人形佐七捕物帳1 ほおずき大尽
春陽文庫

人形佐七捕物帳の第1作「羽子板娘」や名作「ほおずき大尽」など全12篇。「羽子板娘」はクローズドサークルを、「石見銀山」は江戸版帝銀事件とでもいう大量毒殺を、「双葉将棋」は将棋を使った暗号を扱い、さらに「ほおずき大尽」は赤毛のレドメインの捕物帳版。「開かずの間」では子分にきんちゃくの辰が、「蛍屋敷」では同じく豆六が加わるほか、「嘆きの遊女」では吉原絶世の花魁だった東雲が佐七の女房に…
羽子板娘
小石川の小料理屋辰源の娘お蝶は、深川境内の水茶屋の娘お蓮や神田お玉が池の質屋紅屋のお組とともに江戸三小町と呼ばれて、羽子板にまでなった評判の娘だった。
そのお蝶は大工の紋三郎といい仲になって、親の目を盗んで忍び会っていた。紋三郎が住み込む棟梁の家の物干しから、鏡を使ってお蝶の部屋に合図を送ると、お蝶はいそいそと出かけていくのだ。
その夜も、紋三郎からの鏡の合図があってお蝶は出かけたという。これは女中頭のお市が見ていた。そして、そのままお蝶は帰らなかった。稲荷の境内で乳の下をえぐられて殺されていたのだ。
その死体の上には首のところで2つに切られたお蝶の羽子板が乗せられていた。実は、お蓮もその前に大川に落ちて死んでいて、お蓮の水茶屋に首を切られたお蓮の羽子板が投げ込まれていた。
そしてこの噂が広まったとたんに、今度はお組の行方がわからなくなった。
開かずの間
品川の遊女屋福島屋では、雛祭りの日に一番の売れっ奴かしくが飲まされたのか自分であおったのかはわからないが、毒にあたって死んでしまった。
かしくは沼津の煙草屋駿河屋が身請けし、その正妻に納まることも決まっていた。その日も駿河屋が来て最後の手続きを済ませ、駿河屋は夕方から江戸へ行き、所用を済ませた2,3日後にはかしくを引いて沼津に向かう予定だった。
もちろんかしくに否やもなく、幸せいっぱいなはずであった。かしくの謎の死から福島屋ではかしくの死んだ部屋を開かずの間として封印、命日でもある雛祭りの時にだけ開いてひな人形を飾ることにした。
ところが今年、その開かずの間でまた死者が出た。しかも毒死であった。死んだのはお新という新たに入った奴だったが、このお新は、かしくの妹であった。
嘆きの遊女
花見で賑わう飛鳥山でのこと、佐七と子分のきんちゃくの辰は、桜の木の下で女中相手に静かに茶を立てている美貌の女を見た。
さらにその女をジッと見ている深編笠の50歳くらいの侍がいたが、侍は佐七たちに気付くと逃げるように立ち去った。その直後、今度は折助が風呂敷包みをもって女のところに座り込み、盛んに話しかける。
あまり露骨なので佐七が割って入ろうとすると、15人くらいの酔った一団が囃しながら女たちの周りを囲み、騒ぎ立てた。その一団が去った後、そこには怯えた女と女中、それにかんざしで喉を突かれた折助の死体があった。
音羽の猫
音羽の岡場所のしけこんだきんちゃくの辰が、そこで猫の爪を切ったといいながら、その爪を佐七に見せた。猫はしけこんだの家の近くの豪勢な寮、そこに住む院号でも持っていそうな、切り髪のいい女の飼い猫だという。
ところがその爪、全てがなぜか金色に輝いていた。不審を感じた佐七は、さっそく音羽に向かう。音羽には佐七の親代わり、このしろ吉兵衛が十手を預かっていた。
吉兵衛のところを訪ねると、ちょうど吉兵衛も出張るところ。聞けば音羽稲荷の境内で女が袈裟がけに切られ殺されているという。その殺された女は、辰のしけこんだ岡場所の女だった。
女の手には辰の煙草入れが握りしめられていた。吉兵衛が老年なのをいいことに、最近この近辺に出張っている海坊主の茂平次が先に来ていて、煙草入れを証拠に辰をしょっ引いて言った。
確かに煙草入れは辰のものだったが、辰はその煙草入れを音羽で落としたのだった。それを犯人に上手く利用されたらしいが…
蛍屋敷
佐七のもとに弟子入りした豆六、子供のころから岡っぴきにあこがれて、わざわざ大坂から江戸に出てきた。豆六が入った途端に兄貴風を吹かせるきんちゃくの辰は、豆六をともに深夜の不忍池の端を歩いていると、どぼんと何かを池に投げ込む音がし、誰かが逃げて行った。
逃げた者は見失ったが、池にはつづらが一つ浮いていた。豆六がつづらを引き上げ、開いてみるとそこからは蛍が数匹飛び出した。
そしてつづらの中には蚊帳に包まれた女の死体とやはり蚊帳に閉じ込められた無数の蛍が…
佐七の青春
佐七の浮気がもとで大喧嘩を始めた佐七と女房のお粂。喧嘩が嵩じて佐七は家を飛び出したが、少し行くとお絹と名乗る女に声をかけられた。
お絹は昔佐七に世話になったらしいが、佐七の方では覚えがない。とはいえ女好きな佐七のこと、お絹に言われるがまま付いていき、お絹の家に上がりこんで酒を馳走された。
