ちみどろ砂絵
光文社文庫

なめくじ長屋捕物さわぎシリーズの記念すべき第一作「よろいの渡し」から第七作の「心中不忍池」までを収めたのがちみどろ砂絵。人間消失の「よろいの渡し」や密室ものの「三番倉」など本格推理の味を捕物に活かした作品ばかり。のちにシリーズキャラクターとなる下駄常は、まだほとんど登場していない。
なお、絶版の桃源社版と角川文庫版での題名は「血みどろ砂絵」で、光文社文庫版でひらがなの「ちみどろ砂絵」となった。

よろいの渡し
渡し船の中で男が一人消えた。渡し舟に確かに乗ったはずの泥棒が向う岸に着いたときには見事に消失していたのだ。
日本橋川のよろいの渡し(現在の東京証券取引所のところの鎧橋)に乗った男が消えてしまった。男は人魂長次という泥棒で女隠居殺しの容疑がかかっていた。
長次がその住処から旅支度をして出てきたところから岡っ引きが二人ずっと後をつけ、よろいの渡しに乗るところを見ていた。渡しの中には客が六、七人、男は笈を背負った六十六部(白装束の行者姿)と医者らしい坊主頭、大店の番頭らしい中年男と長次の4人だった。
長次をつけてきた岡っ引き二人は渡し船の中を岸から見ていたし、向う岸に岡っ引きの子分がいてやはり渡し船を見ていた。
渡し船が川の中間あたりにさしかかると船の中から女が一人立ち上がった。女は全裸で背中に見事な彫り物があった。女は川の中に入りひとしきり泳いだ後再び船に戻った。この騒動で川を行き来する荷舟などがはやし立てるなど、一頻り騒ぎがあったがすぐに収まった。
そして渡しは再び動き出し向う岸に着いたが男は3人だけで、長次の姿はどこにもなかった。両岸で見ていた岡っ引きたちは女のほかに川に飛び込んだものはいなかったし、ほかの船が渡しに近づいたこともなかった。長次は船の中で見事に消えてしまったのだ。

ろくろっ首
首のない女の死体と死んだ男の首だけが相次いで見つかった。ところが首なし女の死体は男のものとわかり…
正月十日の夜、積もった雪の上に高価な着物姿の首のない女の死体が見つかった。死体の周りの雪には血が流れており首を掻ききったのは発見現場に違いなかったが首は一向に見つからなかった。
五日後、今度は男の死体の首だけが出てきた。芝愛宕下で曲芸をしていたマメゾーのところに観客の一人が風呂敷包みを投げたが、その風呂敷の中に男の首が包まれていたのだ。男の首は三田の紙問屋沢島屋の総領息子の首だった。
なめくじ長屋の連中が早速聞き込みを開始すると先日見つかった女の首なし死体は実は男のものとわかった。今回見つかった沢島屋の息子の死体であることは間違いなかった。沢島屋では娘が豪商近江屋五兵衛の息子と結婚することになっていたが…
死体の不思議な状況にセンセーは頭をひねる。

春暁八幡鐘
アラクマがある大店から風呂桶を盗んでくれと頼まれてきた。報酬に目がくらんだアラクマは風呂桶盗を引き受けたが…
アラクマが武家屋敷に差し掛かったとき一人の男に声をかけられ、ある商家から風呂桶を盗み出してほしいと依頼された。報酬は一人一分、ただし条件があって盗み出すのは風呂桶だけで、商家の人間に危害を加えてはならず、家を壊してもいけない。また、盗んだ風呂桶は壊そうが使おうが勝手にしてかまわないという。期限は五日後。
その商家は牛込の薬種問屋和泉屋。大店で年頃の美人姉妹が二人いることでも評判の店だった。金に目がくらんだ アラクマは依頼を引き受けたが方法が見つからずセンセーに相談した。
センセーも興味を抱き妙案を考えて見事に風呂桶を盗み出したが、なぜ風呂桶だけを盗ませたのだろうか…

三番倉
密室となった蔵の中に閉じ込められた殺しの下手人。岡っ引きが来て蔵の錠を開け中に入ったが、下手人の姿はどこにも見あたらなかった。
毎年三月三日は霊岸島の瀬戸物屋伏見屋にとって特別な日だった。桃の節句でもあり、娘の誕生日でもあるこの日は店を早仕舞いし奉公人にはご馳走が出た。ところが今年のその日はご馳走どころではなった。
店を仕舞ったまではよかったが、そのあと三番倉の中で普段は中のいい番頭の徳太郎と手代の清七が争い始めた。ご馳走の席に二人がいないので、小僧が探しに来てその様子を見た。二人の喧嘩は凄まじく清七が刃物で徳太郎に切りつけた。
驚いた小僧は店のものを呼びに戻り、店の者たちが蔵前に駆けつけてきた。蔵の中では相変わらず争いが続いていたが、ついに清七が刃物で徳太郎を刺したらしく、血まみれになった徳太郎が蔵から出てきて倒れた。
大番頭に指示で蔵の戸が閉められ錠がかけられた。蔵への出入口はこの扉しかなく、中で清七は袋のねずみになっているはずだった。ところが知らせを聞いてやってきた岡っ引きが蔵の隅々まで調べても清七の姿はどこにも見あたらなかった。

