人形佐七捕物帳2 遠眼鏡の殿様
春陽文庫

表題作で、遠眼鏡で殺人を目撃する「遠眼鏡の殿様」や「石見銀山」同様に江戸版帝銀事件とでもいう大量毒殺を扱った「たぬき汁」、ユーモア溢れる「白羽の矢」、人情味溢れる「雛の呪い」や「雪女郎」、不可思議な謎の「冠婚葬祭」、トリッキーな「福笑いの夜」など全12篇。
屠蘇機嫌女夫捕物
佐七とも関係がある水茶屋のお亀の兄の弥七が毒を盛られて殺された。越後獅子の被り物をつけて、歩いていた佐七の女房のお粂に抱きついてきて息絶えたのだった。
そのときに弥七は真っ赤な折鶴を取りだして、これをお亀に渡してくれるようにお粂に託した。ちょうどそこへ来合わせた医師玄徳の代脈の玄骨が毒を盛られたと騒ぎ出した。
ところが弥七の通夜の夜、玄骨がお亀のところに忍んで来た。どうも2人は出来ている様子だったが、なんとお亀は玄骨に薬を盛って眠らせたうえ、家を忍び出てどこかへ消えた。ちょうどそのころに玄骨のところでは玄徳とその妾のお夏が枕を並べて殺されていて…
福笑いの夜
松坂町の路地の奥にある如来堂に住むのは、30歳過ぎの有髪の比丘尼で、名を妙椿といった。加持祈祷で生計を立て、器量もいいから結構名が通っており、最近は遠くからも加持祈祷を頼みに来るほどだった。
正月8日、雪の積もった如来堂前、近所の男2人が雪かきを始めた。もちろん妙椿の気を引くためだが、妙椿の飼い猫が屋根から飛び降りてきたのを見てビックリ、なぜなら猫は血にまみれていたからだった。
驚いて如来堂を開けて見ると、そこには妙椿の生首がポツンと置かれていた。生首は目隠しをしており、そばにはやりかけの福笑いがあった。
さらに血だらけのたらいと鋸。どうも犯人は福笑いに興じていた妙椿を殺し、頸をたらいの中で切り落として、胴体をどこかに持ち去ったらしいが…
雛の呪い
横山町の資産家で名高い尾張屋の亭主は四郎兵衛、娘はお町といったが20年前に男ができて家出し、勘当された。その男というのが美濃の人間であったために、以後尾張屋では美濃出身者は奉公人に雇わないことになった。
お町はひとり娘だったために、四郎兵衛は姪のお鶴とお亀を引き取って育て、最近はお亀を贔屓にしてゆくゆくは身代を譲ろうとまで考えるようになった。
ひな祭りの夜、白酒を飲んだお鶴とお亀、四郎兵衛の3人が気分が悪くなった。命に別状はなかったが、念のためと残った白酒を猫に舐めさせると、たちまちのうちに毒死してしまった。誰かが尾張屋一家の命を狙っているらしい。
それから少しして、尾張屋の座敷に飾られていた尾張の殿様から拝領した雛人形が踊りだし、女の幽霊が出るという噂がたった。この話を聞いた佐七が尾張屋に乗りこむと、今度はそれを待っていたように、お亀が清十郎という生薬屋の若旦那と駈け落ちし、心中するという事件が起きた。
すっぽん政談
両国橋を挟んでいがみ合うまんじゅう屋の花形屋と月形屋。どちらもいく代餅という餅を名物として売り出し、こちらが本家だ元祖だと争いだし、訴訟騒ぎにまで発展する始末。
奉行まで乗り出し、月形屋は本家、花形屋は元祖ということでけりをつけて、お墨付きまで与えた。ところがここによくある話で、花形屋の娘のお小夜と月形屋の息子栄三郎が親の目を忍ぶ中になってしまった。
お互い家の宝となっている奉行からのお墨付きを持ち出して駈け落ちとなったが、なぜか持ち出したお墨付きが途中ですっぽんに化けて、2人とも指を喰いちぎられてしまった。
指を喰いちぎられた2人は行方不明になってしまい、佐七のところに捜索の相談が来たが、その直後にお小夜が花形屋にふらふらと戻り主人の万右衛門を刺して再び逃走、一方月形屋でも栄三郎が同じようにふらふらと戻って来て女主人のお梶を刺して逃げた。
万右衛門もお梶も命に別条はなかったが、事件はますます評判を呼んで大騒ぎに…
五つめの鍾馗
