からくり砂絵
光文社文庫

なめくじ長屋捕物さわぎシリーズの第十五作「花見の仇討」から第二十一作の「らくだの馬」までを収録。「首つり五人男」と「水幽霊」は右門捕物帳のパロディ、「花見の仇討」「粗忽長屋」「らくだの馬」は落語に題材をとった作品。
花見の仇討
花見の趣向で仇討を演じることにした大家の若旦那達。途中まではよかったが、酔った侍が助太刀に入り大騒ぎに…
暇をもてあましている大店の若旦那達とその家作に住まうの職人、長唄や踊りの師匠たちが向島での花見の宴で茶番を考えた。
題材は仇討。筋書きは浪人に扮した若旦那が煙草を吸っているところに、通りかかった二人連れの巡礼に扮した若旦那が煙草の火を借りる。火を借りざまに浪人の顔をみて敵と知り「やあやあ汝は…覚悟いたせ」「何を小癪な」となり、そこに止め男止め女が入ってという趣向。
ところが止め男止め女が入る前に酔った侍二人連れが助太刀いたすと入って来たからおかしくなった。浪人に扮した若旦那の方は、自分に内緒の趣向と勘違いして「何を」と刀を抜いて侍の一人に切りつけた。すると血しぶきが上がり、侍は切られて絶命、あたりは大騒ぎになった。
素人の茶番ゆえ浪人役若旦那の刀は竹光のはずが、いつしか本身に変わっていたのだ。騒ぎの間にもう一人の侍は逃げ出してしまい、若旦那は取り敢えずお縄となったのだが…
落語を題材にした作品で、落語では六十六部(巡礼)に扮した止め男が途中で叔父さんにつかまりいつまでたってもやって来ず、侍の助太刀に驚いて逃げだしてしまう。逃げる男達に侍が「勝負は五分と五分だ」「肝心の六部がまいりません」とサゲる。

首つり五人男
神田川沿いの松の大木に、ある朝五人の首つりがぶら下がっていた。調べてみると不審なことだらけ。右門捕物帳の「首つり五人男」のパロディ。
右側は武家屋敷の塀、左側は大商人の塀が続くその露地は神田川で行き止まり。川っぷちの武家屋敷の塀のはずれに大きな枝を川の上まで伸ばした松の大木があった。
ある朝その松の木に首をつった五人の男がぶら下がっていた。ぶらさがった男達のうち二人は大家の若旦那風、二人は地回り風、残る一人は眉毛をそった役者か男娼とまったく吊りあわない取り合わせ。詳しく調べると若旦那の一人が本当に首を吊ったほかは、首吊りではなくどこかで絞め殺された後に松の木に吊るされたらしい。
そして下駄常の子分兼次がおとといの夜、同じ松の木に吊り下がった五人の男を見ていた。兼次は驚いて番屋に駆け込んでから、番屋の親爺と松の木に戻ってきたのだが、そのときはただの一人も松の木からはぶら下がっていなかった。そして中一日置いたこの日再び首吊りしたいとなって現れたのだ。これには下駄常もセンセーたちも首をひねった。

小梅富士
海産物問屋桑名屋の向島小梅の寮で寝たきりの隠居久右衛門を殺した凶器は、四畳半いっぱいもある巨大な庭石だった。なぜ、寝たきりの病人一人殺すのに、大きな庭石を使わなければならなかったのか?
日本橋の海産物問屋桑名屋の向島は小梅の寮で殺しが起きた。
殺されたのは隠居の久右衛門で、この隠居は下半身不随の体の弱った寝たきりの老人で、富士信仰に凝っていた。下半身不随になってからは富士詣りへもいけず、庭に富士山みたいに見える大きな庭石を置いて一日中眺めて暮らしていた。そして、久右衛門を殺した凶器はこの庭石だった。
久右衛門の寝ている四畳半の離れ座敷いっぱいに庭石が担ぎ込まれ、その下敷きにされて久右衛門は殺されたのだ。庭石は男が四人くらいでなんとか運び込めるほど大きく、久右衛門も助けの声を上げなかった。
いずれにしても、寝たきりの弱った病人を殺すのに、なぜ、座敷がいっぱいになるような大きな庭石で圧しつぶさなければならなかったのか?がこの事件の最大の謎だった。

血しぶき人形
箒で掃除をするからくり人形が、箒の変わりに竹光を持って、あろうことかあるじを刺し殺した。としか思えない事件が起きた。頭を抱える下駄常の頼みでセンセーが乗り出した。
「人形が人を殺すなんてことが、この世のなかにあるもんですかね」と下駄常がセンセーに語り始めた。新銀町の質屋閻魔伊勢屋で1メートル20センチ位の箒で掃除をするからくり人形が、あるじの幸右衛門を刺し殺したのだ。
幸右衛門は座敷で腹を刺され、首筋にも一太刀あびて倒れていた。そばにからくり人形が箒の変わりに竹光を持たされ、その竹光にはべっとりと血がついていたのだ。いくら精巧な人形でも竹光で人を殺せるものだろうか?それが下駄常の疑問だった。いつものようにセンセー達なめくじ連がその謎に挑む。

