半七捕物帳(二)
光文社文庫

岡本綺堂作の半七捕物帳の記念すべき第一作「お文の魂」から第十四作「山祝いの夜」を収録。
鷹のゆくえ
将軍家が鷹狩に使う鷹を管理する鷹匠が、鷹馴らしに目黒あたりに行くと品川の遊女屋を兼ねた宿屋に泊まるのが常だった。
その遊女屋に泊まった光井金之助の鷹が、朝方開け放った窓から緒を切って逃げてしまった。諸軍家の大事な鷹を逃したのだから本人は切腹、一緒に泊まった同僚二人の罪も免れない。
金之助たちの親戚一頭寄り集まって協議の上、町方に内密に探索を依頼することに。その話が半七に降りてきたが、鳥と人間では勝手が違う。半七はとりあえず品川から目黒を廻ることにしたが…
津の国屋
大身代の酒屋津の国屋には娘が三人いた。そのうち一番年嵩の娘は養女で、養女を取ったあとに実子が二人生まれた。津の国屋では実子が可愛く、結局養女を追い出すようにして里に返し、養女は津の国屋を恨んで死んだ。
その後しばらくは平穏に過ぎたが、次女が17歳のときに病死してしまった。17歳は養女だった長女が死んだ年だった。世間の噂が始まった。それを証明するように津の国屋の周囲に不気味なことが起こり始めた。
撫子の浴衣を着た幽霊のような女が津の国屋の周囲に出没したり、おかみさんが二階から落ちたり、手代が御用聞きに出ると屋根から瓦が落ちてきたりした。女中は露地で女の声で津の国屋はもうすぐつぶれると囁かれ、相次いで暇を取っ
た。托鉢層は津の国屋を見て凶宅だとつぶやき、菩提寺の住職は撫子の浴衣を着た女が津の国屋の前にいるのを見たといった。
ついに津の国屋の主人の次郎兵衛は菩提寺に部屋を借り隠居した。店は番頭の金兵衛とおかみさんが守ったが、ある日二人が土蔵の中で首をくくった。
新しく入った女中お角が、金兵衛とおかみさんが不義をしているのを何度か見ていると証言した。事件は心中と見られたが、さらに津の国屋では恐ろしいことが次々と起こり…
三河万歳
年も押し詰まった12月27日、往来に一人の男が倒れていた。その男は大酔して寝込み、そのまま凍え死んだらしいが、腕に乳飲み子を抱えていた。
その乳飲み子は無事だったが、上あごに二本の牙のような歯がある、所謂鬼っこだった。そして死んでいた男は手に鼓胼胝があることから、正月に備えて江戸に出てきた三河万歳の人間と考えられた。
抱えていた乳飲み子は、どこの子ともわからなかったが、鬼っこであることから因果者師や香具師なら、身許を知っているかもしれないと考えられた。さっそく万歳と香具師が手分けして洗われたが…
槍突き
半七が人から聞いた話で、文政の頃に岡っ引きの七兵衛が扱った事件。
江戸に槍突きという物騒なものがはやった。闇からいきなり槍を繰り出して人を突いて歩くのだ。突かれどころが悪くて死ぬものもいて、江戸市民は夜中になると一人歩きも出来なくなった。
そんなある夜、がこを呼び止める若い女がいた。かごかきがかごを担いで暫く行くと、闇から突然槍が突かれた。かごかきはびっくりしてかごを放り出して逃げた。
少し逃げたあと、おっかなびっくり戻ってかごの垂を上げてみると、中には槍に突かれて血にまみれた黒猫の死体が横たわっていた。さっき乗せたのは猫の化身の女だったのか…
お照の父
柳橋の芸妓お照とお浪姉妹の父新兵衛が殺された。朝早くに女中のお滝が、朝の用意をしだすと表の戸をたたくものがあった。
お滝が戸をあけようとすると、すでに起きていた新兵衛がそれを止めた。すると表の戸をたたく音はやんだが、裏口から黒い小さなものが入ってきて、あっというまに新兵衛を刺して逃げていってしまった。
新兵衛は血だらけになって絶命し、お滝は二階で寝ていたお照とお浪を起こしに行った。新兵衛は酒も博打も女遊びもしない、この世界には珍しい硬い人物で、殺される心当たりはなかったが、半七が遺骸を調べると腕には前科者を示す古い入墨の跡があった。
新兵衛の過去はどうだったのだろうか?それに新兵衛を殺した謎の生き物は?
