かげろう砂絵
光文社文庫

なめくじ長屋捕物さわぎシリーズの第六集。人間消失の「酒中花」、幽霊が現れる「ぎやまん燈籠」、遠方からの殺人という不可能犯罪の「秘剣かいやぐら」、暗号の「ねぼけ先生」など七編を収める。
酒中花
薬種問屋信濃屋の娘お絹が風呂場から消えた。信濃屋では駆落ちをしたと思ったが、やがて首を斬られて見つかった。雨続きで金に困ったなめくじ連はこの話に飛びついて…
日本橋本石町の薬種問屋信濃屋の娘で17になるお絹が駆落ちをしたらしい。雨の日の夕方、風呂に入るといって女中の前で服を脱ぎ、風呂場に入ったままいつまでたっても出てこず、そのまま風呂場から消えてしまった。
信濃屋では下駄新道の常五郎のところへ駆け込んで、お絹の行方を探ってもらおうとした。お絹は新橋の丸屋という紙屋の若旦那と縁談があったが、遊び人の清吉という男とも出来て駆落ちしたらしい。
ところが清吉は旗本屋敷の賭場にいたというアリバイを主張、相手が旗本では常五郎も手を出せない。おまけに常五郎は風邪を引いて熱を出し、困っているところに、こちらも雨で稼ぎが出来ず金に困ったセンセーが常五郎のところに顔を出した。
センセーが常五郎から話を聞いて動き出したが、翌日丸屋の天水桶の中からお絹の首が見つかった。さらに胴体が川に浮いているのが見つかった。お絹は駆落ちどころか何者かに殺され首を斬られていたのだ。

ぎやまん燈籠
老舗の呉服屋長崎屋の座敷に、亡くなった先代主人とおかみさんの幽霊が現れた。妙な噂が広まっては困る店の主人は常五郎に相談し、センセーも乗り出すことに…
四谷にある大店で、舶来品を扱う呉服屋長崎屋は主人が年に一度は長崎に行き、本店から舶来品を仕入れてくるほどだから座敷も凝っていて、畳の上に絨毯を敷き卓と椅子を置き、床の間には舶来のぎやまん燈籠が下がっていた。
ある夜、よその座敷に入った女中は、障子をあけたとたんに若くして死んだ先のおかみさんの幽霊を見て気を失い、数日後には主人が先代の主人の幽霊を見て腰を抜かした。
長崎屋では先代主人はおかみさんを亡くした後に後妻を入れ、後妻が身篭ったと思ったら今度は先代主人が亡くなった。それが2年前のことで、まだ先代主人は28歳の若さだった。
店は先代主人の弟が継いだが、その弟は先代の後妻と再婚した。これを先代主人と先代のおかみさんが恨んでいるのだという噂がたって、長崎屋では常五郎に相談を持ちかけ、センセーたちなめくじ連が乗り出すことに…

秘剣かいやぐら
目の前に相手は何でもよく、斬るまねをするだけでもいい。本当の相手は誰と心に定めておいて「かいやぐらの太刀」をふるえば、本当の相手はどんな遠くにいても斬れるのだ。それが秘剣かいやぐらの太刀の極意だ、と言うのだが…
常五郎が夜道を歩いていると浪人に突然斬りつけられた。浪人は常五郎に「お前を斬ったのではない。米沢町の日向屋半兵衛を斬ったのだ」と言って立ち去った。
あっけに取られた常五郎が、近くのなめくじ長屋に駆け込んでこの話をセンセーにすると、センセーは気になるから日向屋に行こうと常五郎を誘い、2人で米沢町の日向屋に向った。
日向屋をたたき起こして常五郎の十手の威力で調べさせると、主人の半兵衛は夜具の上で袈裟懸けに斬られて死んでいた。
番頭によると、その日の夕方まで貝塚小十郎という浪人が来ていて半兵衛と将棋を指していたと言う。センセーと常五郎は今度は小十郎のところへ向う。
小十郎を見た途端に常五郎は夕方斬りつけてきた浪人だという。小十郎は日向屋の一件を聞くと、それは我が家に伝わる秘剣かいやぐらの太刀で斬ったというのだった。