水幽霊
蝋燭問屋島屋の娘お品の部屋が二日続けて水浸しになった。島屋では庭の水神様がたたったのだということになり、大慌てで水神様の祠の修復をした。ところがこんどは祠を修復した大工が水幽霊に襲われて溺れ死んだ。この作品も右門捕物帳「幽霊水」のパロディ。
蝋燭問屋島屋の娘お品の部屋が水浸しになっていた。お品は19になる評判の小町娘で、朝起きてみると夜具布団から畳の上まで部屋中が水に濡れていたというのだ。それも二日続けてのことで、水幽霊が出たと大騒ぎになった。
島屋では庭の池のそばに立つ水神様の祠が相当いたんでいるのに、修復もせずにほっておいたのが水神様の怒りに触れたのだろうということになった。慌てて水神様の祠の修復を宮大工に頼んだが、当座は傷みの激しい屋根の修理だけ出入りに大工に頼み水神様の怒りを静めることにした。
ところがその二日後、その屋根の修理をした出入りの大工富造が長屋で水幽霊に襲われた。朝方、長屋の障子戸が開けっ放しなのに気がついた、同じ長屋のおかみさんが部屋の中を覗いたところ富造が布団の上で死んでいた。
役人が来て調べてみると富造は溺死で、お品の部屋と同じように夜具や畳が水に濡れていた。富造の親方は島屋から頼まれて宮大工でもない富造に水神様の祠の屋根を直させたのが、水神様の怒りを買ったのではと肩を落としたが…

粗忽長屋
自分で自分の死骸を引き取るという落語「粗忽長屋」に題材をとった話。その馬鹿馬鹿しい話に合理的な結末をつけると…
八辻が原で砂絵を書いていたセンセーのもとへ下駄常とテンノーが駆けつけてきた。「死んでるのは、お前さんなんだぜ、センセー。行きだおれになってるんだ。つべたくなっているんでさあ、雷門のところで」驚くセンセーを下駄常とテンノーが引っ張って雷門へ。雷門ではオヤマやガンニンが「死ぬなんて」と大粒の涙をこぼしていた。
下駄常に続いて番屋に入って安置された死骸を抱き起こしたセンセー、「死んでいるのはたしかにおれだが、抱いてるおれはだれだろう」
下駄常の知り合いの花川戸の医者粂川源哲がセンセーを見立てて、一種の離魂病との診断。この近くの大家の寮を借りてやるから、そこでゆっくり療治しろという。療治の内容は酒は飲み放題、食い物は喰い放題、女を抱こうがどうしようがお構いなし。そうすればこの世に未練がなくなって死んでることがわかってくるはず。但しあの世は真っ暗だから昼間でも雨戸を立てきって、いなければならない。
センセーもこんな療治なら大歓迎。さっそく下駄常に連れられて花川戸のさる大家の寮に。もちろん下駄常の計略で、なめくじ連を抱きこんでの芝居とセンセー見当をつけてはいたが…
落語では粗忽者が同じく粗忽な男から自分が死んでると知らされ、一緒に自分の死骸を引き取りに行き、死骸を抱いて「死んでいるのはたしかにおれだが、抱いてるおれはだれだろう」とサゲる。

らくだの馬
落語「らくだ」に題材をとった話。「らくだ」は長い話なので通常は前半しか演じられない。前半では、小心者の屑屋とやくざの半次が酒を飲むうちに、屑屋が酒乱となって立場が逆転していくのが最大の見せ場。この話を活かして、それにつなげて死体消失の謎を扱っている。
小石川戸崎町の通称豆腐長屋にすむ馬太郎のあだなはらくだ。このらくだ、二年前に長屋に越してきて以来家賃は一度も払わず、近所の酒屋や魚屋から品物を買ってもつけを払わない、催促すれば乱暴を働くという町内中の鼻つまみ者。
そのらくだがどこかから調達してきたふぐを自分で捌いて、食って、あたって死んだ。町内中は大喜びしたが、ここにらくだの兄貴分という手斧目の半次というのが現れた。
その半次がらくだに輪をかけたやくざ者。ちょうど商売にやってきた屑屋の久六を脅して、町内から香典を集めさせ、八百屋からは早桶代わりに菜漬の樽と天秤棒を強引に調達させ、大家には通夜の席の酒と肴を催促させた。ところが大家はケチで有名、家賃は香典代わりにくれてやるが、酒の肴のとはとんでもないと断った。
すると半次は久六に手伝わせらくだの死骸を大家の家に持ち込んで、かんかんのうを躍らせて脅しつけるとやり放題。大家から届けられた酒を半次と久六で飲むうちに、今度は酒乱の気のある久六が大虎に。結局二人でらくだの死骸を菜漬けの樽で焼き場に持っていったが、途中で樽の底が抜けて死骸が行方不明になった。
そんな事件があった翌日、今度は神田の質屋に菜漬けの樽に入れた死骸を持ち込んだ二人組がいた。ただし死骸は腰巻一つの女。かんかんのうを踊らせて、番頭から五両せしめていった。
神田の質屋の一件で下駄常が乗り出したものの、女の死骸がどこから来たか皆目わからずセンセーに解決を頼んできた。まさからくだの死骸がひとりでに歩いて女に代わってしまったわけではあるまいが…


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