向島の寮
向島のさる商人の寮に女中として雇われたお通。その条件が変わっていた。親許は江戸から5里以上は離れていっること、年が若く無口で正直なもの、三年以上働けるものというのがその条件で、その代わり給金は年三両と破格。
生麦の在から出てきたお通は条件ぴったりで、三両にも目がくらんで、さっそく働くことになった。半年くらいはなんでもなかったが、その後奉公が辛抱できないとの手紙がお通から姉のところに来た。
さっそく姉がお通に会いに行ってみると、お通は土蔵の中に幽霊のような女と大蛇がいると泣きながら訴えた。
蝶合戦
本所の竪川に幾万もの蝶が突然現れて、宙を舞うという椿事が起きた。周辺の人々は慌てて松坂町の善昌という尼のもとに駆け込んだ。
善昌は町屋に弁天様を祭り祈祷を始めた、現代でいう新興宗教家で霊験あらたかとの評判であり、このたびの蝶合戦も常々善昌が言っている凶事の前兆と人々が争って駆けつけたのだ。
それから暫くして夏の盛り、15日間の祈祷が行われた。その半ばに善昌は突然御戸帳を閉じ本尊の弁天様を隠してしまった。夜中に弁天様の我が身を隠せとのお告げがあったのだという。
そして盂蘭盆の祈祷明けの日に、信者たちが善昌がいなくなったと騒ぎ出した。家主立会いで部屋に入り台所の揚げ板を揚げると、そこには首を切られた善昌の死骸があった。蝶合戦や弁天様のお告げなどのいう凶事とは善昌の死だったのか。
筆屋の娘
広徳寺前の筆屋東山堂には二人の美しい姉妹がいて姉をおまん、妹をお年と言った。東山堂では筆を買った客に対して、おまんお年のどちらかが筆の先を舐めて引き渡してくれるのが舐め筆と評判であった。
ある日、姉娘のおまんが変死した。最初は食あたりと考えられたが、検視をしてみると毒を飲んだことがわかった。自分で毒を飲んだのか、誰かに飲まされたのか…
この解決がつかないうちに筆屋の近くにある徳法寺の善周という若い僧が同じように毒死した。善周は東山堂でいつも筆を買っていて、毒死した日も東山堂で筆を買ったらしいとわかり、おまんの死も俄かに事件性を帯びてきた。
鬼娘
夏の盛りに連続して女が襲われた。鼻緒屋の娘、酒屋の娘、小間物屋の女房そして浅草奥山に出ている茶店の娘。鼻緒屋の娘は道を歩いていて、突然に女から声をかけられ相手を見ると鬼女のような顔にびっくりして悲鳴をあげて逃げた。
酒屋の娘と小間物屋の女房は店先で誰もいないときに喉笛をするどい刃物で噛み切られて死んでいるのが発見された。
浅草奥山の茶店の娘は、台所で行水を浴びているところを襲われ、やはり喉を噛み切られて殺された。3人の死の前後には近くで鬼女のような顔をした女が目撃されていた。鬼女による連続女性殺人事件に半七が挑む。
小女郎狐
半七が奉行所の御仕置例書…地方の代官所から町奉行所への問い合わせとそれに対する奉行所の回答を書き留めておいた帳面を見ている中にあった話。
下総国新石下村の猪番の小屋に月見を名目に6人の若者が集まり、番人をいれて7人で夜遅くまで酒盛りが行われた。その翌朝、番小屋は朝から戸が閉ざされ誰も出てこなかった。村の人間が行ってみると番小屋の囲炉裏では青松葉や青唐辛が山になって燃され、全員が倒れていた。
倒れていた7人のうち、5人はすでに死んでおり、2人も半死半生。生き残った2人に聞いても、酔いつぶれた後のことは何も覚えていないが、松葉や青唐辛をくべたことは絶対にないと否定した。
実は新石下村には小女郎狐の伝説があり、7人はいたずらで子狐をいじめ、助かった2人を除く5人は子狐を松葉でいぶり殺したことがあった。
村中は小女郎狐の祟りだと震え上がった。この話を聞いた八州見廻りの目明し常陸屋の長次郎は、狐の探索にかかった。
狐と僧
時光寺という寺の住職が行方不明になった。伊賀屋の法事に小坊主と共に行き、その帰り道に自分は寄り道をするからと小坊主を先に返し、そのまま行方がわからなくなった。
翌朝、無総寺という寺の前の大きな溝に、時光寺の住職の衣や袈裟をつけた狐がはまって死んでいた。狐の死骸のそばには、やはり時光寺の住職のものである数珠や観音経も落ちていた。
寺社奉行所で事情を聞くと、時光寺の住職は最近犬嫌いになっていたという。それを境に人間だった住職が、狐の化身に入れ替わったらしいが…
女行者
公家の娘と名乗り、霊験あらたかな祈祷を行う女行者が繁盛していた。勤王討幕の議論かまびすしいなか、公家の息女を名乗っているような女行者は、厳重に詮議しなければならない。
詮議をするにあたり、内情を調べるよう半七に命が下った。女行者は20歳前の娘で、夜中に別室で高い祈祷料を取って特別に祈祷をしているなど、かなりいかがわしかった。
その熱心な信者の中に紙問屋伊勢屋の一人息子がいた。聞けば女行者たちは伊勢屋から祈祷料の名目でかなりの小判を取っている。
伊勢屋は未亡人とその一人息子の二人ともが信者で、番頭たちがあまりの入れ込みように心配しても母子は聞く耳持たなかった。そしてある日のこと、一人息子の行方がわからなくなった。
化け銀杏
旗本稲川家から狩野探幽の掛軸を売りたいとの話が茶道具屋河内屋に会った。稲川家の売値は500両。河内屋では主人と番頭が相談のうえ250両で引き取ることにし、若い番頭の忠三郎に250両と予備金100両を持たせ、本郷の稲川家に向かわせた。
稲川家では半値に値切られて渋ったものの、切羽詰った事情で掛軸を担保に5年間金を借りることにした。忠三郎は250両と引き換えに掛軸を持って、夜更けの道を河内屋に向かった。
途中で雪が降り出し、滑って転んだ拍子に堤燈の火が消え、道に迷ってしまった。ふと見上げると松円寺の化け銀杏と言われる銀杏のそば来ていた。
その途端に、何かに襟髪を捕まれて投げ飛ばされ、忠三郎はそのまま気を失ってしまった。通りかかった人に声をかけられて気がついたが、懐の100両と掛軸、それに羽織まで何者かに奪われていた。
この話を聞いた半七は最初稲川家を疑った。忠三郎が掛軸を持っていることを知っていて、詐欺を働こうとすれば働けるからだ
が、稲川家は大身で評判もよく、今度の借財も領地の不作のために領民を救済するためのものだった。そんな家が詐欺まがいのことをするわけがない。では誰が忠三郎を襲ったのか…
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