊織が最後に残った用人を斬り殺し、萩江にも切りかかって傷を負わせたうえ、自身は川に身を投げたのだ。
蛇使い浪人
萩原六平太は蛇を使った大道芸を見せているが、れっきとした浪人だった。腕も相当なものらしく、ある夜に吉原の土手で不良折助に襲われた女の子おきんを助けたことがあった。
それ以来おきんは六平太になついて、女房も及ばぬようなかいがいしい世話を焼いた。世間ではそれを知っており、芸をやっている六平太のところにおきんが来ると、日本一の世話女房などと冷やかした。
さて、夜中の小塚原を御用を終えた佐七と辰、豆六の三人が歩いていると、ピカっと光った稲光に、つづらを担いだ男の姿が浮んだ。
怪しい奴と取り押さえ、つづらを開けてみるとおきんの死体が出てきた。そしてつづらを担いでいたのは六平太。さらに六平太の長屋にはおきんが殺された痕跡があった。
常識的に考えれば六平太はおきんを殺し、死体をつづらに入れて始末しに行くところを佐七たちに捕まったということになるのだが…
狐の裁判
佐七のもとにやってきた人気役者歌川歌十郎のおかみさんお縫が差し出したのは、素焼のきつね。今度の狂言で12人の子役がきつねをやることになり、無事を祈ってお稲荷様に子役12人がきつねを納めたのだが、そのうちのひとつ千代太郎が納めたものが眉間を割られたというのだ。
千代太郎は歌十郎とお縫の子供で、座頭の子とあって楽屋でも大威張り、ほかの子役たちをいじめて顰蹙をかっていた。だが、お縫にすればわが子可愛さ、心配になって相談に来たという訳だった。
それが現実になった。舞台できつねの子役が背中から匕首を刺されて殺されたのだ。だが、殺されたもは千代太郎ではなかった。その弟の梅丸。
梅丸は千代太郎とは兄弟ながら性格はまるで違い、やさしく皆に慕われていたが、千代太郎からは逆に邪険にされていた。ぬいぐるみのきつねを着た子役たち12人、人違いで殺されたのか、それとも本当の狙いが梅丸であったのか…
どくろ祝言
王子への使いの帰りに根津の清水谷に差し掛かった辰と豆六は、そこの浪人萩原作之進の屋敷の変な噂を聞いた。作之進とその妻は相次いで流行病で死亡し、娘の深雪が唯一人残された。
その深雪が六本指の骨なし子を生んだ。幸いというか不憫というか死産であったが、深雪はショックを受けて自ら座敷牢に入って、用人の安達十右衛門夫妻以外には誰にも会わず、食事もほとんどとらないという。
これを聞いて心配したのが地元の親分五郎三郎で、屋敷に押しかけて深雪に合わせろと直談判するが門前払い。噂によれば深雪が生んだ六本指の骨なし子の父親は五郎三郎らしいのだが…
黒蝶呪縛
白井弁之助という旗本に嫁入りすることになった山吹屋善吉の娘お綾。直接町家の娘が旗本のところへ嫁入りできないので、いったん白井家の親戚の服部十太夫の養女となって嫁入りすることになった。
仮親十太夫、仲人夫妻にお綾の乗った4丁の駕籠が夕刻、十太夫の屋敷を発って白井の屋敷へ向かったが、途中で折悪しく八幡様の祭りにぶつかった。
祭りの酒に酔った連中が花嫁行列を冷やかし、駕籠が逃げ回る。お綾を乗せた駕籠は一時路地に避難して、駕籠かきが路地の外で酔っぱらい連中を追い払い、ほうほうの態で白井の屋敷に着いた。
ところが白井の屋敷で駕籠を開けてみると花嫁の姿はかき消え、手頃な石と脱ぎ捨てられた花嫁衣裳が残っていた。消えたとすれば、祭りの連中とトラブルになった時しかないのだが、そこから出立するときに駕籠の外から声を掛けると中からは確かにお綾の声で返事があり、それを4人とも聞いていたという。
ここに花嫁消失事件は江戸の大評判になり、困り果てた十太夫は佐七のところに相談に来た…
雪達磨の怪
雪の降り積もった朝、雪達磨に寄りかかるようにして死んでいる若い娘の死体が見つかった。凶器は盆のくぼに突き立てられた銀のかんざし。
そして不思議なのは雪達磨に近づいた足跡が、死んだ娘のもの1つだけであったこと。誰がどうやってその娘を殺したのか?事件はそれで終わらなかった。
次に雪が降り積もった朝、同じように若い娘が雪達磨に寄りかかるようにして死んでいたのだ。凶器はやはりかんざしで、同じように雪達磨のところに向かった娘の足跡しか残っていなかった…
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