朱房の鷹
文春文庫

宝引の辰捕者帳第4弾。表題作ほか全8篇。
朱房の鷹
厄年の辰は、妻の柳野勧めで川崎大師に厄除け詣りに行った。一行は辰と柳に娘の景、それに子分の算治の4人。川崎大師におまいりを済まし、横浜に足を伸ばして異人町を見て神奈川泊まり。
その翌朝神奈川宿をたって江戸の戻る道すがら、江戸の方角からやって来たのが子分の松吉。聞けば与力の能坂要に呼ばれ、羽田の狩場で将軍家の鷹を慣らしていたところ、何者かに傷を負わされ帰ってきたが、すぐに死んでしまったという。
このままでは鷹匠の落度となり、鷹匠頭は切腹となってしまう。そこで能坂は松吉を呼び出して、辰に事件の探索にあたるように言付けたのだった。

笠秋草
神田鈴町にある紫染屋の内田屋で、一人息子の清太郎の部屋で、誰もいないのに行灯がついたり、火鉢に火がおこったりと奇怪なことが起きた。
清太郎は堅物の親に似ずに風流人で、茶会だなんだと、しょっちゅう家を空けていて、機会事がおきたときにも家にはいなかった。

角平市松
流行の着物の柄角平市松は、日本橋の紺屋笹屋にいた流れ職人の角平が考案し、それを芝居の役者が舞台衣装にしたことで、江戸中に広まった。
今や猫も杓子も角平市松といってもいいほどだが、考案者の角平はある日突然店を出奔し、行方が分からなくなっていた。そんな折、辰は変な話を聞いた。絽の角平市松が古着屋で売られていたというのである。
その実物も見たが、角平市松がはやり出したのは昨年の秋以降のこと。絽は夏のものだから、角平市松がはやる前に染めさせたことになる。この裏には何かあると直感した辰は、笹屋の職人に事情を調べてくれるように依頼した。

この手かさね
常盤津の師匠小磯の百ヶ日の法要の後で、形見分けが行われたが、なかにひとつ不思議な模様の帯があった。五本の指を広げた掌が、いくつにも重なって縫い取りされているのだ。
集まった者たちは、今まで小磯がその帯をしているの見たことがなく、首をかしげるばかり。日本橋の糸屋中尾屋からの報せが来たのは、その時だった。
中尾屋の主人はもと落語家で一扇といったが、中尾屋の後家がなぜか一扇に惚れ込んで、婿にしたのだった。中尾屋からの知らせは、その主人が殺されたというものだった。

墓磨きの怪
江戸の寺に墓磨きが現れた。寺の墓のいくつかが、奇麗に磨きあげられているのだ。最初の寺の時はたいした事件にはならなかったが、2番目の寺の時は目撃者がおり、目撃者がのっぺらぽうが墓を磨いていたと証言したことから大評判になった。
高砂屋の隠居が大往生し、百ヶ日の法要が寺で行われたが、3日ほど前には高砂屋の墓も何者かに磨かれていた…

天狗飛び
武蔵屋平八を先達とする大山詣りに参加した辰と女房の柳、娘の景、子分の松吉と算治、講は全部で10人の一行。ところが初日に松吉が足を挫き、翌朝には歩けなくなるほど足がはれて、山行きは断念し、一行は9人になった。
翌朝、今度は平八の弟子の吉次が腹を壊して、やはり断念して引き返した。8人に減った一行、道々で平八が経験した富士参りの話を行く。かつて富士参りに参加した平八の講では、一行の一人が天狗にさらわれたのだという。
待ち合わせ場所にいつまでたっても一人の男が現れない。やがて、他の講の一行が、行方不明のおとこの笠を持って追いついてきた。この笠が谷底に落ちていたというのである。だが、男は生きていた。一行が江戸に帰ってみると、男は既に仕事をしていた。男に笠の件をただすと、なんと天狗に襲われて、さらわれたのだという…

にっころ河岸
勇次が現七親方とともに、ひょんなことから松平長門守義雄という隠居した大名の下屋敷に呼ばれた。勇次が子供のころ体験した故郷での出来事を、松平の殿様が聞きたがったのだ。
話終わって別室で用人に酒をごちそうになり、勇次はしたたか酔った現七親方とともに屋敷を出た。よった親方は、近くに住む知人のところで酒を飲み直したといい、2人でその友人の家に行った。ところがそこで2人が見たものは、行燈の細い明りの下で生首を膝に置き、その髪を梳る男の姿…

面影蛍
俤橋で女房の柳と娘の景とともに蛍狩りをしていた辰は、近くの乾物屋の主人駿河屋弥平の思い出話に付き合わされた。その話の内容とは…
若いころに、仲間と蛍狩りしに来た弥平だが、仲間とはぐれ一人になった。しかたなく帰りかけたところ、やはり女中とはぐれた一人娘と出会い、暫く相手をしてやった。そこに女中が来て、2人は家に戻って行ったが、その一人娘が弥平に一目ぼれ。
一人娘は牛込矢来下の米屋島村屋の一人娘のお由。ところが弥平もお由も一人っ子だから、話がややこしくなった。
ついに島村屋が折れて、駿河屋にお由を嫁に出すと言ってきたが、駿河屋の方は箱入り娘に乾物屋の嫁はつとまらないと断固断った。そこでお由のことを思う弥平は一計を案じて…


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