佐七のもとに訪ねてきたのは緒方十右衛門という、さる屋敷の用人。1年前に殿様に待望の世継が誕生し、殿様は節句の祝いに鍾馗様の人形を彫らせ、その眼に家宝の夜光珠を入れることにした。
その人形に関する全てを任されたのが十右衛門で、十右衛門は一流の人形師釘屋藤兵衛を訪ね、鍾馗人形の作成を依頼し、夜光珠を預けてきた。
その人形が出来上がって来たのはいいが、よく見ると眼にはめ込まれたのは精巧な偽物。おまけに藤兵衛は仕事場で何者かに手拭いで絞殺された。
娘のお路が第一発見者だが、その時藤兵衛にはまだ息があり、「五つ目の鍾馗様の…」とお路に言って、こと切れた。調べてみると時節柄藤兵衛は鍾馗の人形制作をいくつか請け負っていたが、その数は十右衛門からのものも含めて4つ。死に際に藤兵衛が言った5つ目はどこにもなかった…
遠眼鏡の殿様
浅草待乳山に隠居する元幕府の勘定方をつとめた赤松源之丞は、その屋敷の高殿に遠眼鏡を据え付けて、市中の様子を覗き見るのが楽しみだった。
源之丞は佐七とも懇意にしていたので、ある晩佐七と辰と豆六を呼んで酒肴でもてなし、数日前の夜に隅田川で逢引していた屋形船に矢を射かけていたずらした話を余興代りに披露した。
それを聞いて辰が調子に乗り、遠眼鏡で川を見つめると、提灯を吊った屋形船が一艘、そこに侍風の男が乗り込んだがすぐに出てきて、船の方に戻ってきた船頭を突き飛ばして逃げて行った。
船頭は文句を言いつつ起き上がり自分の船へ、するとすぐに血相変えて飛び出してきた。船の中には胸に矢が刺さった女の死体が転がっていたのだった。
白羽の矢
市中のあちこちの大店に白羽の矢が突き立つという事件が起きた。矢が突き立つと、数日後その店の娘が何者かにかどわかされる。
ひと気のないところでさらわれ、立派な駕籠に乗せられてどこかの屋敷に連れ込まれるのだ。屋敷では何をされるわけでもないのだが、人によりひと晩、二晩、あるいは三晩いることもある。
その間御簾内から何人かに観察され、それが済むと白絹の一反を持たされて、最初にかどわかされた場所で駕籠を下されるのだ。その娘というのが、いずれも何々小町というほどの美女ばかり。
逆に白羽の矢が立てられた方の家では、戦々恐々の有様であった。そしてある朝、広徳寺前の仏具屋に白羽の矢が立った。だが、驚いたことに仏具屋に娘がいることはいたが、二度と見られぬ醜女。
名はお福というが誰も福とは言わずおふぐと呼ばれる、縦より横のほうが広いというとんだ大町娘。こんな娘だから、白羽の矢が立ったと大喜びで、毎晩着飾ってわざわざひと気のないところを歩く始末。
人々は白羽の矢は何かの間違いではと噂しあったが、驚いたことにこのおふぐがかどわかされしまった…
猫姫様
大雷雨の後に雷が落ちた柳原の堤で猫と帯と男の死体が見つかった。死体の男は遊び人風で、血濡れた刃物を握っていたが、雷に撃たれて死んだようだった。
帯はどこかの屋敷の、しかるべきお女中がするような上物、猫は真っ黒なからすねこだが、これがまた金ピカの衣装を着せられたうえ、その喉を切り裂かれて死んでいた。やがて、噂を聞いてやってきた船頭の松太郎。
帯を見るなり姉のものだと言い出した。松太郎の姉の藤は猫好きで、ひょんなことから森丹波守の姫のところに奉公に上がった。その姫もまた大の猫好きで、藤は姫のお声が借りで中老となり、その名も藤波と改めた。
藤波となった藤が姫の用事で外出し、その帰り道に久々に船宿によって松太郎に会ったのだが、そのときにしていた帯だというのだ。
しかも藤はそのときに金ピカの衣装を着た真っ黒な猫を抱いていたというから、もう藤の身に何かあったに間違いない。佐七が付近を調べると、さらに近くの木のうろから小判が現れた。
しかもその小判、両替商によると真っ赤な偽物だという。偽小判と藤の一件、どうも繋がりがあるような気がしてしょうがない佐七だったが…
