おもしろ砂絵
光文社文庫

なめくじ長屋捕物さわぎシリーズの第八集。変ったバクチを扱った「大目小目」、人情話風の「地ぐち悪口あいた口」、異色作「いもり酒」など七編を収める。
雪うさぎ
雪の降り積もった朝、死体が見つかった離れへの足跡は、発見者たちのものだけだった。しかも被害者は雪の降り止んだ後まで生きていた。殺したのは足のない幽霊だったのか…
橘町一丁目の裕福な呉服屋加賀屋には最近幽霊が出るという。しかし、その幽霊を見たのはおかみさんのお兼と娘、それに女中のお弓の3人だけ。
お兼はほとんど毎晩のように幽霊見て眠れなくなり、旦那の清右衛門とは寝間を別にして離れで寝るようになった。すると不思議なことに幽霊を見なくなったという。
娘は夜中に廊下に寝ている幽霊を一回だけ見、お弓は手洗いに起きたときに庭の石燈籠に首が乗っているのを見たという。いずれにせよ女にしか見えない幽霊だった。
加賀屋では心配して、伝を頼ってセンセーに相談を持ちかけたが、センセーは大した事はない、今後幽霊は出ないだろうと請合った。だが、その翌朝、離れでお兼が何者かに殺されているのが見つかった。
降り積もった雪についた足跡は、発見者の女中の往復の跡と、女中から報せを聞きて確かめに行った清右衛門のもののみ。清右衛門によれば、雪のやんだ後にお兼は庭の雪で雪うさぎを作っているのを母屋から見たという。幽霊が殺したならば、足跡がつかないのは当然だが…

地ぐち悪口あいた口
浅香屋が初午まつりの趣向にあつらえた地口行燈がいたずらされて、若旦那は怒り心頭に…
新石町にあって裕福な噂の高い呉服屋浅香屋の若旦那栄太郎は地口を案じるのが好きで、毎年のように苦労をして案じた地口を行燈にして、初午の日に塀の外にかけ並べていた。
江戸の街は稲荷の多いところで、お稲荷様の初午まつりは江戸の市民の楽しみであり、塀内に稲荷が祀ってある武家屋敷や大店では裏木戸を開けて市民を入れて、煮 しめや赤飯を振舞うところもあった。
浅香屋もそんな店の一つで、栄太郎の地口行燈も初午まつりの趣向のひとつだった。その地口行燈が、悪意のあるものに掛け替えられた。
蟹の絵を描いて「東がしらむ横雲に」の地口で「小蟹があゆむ横ばいに」と書いたものが孕み女の絵に「減蔵どの、持つべきものは子でござる」の地口で「お春どの、それはどなたの子でござる」としてあったのだ。お春というのは栄太郎の妹で、最近になって縁談も持ち上がっている浅香屋の娘。
翌日には「近所迷惑」の地口で「隠居迷惑」という浅香屋の隠居を皮肉ったものが掛けてあった。 この悪意あるいたずらに栄太郎は怒り、下駄新道の常五郎に頼んでセンセーに出張ってもらった。

大目小目
大川に夜釣りに出た釣舟が引き揚げたのは、鬘を被った女装した男の水死体だった。
曇った陰気な晩に大川を遡った釣舟には、船頭と旗本の2人だけ。場所を定めて旗本が網を打ったが、引っかかったのは、はでな着物にべっとりと濡れた髷の水死体。
船頭と2人がかりで引き上げてみると、髷がぽとりと落ちた。その下からは剃り跡も青々とした坊主頭。鬘だったのだ。女と見えたのは誤り、若い男に着物を着せ鬘を被せた水死体だった。
船頭の間では女の水死体は引き揚げるが、男の水死体は流すのがしきたり。しかし引き揚げてしまったものはしょうがない。死体が持っていた守り袋を手がかりにして、死体の身元に報せをやった。
死体は神田白壁町の履物問屋安達屋の長男富太郎だった。富太郎は旗本の屋敷を廻り、品物を納めたり掛けを回収したりした後で行方不明になっていた。行方がわからなくなってから、すでに5日。
白壁町は下駄常の住いがあるから、捜索の願いが出され下駄常も探し回っていた。富太郎が最後に訪ねたのは本所にある600石の旗本由良孫十郎の屋敷。そのときには懐に50両持っているはずだった。
由良の屋敷は、当主自ら賭博の胴元をするなど評判は芳しくないのだが、旗本屋敷ゆえに簡単に調べるわけにはいかず、困った下駄常はセンセーに相談を持ちかけた…