いつの間にか佐七は寝込んでしまったらしく、辰と豆六に起されたのがもやってある船の上。さてはお絹とのことは夢か…と寝ぼけていると、佐七の留守に小僧が一刀のもとに後ろから切られて殺されたという。
しかも小僧の懐からは佐七の十手、捕縄、紙入れが風呂敷に包まれて出てきたという…
ほおずき大尽
ほおずき大尽とは深川の材木問屋海老屋万助のこと。海老屋は万助一代で築いた、押しも押されもせぬ大身代でお城の御用も勤めていた。
その万助は若い頃から仕事一筋だったが、老年になって遊びを覚え、ついには吉原松葉屋の花魁お国を身請けしたほど。さすがに親戚一同が集まって、万助を強制隠居させて隠居所に半ば幽閉した。
万助はそれが不満で徐々に狂って行き、還暦祝いの席で赤い頭巾にちゃんちゃんこで酒を飲んでいるうちについに刀を抜いて暴れだした。なんとか静めたが、隠居所に座敷牢を作って万助を閉じ込めてしまった。
それ以来万助はお国以外は誰とも会わなくなっていき、お国の言うこと以外聞かなくなった。その万助がある夜還暦のときの格好のまま、座敷牢をぶち破り、刀を振り回してお国の指2本を切り落として、そのまま逐電してしまった。
そして恨み重なる親戚たちを刃の元に血祭りに挙げだしたのだ。世の人々は赤い頭巾にちゃんちゃんこで白刃をかざす万助を、誰言うとなくほおずき大尽と呼び脅えた…
鳥追い人形
将軍家姫君が船で深川八幡祭りを上覧に向かったが、その途次大川の上でどうした間違いか屋台船とすれ違った。役人が屋台船を停めようとするが、姫君の鶴の一声で屋台の趣向が許されることに。
その3番目の船は茅場町の生き人形、亀安という名人が作った道成寺の人形だったが、折悪しく後ろの船が追突し、はずみで人形が倒れた。
すると道成寺の人形の下から別の人形が…いや、それは人形ではなく顔が腐りかけた娘の死体だった。その場は機転を利かせた人がいて、姫君は死体を目にせず深川に向かったが、辺りは大騒ぎ。
知らせを聞いた佐七も現場に向かった。死体は顔が崩れて人相からは誰かわからなかったが、腕にあった「銀さま命」の刺青から、茅場町の古着屋蓬莱屋の娘お篠、そして銀さまとは妙心寺の小姓粂島銀弥と知れたが…
稚児地蔵
道端のお地蔵様、子育て地蔵といって普段は普通のお地蔵様だが、ときどき裏返しになるという。お地蔵様は、けっこうな重さがあって大人一人でも裏返しにするのは無理なほどで、噂になって裏向き地蔵。
裏を向いたからといって何かよくないことが起きたなどということはなかったのだが、ついにそのお地蔵様で事件が起きた。場所は巣鴨庚申塚の近くで、内藤伊賀守家の下屋敷があるほかは、人家とてない淋しい場所。
早朝、馬子が馬を引いて通りかかるとお地蔵様に稚児の化粧が施してあった。そしてその前では人が殺されていた。殺されたのは桐十郎という、このあたりを廻っている猿回しだった。
石見銀山
このころの殺鼠剤として有名な石見銀山を使った大量殺人事件が起きた。湯島天神の境内にかかる宮芝居の一座に、重を持って鮨を売りにきたお里と名乗る娘。
いつも売りに来る与作という爺さんがぜんそくで来れないので、孫にあたる自分が来たと口上。何かいいことでもあったのか、座頭の中村梅枝が鮨をすべて買い上げて楽屋一同に大盤振る舞い。
茶が入り、皆は争うように鮨をつまんだが、やがて一人二人と苦しみだした。一転あたりは血の池地獄で、結局9人の人間が死んだ。調べてみると喰い残しの鮨のいくつかに石見銀山が仕込んであった。
寺社奉行所同心から依頼された評判の佐七が、江戸時代版帝銀事件に挑む。
双葉将棋
お城将棋の家元大橋家の宗家と分家のそれぞれの跡継ぎ、宗家の大橋宗銀と分家の大橋印哲が、寺社奉行井上河内守の肝入りで十五番勝負を始めた。
現在のところ7勝3敗と圧倒的に印哲が優勢で、11番目の勝負という日の朝、河内守の屋敷に向かう途中の印哲の駕籠が襲われ、印哲がかどわかされた。
印哲の母親お才はこれを聞くと血相変えて、犯人は後のない宗銀かその父親の宗達と決め付け、佐七親分のところの駆け込んできた…
うかれ坊主
大兵肥満で夏でも冬でも着物の前をはだけた褌姿、自ら囃したてながら踊り、飴を売って歩くうかれ坊主という男。陽気で明るく、飴が売れても売れなくても愛想がいいから、子供だけでなく江戸中の人気者。
そのうかれ坊主が長屋の皆とふぐを喰い、ふぐにあたって死んだ。長屋一同で通夜をして、早朝に早桶を仕立てて小塚ッ原の焼場に担いで行った。ところが担ぎ手と付き添いの3人は、揃いも揃って臆病者。
それでもビクビクしながら小塚ッ原の端までたどり着いた。そのときに早桶の中から声が聞こえ、驚いた臆病者の3人は早桶をほっぽり出して逃げ帰った。
話を聞いた長屋の皆で、恐る恐る小塚ッ原まで来てみると早桶はそのままだったが、中の死体は見も知らぬ男のものに代わっていた。
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