たぬき汁
本所割下水にある榊原屋敷は、この界隈でも鼻つまみの屋敷だから、その中間部屋は山賊の巣のようなものだった。その山賊の巣に性懲りもなくやってきた酒屋の手代忠七、身の程も顧みず売掛を回収に来たのだ。
居合わせた9人の折助だが、もとより金など払う気もない。忠七をいたぶりながら酒を飲み、たぬき汁が煮えるのを待っている。
部屋の隅には主人榊原伊織の従兄弟にあたり、伊織に道楽を覚えさせた張本人の伊原大二郎が、やはり酒を飲みながらさげ重の女を抱きよせている。
やがてたぬき汁が煮え、折助たちが我先に手を出したが、すぐに一人、また一人と苦しみだして血を吐いた。結局9人全員が死んだ。
毒によるものであることは明らかだったが、榊原家では世間を憚って食中毒と言うことにして事件に蓋をした。このときはこれで済んだが、この事件のほとぼりのさめる頃、今度は酒宴の席でお銀というお部屋さまが同じく毒を盛られ血を吐いて死んだ。
中間部屋のときは全員が同じ鍋からたぬき汁を食べたが、今度は同じものを食べた中でお銀さまだけが毒殺された。こうなるとさすがに蓋はできずに、榊原家の用人が佐七の所に事件の解明を依頼してきたのだった。
冠婚葬祭
地紙問屋扇屋と綿問屋五月屋はともに大店で、浅草馬道で隣同士だった。偶然から同じ晩に扇屋では婚礼が、五月屋では葬式が行われた。
扇屋の跡取り与之助とあずま屋という錦絵店の娘お咲の祝言が行われているころ、となりの五月屋の強欲な女主人お鉄の遺体が入った棺桶が五月屋を出て小塚原の焼場に向かった。
祝言も葬式も済んで、扇屋では与之助とお咲の新枕。2人は床にはいり行燈の灯を消して、というときに近所で小火があった。
よせばいいのに与之助は雨戸をあけて外に出て様子を見に行ったが、番頭に見とがめられて床に戻ってきた。さて改めとお咲の体をまさぐったが、どうも様子がおかしい。
灯をつけてみると床に入っていたのはお咲ではなく、焼場へ行ったはずのお鉄の死体。婚礼と葬式がごちゃまぜになってしまったようだ。
どもり和尚
寒松寺の和尚了泰が法話の最中に突然どもりになった。それも寺の大檀家である茨木屋幸兵衛が、座敷に入ってきたのを見た途端であった。それ以来和尚は気分がすぐれないといい、弟子の了念が法話を変わる始末。
この話を辰の伯母で、両国の見世物小屋で三味線ひきをしているお源から聞いた佐七は、茨木屋が関係していると知ると興味を示した。
というのは、茨木屋の2人の娘のうち姉のお町が大川端で殺され、その下手人が挙がっていなかったからだった。お町は無残にも左腕を一刀のもとに切られ、腕のない死体は大川に投げ込まれた。
切り落とされた左腕は、なぜかどこからも見つからず、現場には誰かが隠れていた形跡があった。調べてみると茨木屋の家庭はかなり複雑で、お町も幸兵衛の本当の子供ではなかった。
雪女郎
雪が降り続く中、碇床に入ってきたのは白無垢の振袖を着けた、幽霊のような女。碇床の親方弥七は、その女を招き入れると小僧を追い出してしまった。
小僧の方は銭湯で体を温めて、戻ってくるとそこには弥七が虚空を掴んで倒れていた。弥七は既に虫の息で、「雪女郎に気をつけろ」と言い残してこと切れた。
弥七の最後の言葉によれば、訪ねて来た女はこの世のものではない雪女。佐七が゙調べてみると、お雪という女が暫く前に白無垢の振袖を着て大川に飛び込んで自殺した事件があった。
このお雪は丹三郎という呉服屋加賀屋の若旦那と縁談があったが、祝言寸前に加賀屋から破談された。その破談の理由はお雪に男があったからとうのだが、まったくの事実無根。この事実無根の噂を流した張本人が弥七だというのだ。死んだお雪が雪女郎となって、弥七に復讐を遂げにきたのだろうか…
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