深川あぶら堀
侍から辻斬り芝居の片棒を担いでくれと頼まれたマメゾー。打ち合わせどおりに辻斬りにあったふりをして、堀に飛び込んだのだが、翌日堀には刀で斬られた本物の死骸が浮いていた。
マメゾーが深川の夜道を歩いていると、いきなり侍が刀を抜いて斬りかかってきた。ひらりと身をかわしたマメゾーに侍は、「明日の晩、斬られた振りをして近くの油堀に飛び込んでくれ」と頼んできた。手間賃は1両。
マメゾーは2人で2両にしろと交渉し、前金に1両貰って翌晩カッパを誘って侍との打ち合わせどおり油堀に沿って歩いている。すると、これも打ち合わせどおりに侍が刀を抜き斬りかかり、マメゾーとカッパは油堀に飛び込んだ。
そこに昨夜の約束どおり堀に残金の1両が投げ込まれ、狂言はチョン。暗がりで様子を見ていたセンセーは、マメゾーから話を聞いて、今晩と昨晩の侍は違うことがわかった。
ユータが今晩の侍の後をつけると、朽木大内記という大旗本の下屋敷の門のうちに消えた。翌日、油堀の材木の上に深川の美濃屋という材木問屋の番頭の死骸が乗っていた。
美濃屋の番頭は昨晩から行方知れずになり、今朝方死骸になっているのが見つかったのだが、その死骸は刀で辻斬りにあった様を見せていた。マメゾーの芝居が実録になったのだ。

地獄ばやし
一端死んだ男が地獄で追い返されて生き返り、変りに女が男の変りに殺されていた。神田明神の祭の宵宮におきた不思議な事件にセンセーが乗り出して…
秋も末の9月14日、神田明神の宵宮、明神の近くで祭ゆかたの尻をはしょって、豆しぼりの手ぬぐいで頬かぶり、ひょっとこの面をかぶった格好で、あおむけに大の字に倒れている男がいた。
たまたま近くを通った建具職人の民造が倒れた男に気づき抱き起こし面をはずすと、そこには苦痛にゆがんだ男の顔。男は民造も顔見知りの大工の鉄次で、胸を刺されて死んでいた。
民造が現場をほっぽり出して町役に知らせに走り、町役たちと一緒に戻って見ると死体は男から女に代わっていた。死体の女はお美代、踊りの師匠水木歌女満津の養女で、男たちからの人気も高かった。
町役たちは民造がお美代と鉄次を見間違えたのだろうと言ったのだが民造は納得しない。鉄次の長屋に行ってみると鉄次は長屋にいなかったが、のちに鉄次は生きて見つかった。
この話を聞いたセンセーは金になるかもしれないと、生きて見つかった鉄次に話を聞いたが、鉄次が言うには一端死んだが三途の川で追い返され、お地蔵様が助けてやると言って生き返らしてくれたというのだった。

ねぼけ先生
センセーの商売敵の女砂絵師が、センセーに仕事場八辻が原に現れた。なめくじ連はセンセーの危機と、女砂絵師を引っさらって縄で縛ってしまう。
センセーがいつも砂絵を描く八辻が原に、女の砂絵描きが現れた。センセーの商売敵の出現に常五郎が気づいて、長屋で怠けていたセンセーを八辻が原に連れ出して、商売敵を見せると、女砂絵師はセンセーよりも工夫をしているから、それを見ていたセンセー自身も感心をする始末。
常五郎はそれでも良かったが収まらないのは長屋の連中で、女砂絵師を引っさらって長屋に連れ込んで、裸にむいて縄で縛ってしまった。
これに気づいたセンセーは、女砂絵師の縄を解き、長屋の連中のしたことを謝ったが、女はセンセーに相談があるとセンセーを連れ出す。
女砂絵師の相談とは…砂絵師の父親は大泥棒だったが、先ごろ病気で死んだ。死に際に蜀山人の狂詩をしたためて、盗んだ金のありかを暗号にして残した。その暗号がどうしても解けないのだ…というのだった。

あばれ纏
火事の焼け跡に2つの不思議。1つは逃げ遅れた娘が竜神に守られて無傷で見つかったこと、もう1つはあいくちで自害した男の死体が見つかったことだった。
江戸の名物の一つに火事があった。冬の夜、横山町の油屋から出火した火事は、横山町と米沢町をあらかた焼いて鎮火した。米沢町の染物屋美倉屋も蔵を残して全焼した。
その美倉屋の焼け跡に2つの不思議ができた。1つは逃げ遅れたと思われた美倉屋の娘のお滝が、火事の翌朝に焼け跡から無傷で発見された。
お滝は素っ裸で焼け跡に横たわっていたが、話を聞くと煙に巻かれて気を失ったが、そこに竜神が現れて全身を覆ってくれ、火事から守ってくれたのだと言う。
もう1つの不思議は、美倉屋の座敷の場所から、火元の油屋の次男坊栄二郎が死体で見つかった。英二郎の死体はあいくちを握って、腹にはあいくちで斬った傷跡が合った。英二郎はお滝との間に縁談がまとまっていた。
油屋の火事は付け火で、調べでは英二郎は放火して美倉屋に行ってお滝と心中しようとして自らあいくちを刺して死んだのではないかと言うのだったが…


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