本所七不思議
本所に伝わる七不思議。その七不思議の一つ「置いてけ堀」に見立てたらしい死骸が見つかり、さらに七不思議通りの怪異なことが次々に起きた。
本所(現在の墨田区)の横十間川に一艘の小船がただよっていた。小船の中には 素っ裸の男死骸と子狸の死骸があった。 男の首には死因となった縄が巻きつき、その縄の先は胸に乗った狸の死骸の首にも巻かれていた。つまり、2つの死骸は縄で繋がれていた。
男は亀沢町に住む新右衛門という評判の悪い高利貸し。最近では貧乏長屋の病人にわざと金を貸し、返せないと見るや病人の娘をカタに取ろうとしてきた。
死骸が見つかった前の夜から、すでに新右衛門は行方不明となっていたのだが、その夜新右衛門の家に雨戸をける音がし、足を洗えという声が聞こえたという。
さらに釜屋堀の九鬼家の下屋敷から塀を越えている伸びている松の木の枝が全て切 られていた。 新右衛門の死骸が乗った船を「置いてけ堀」に見立てれば、ほかの2つはそれぞれ「足洗い屋敷」と「片葉の葦」と見てこれらはいずれも本所七不思議だった。何者かが本所七不思議の見立てを行っているのだ。


本所七不思議は、
一、本所の堀で釣りをすると置いてけと怪しい声がして、魚篭の中の魚が消えてしまう「置いてけ堀」
二、天井から泥だらけの巨大な足がおりてきて、足を洗えという声が聞こえる「足洗 い屋敷」
三、殺された女の恨みが残り、片側にしか葉がつかない「片葉の葦」
四、ひとりでに灯がともり、持つ人がいないのにふらふらと動く「ひとつ堤燈」
五、消したはずなのにいつのまにか火がついている「消えずの行燈」
六、いつまでも音がついてくる「送り拍子木」
七、どこからともなく聞こえる「狸ばやし」だが異説あり

いのしし屋敷
借金のカタにさらわれたメカケを取り返す依頼を受けたなめくじ連。儲け話だと勇躍したが、思惑と違ってきてセンセーも困惑気味。そして最後にはどんでん返しが…
ある日ガンニンが儲け話をもってきた。
牛込改代町の古着屋越前屋の主人が小普請組(名目上は公共の施設の補修をする役目の旗本だが、出仕する代わりにその分の差し引いた扶持米が支給されるために実質無役、現在風に言えば給与カットされて自宅待機の状態が続くようなもの、そのためにこの組に入った旗本は内職をしたりして稼がないと食べていけなかった。無頼の旗本も多かった)の悪旗本が屋敷内で開いていた賭場のカモにされ百両の借金を負った。
越前屋の主人は養子のうえ、隠居も倹約家のために金が自由にならず、 返済を一日伸ばしにするうちに、ついに旗本は借金のカタに越前屋がかこっていた メカケをさらっていてしまった。
越前屋はなんとか20両かき集めて旗本の屋敷に乗 り込んだが、逆に袋叩きにあってしまった。それを恨んで旗本の屋敷からメカケを さらってきて欲しいと言うのだ。以前に風呂桶を盗んだなめくじ長屋の面々は、この話に乗ったが…

心中不忍池
上野不忍池であった不可思議な心中。年増盛りだったはずの女が死んだときには老婆になっていたのだ。しかも男は岡っ引きの房吉。房吉の子分常五郎は事件に納得できず、センセーが房吉を恨んで仕組んだと考えた。
上野不忍池の中の島にある茶屋の一室で心中があった。男のほうは岡っ引きの房吉 だったが、女の方は茶屋に来たときは年増盛りだったのに死んだ途端に老婆に変 わってしまった。
当時心中はご法度だから、やり損なえば晒し者、やり遂げてもまともに葬式を挙げられなかった。ましてや十手を預かる身だから、何をかいわんやだ。
房吉の一の子分常五郎も普通なら房吉の跡を継げるのだが、事情が事情でそれも出来ない。おまけに御用から外されてしまった。
常五郎は御用一筋の房吉が心中などするはずがないと事件を調べに始め、事件のあった茶屋にあるもう一つの部屋にいた浪人者がセンセーではないかと見当をつけた。しかし証拠がないので御用には出来ず、いきなりセンセーを呼び出して匕首で襲った。
身をかわしたセンセーは常五郎をなだめ事情を聞くと、確かに心中にしてはおかしい。 裏がありそうだとなめくじ連を動員して調べ始めた。
天下祭りと呼ばれた山王祭りをはじめ江戸の祭りの様子も描かれている。


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