いもり酒
両国の裕福な大店の旦那が、いやしい蛇使いの女に惚れて後妻にすると言い出した。反対する番頭を蛇使いの女は、蝮を使って殺してしまったというのだが…
両国の矢の倉にある裕福な紙問屋井筒屋の番頭藤兵衛は、庭先で蝮に咬まれて死んでしまった。この死に若旦那の佐吉は納得せず、蛇使いの女が藤兵衛を殺したに違いないと下駄常やセンセーに訴えた。
蛇使いの女とは、佐吉の父親で当主の市郎右衛門がぞっこん惚れこんで後妻に迎えようとしている女のことで、名をお新と言った。
お新は向両国で蛇を8匹も使って卑猥な芸を見せる芸人だったが、芸人にしておくのはもったいないような美貌で、贔屓も多かった。
そのお新にどうしたはずみか妻を亡くした市郎右衛門が惚れ、後妻にすると言ってきかなかった。これには息子の佐吉も、番頭の藤兵衛も大反対。お新は思い余って藤兵衛を蝮を使って殺したに違いない、というのが佐吉の言い分だった。

はてなの茶碗
毎晩、麦湯の屋台から安茶碗が一つづつ消えては、翌朝に大店の主人の枕元に現われる、これ名付けてはてなの茶碗。
夏の夜の風物のひとつ、麦湯の屋台から毎晩一つづつ湯呑茶碗が消えていく。屋台で使うのだから、割れても惜しくない安茶碗だが、毎晩消えるというのは気味が悪い。
しかもどこの誰が持って行くのか注意して見てもわからないから、気味悪さもひとしおだ。一方で、その消えた茶碗が翌朝になると紺屋町にあるべっ甲や住吉屋の主人卯兵衛の枕元に現われるのだ。
何者かが麦湯の屋台から茶碗を盗み、それを夜のうちに住吉屋に忍び込んで主人の枕元に置いておく。何のためにそんなことをするのだろうか?
それが6日続いて、7日目の晩は麦湯の屋台をなめくじ連が交代で見張ったが、やはり茶碗は盗まれた。そして翌朝、住吉屋卯兵衛の枕元にいつものように茶碗はあったが、卯兵衛は殺されていた。

けだもの横丁
きつねがついた稲荷ずし売りが、お稲荷さんのお告げで人を刺し殺した。殺さなければ、ほかの一家が皆殺しになると告げられたというのだ…
住んでいるのが見世物の曲馬師に猿回し、猪肉屋の板前、犬張り子つくりの夫婦、稲荷ずし売りなど動物に関係する人間ばかりなので、ついた名前がけだもの横丁。
そこの稲荷ずし売りの多吉に狐がついたらしく、おかしなことを口走ったり、稲荷の使いと称してお告げをしたり。多吉がそんな風だから女房が昼間は針仕事、夜は稲荷ずしを売って働いた。
そんなある夜、多吉が相生町の酒屋村田屋伝右衛門を刺し殺した。伝右衛門が外出から戻ったところを店先で刺したのだ。
店の手代に組伏せられてお縄になった多吉は、「伝右衛門を放っておくと、両国米沢町の上州屋惣兵衛一家が皆殺しにされる。それをふせぐために伝右衛門殺せというお告げがあった」と叫び続けた…

楽屋新道
人気役者の山崎屋、河原崎権十郎の命が狙われている。命を助けたければ金を出せ…という脅迫状が贔屓筋のあちこちに届けられた。
「人気役者の山崎屋、河原崎権十郎の命が狙われている。命を助けたければ3両出せ」、これは田所町の小間物卸しの大店備前屋に届いた脅迫状だ。
一方、市谷田町の紙屋井筒屋には、同じ内容で5両出せという脅迫状が届いた。備前屋の娘は大の山崎屋贔屓だし、井筒屋にいたっては主人夫婦から娘まで一家三人すべてが山崎屋贔屓だった。
この分ではほかにも同じ内容の脅迫状があちこちに撒かれているかもしれないが、脅迫状はいたずらなのか本物なのか?
話を聞いたセンセーは山崎屋は殺されるはずはない、と踏んだが代わりに山崎屋の男衆で巳之助というのが殺されて、素っ裸で浅草の芝居町の路地に棄てられた。


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