凧をみる武士
文春文庫

宝引の辰捕者帳第3弾。表題作の中篇ほか全4篇。
とんぼ玉異聞
古道具屋で売られていたとんぼ玉は、どう見ても御禁制の品だった。聞けば佐吉という男が市に出したもので、佐吉は全部で百個ほどもとんぼ玉を持っていたという。
そのとんぼ玉は、徒目付を失脚して隠居し、憤死した清廉潔癖で職務熱心な斧藤右衛門の遺品の煙草入れに付けられているとんぼ玉と同じものだった。
煙草入れは佐久間町の薬屋額田岩兵衛から預かったものだったが、岩兵衛は3年前に姿を消していた。岩兵衛の店にいたぬいという女中を探し出して聞いてみると、とんぼ玉の出所はどうも房州館山で、そこに沖ノ山という山があって、そこの古い塚から発掘されたものらしい。
その話を聞いた宝引の辰は子分の松吉、斧の息子とともにぬいを案内人として館山に向かった。

雛の宵宮
桃の節句を前に、今年も糸物問屋大和屋には代々伝わる古今雛が飾られた。飾り付けられた雛人形を前に、おかみさんも女中頭のお定も大満足。その翌朝、女雛と左大臣がひっくり返されているのが見つかった。
見つけたのはおかみさんだが、いったい誰がこんなことをしたのかわからない。人形はすぐに元通りにされたが、また翌朝になると女雛と左大臣がひっくり返されていた。これもすぐに戻されたが、それ以来変事が続いた。
まずおかみさんが階段から落ちて足を痛めた。その日の夜には風呂に行ったお定が、駕籠を避けようとして横にどいたはずみに転んで足を痛めた。
大和屋の主人は、女雛と左大臣がひっくり返っていたのは、変事のお告げだといい出した。女雛がおかみさん、左大臣は音からいえばサダだから、2人が転んで足を痛めたのは雛人形の祟りだというのだ。

幽霊大夫
吉原の紀の字屋で花魁と客の無理心中があった。木綿問屋巴屋の三男坊で、女と博打で身を持ち崩した亀吉という男が、惚れていた花魁雛町を殺し、自分も剃刀で喉を掻き切ったが死にきれなかったのだ。
死にきれなかった亀吉は、とどめを刺してもらおうと向いの連蝶の部屋に転がり込んだ。そこにいたのが宝引の辰の子分の松吉。そのころには事件を知った店中が大騒ぎとなった。
亀吉は運び出され、店の関係者は渋い顔だが、事件はこれで終わらなかった。その後、紀の字屋には雛町の幽霊が出るというのだ。そのために紀の字屋には客がさっぱり来なくなった。
松吉が気になって連蝶のところに行くと、雛町の部屋から金が聞こえて来た。松葉屋から移って来た花魁宿木が雛町の供養をしていたのだ。
さらに宿木は恵比寿講の日の花魁道中に、雛町の供養のために幽霊大夫となって行列を組むというのだった。

凧をみる武士
一種の福引である宝引は禁制ではあるが、正月や祭日、神社の縁日などでは行っていいことになっていた。江戸では寺社の数が多く、毎日何処かの寺や神社で縁日があったから、辻宝引の九造はいつでも仕事が出来た。
湯島天神の縁日で、九造が辻宝引を商っていると、どこかの武家の5歳くらいの子供が何度も宝引をやりにきた。どうもその子が欲しいのはおもちゃの凧らしい。やっとのことで引き当てると、おつきの老武士とともに去っていった。
入れ替わりに現れたのは宝引の辰の娘の景。景は辰の子分の松造と一緒だったが、女だてらに喧嘩凧をやって負け、凧を取られたといっておかんむりだった。
このところ江戸では妙な凧があがっているらしい。武家であげる大きな凧が3つ、いずれも落ちて来たのを拾われたのだが、その凧にはいずれも小判が10枚結び付けられていた。
そして凧には鶴の絵や鶴の紋が描かれていた。それを手がかりに凧がどこの屋敷のものかを探っていくと、いずれも小藩の下屋敷からあげられたらしいことがわかった。
だが、武家屋敷の方では全面否定。だから凧も小判も落し主不明で、全て拾った人間のものとなった。景の凧を負かせたのもその下げ渡された凧であった。


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