半七捕物帳(一)
光文社文庫

岡本綺堂作の半七捕物帳の記念すべき第一作「お文の魂」から第十四作「山祝いの夜」を収録。
お文の魂
この話は「わたし」が、Kのおじさんから聞いた話で、その中に半七が出てきてKのおじさんの影で事件を解決する。
旗本松村彦太郎の妹お道は、同じく旗本小幡伊織のもとに縁付き、お春という三歳になる娘も設けた。ひな祭りが終わり飾ってあった雛人形を片付けた夜に、お春が「ふみが来た、ふみが来た」と泣き出し、お道が枕元を見るとびしょぬれの女の幽霊が座っていた。
お道はその夜は、ほとんど眠れなかったが、翌日夫の伊織に打ち明けることはできなかった。その翌晩も同じことが起こり、さらにその翌晩も…
お道はいたたまれなくなって実家に戻った。小幡の邸の近くに住む旗本の次男坊のKのおじさんが、小幡から話を聞きおふみの幽霊を探すが、埒が明かず偶然に出会った半七に事件の解決を頼む。事情を聞いた半七は翌日からKのおじさんと共に行動を開始した。
石燈篭
日本橋の古くからの小間物屋菊村の娘お菊が行方不明になった。お菊は番頭の清次郎といい仲で、その日も浅草奥山の茶屋で密会し、清次郎が先に出たがそのままお菊は行方不明になってしまった。
一日おいてお菊がひょっこり店に帰って来たが、あっという間に再び消えてしまった、さらに、その翌日の夜にもお菊現れたが、その夜にはなんと女主であるお菊の母親お寅を匕首で刺し殺して逃げてしまったという…
半七は菊村の庭にあった石燈籠の笠に、かすかに残っている小さな足跡に注目した。
勘平の死
鉄物屋和泉屋は一家そろって芝居好きで、年末には素人芝居を催すのが恒例だった。素人芝居といっても座敷をぶち抜いて舞台をしつらえ、大道具小道具にも金をかけて、近所のものをたくさん招く本格的なものだった。
その年は忠臣蔵を五幕、六段目は若旦那の角太郎が勘平を演じることになっていた。六段目の幕が開き、勘平の切腹の場面で悲劇が起きた。使われた刀が本身にすり替えられていたのだ。
本身の刀で切腹した角太郎は、すぐに手当てを受けたが二日後に死亡した。いったい誰が刀をすり替えたのだろうか?そしてその動機は?
湯屋の二階
半七の手先の熊蔵は愛宕下で風呂屋をやっていた。そこの二階に毎日のように侍が二人やって来た。最初は勤番の侍かと思っていたが、毎日やってきては一日中ぶらぶらしている。
熊蔵は偽の侍で、悪事を企んでいるのではないかと半七に相談したが…
お化け師匠
お化け師匠とあだ名される踊りの師匠水木歌女寿が死んだ。死体の首には黒い蛇が巻きついて、関係者や近所の者は祟りだと騒いでいた。
歌女寿には養女にした歌女代という若師匠がいて、強欲な歌女寿は歌女代の美貌で弟子を大勢集めて稼がせていた。その歌女代をお囲いものに…という大名家の留守居役から話があり、金に目がくらんだ歌女寿は引き受けたが、体が弱い歌女代が頑として断り、結局話が立ち消えになってしまった。
これに怒った歌女寿は体の弱い歌女代を徹底的に働かせ、歌女代はついに病死してしまった。それ以来、歌女寿のところには歌女代の幽霊がでると噂が広まり、弟子は去り使用人も暇をとった。
そして歌女代の一周忌の日に、首に蛇が巻きついた歌女寿の死体が見つかったのだ。半七が口々に騒ぐ人々を押し分けて部屋に上がり死体を見てみると、首には人間の手で絞めた跡があった。歌女寿は誰かに絞め殺され、そのうえで首に蛇を巻かれたのだ。
半鐘の怪
夜中に自身番の半鐘がひとりでに鳴るという出来事が続いて起きた。当初は誰かのいたずらと思い、町内では見回りをしていたずら者を捕らえようとしたが影も形も見えず、気を緩めるとまたいたずらをされるという繰り返しだった。
さらに暗くなってから町内の人間にもいたずらをするようになってきた。いたずらされた人間は、相手が何者かわからないうちにいたずらされて、目を丸くした。
そして普段から悪さばかりする鍛冶屋の小僧が捕まったが、頑強に否認。それでも、番屋に縛って置いておいたがその間にもいたずらはやまず、アリバイありということで解き放たれた。
それからもいたずらは増すばかりで、町内中が弱り果てているところに、噂を聞いた半七が自身番を覗きに来た。
奥女中
永代橋の際に茶店を出しているお亀が半七のもとを訪ねてきた。お亀には十七になるお蝶という娘があって一緒に店に出ている。お蝶は器量もよく、客にも人気がある。
そのお蝶が、ある日行方不明になり、十日ほどして憔悴して戻ってきた。聞けば、茶店から戻る途中に数人の男達に襲われ、駕籠に乗せられてどこかの武家屋敷の奥に連れ込まれた。そこで軟禁状態になったが、時々誰かが来てはお蝶を眺めて帰っていく。そのときは相手の顔を見ることも許されなかった。
十日ほどして、そんな生活に耐えられなくなり、そのことを訴えると帰してくれたという。帰り際に目録を渡され、お亀と共に開いてみると十両入っていた。
その後二度ほど同じように誘拐され、やはり十日ほどすると戻され、その度に十両ほど持たされた。そして四度目、お蝶は十日が過ぎてても戻ってこない。いったいお蝶には何が起きたのか…
帯取りの池
池の上に美しい錦の帯が浮いているのを取ろうとして近寄ると、その帯に巻き込まれて池の底へ沈められてしまうという言い伝えのある帯取りの池に、ある日若い女が締める派手な帯が浮いていた。
盗賊が帯を盗み始末に困って捨てたのでは、ということになったが、その帯の持ち主、おみよが絞め殺されているのがわかり事件は意外な展開を見せた。おみよは母親と川越の親戚の葬式に行く途中に、親から逃げ出し家に戻ったところを絞め殺されたらしいのだが…
春の雪解
吉原に近い谷中田んぼの中に建つ、辰伊勢の寮には辰伊勢のお職誰袖がちょくちょく養生にくるらしい。辰伊勢とは吉原江戸町に店を張る遊郭で、お職とは店一番の花魁のことである。
誰袖が養生に来ると、近くの按摩の徳寿を呼ぶのだが、徳寿は呼ばれても言い訳をして行きたがらない。このことを知った半七が不思議に思い徳寿に会って聞いてみると…
広重と川獺
広重と川獺にまつわる二つの話…
正月のある日、浅草の旗本屋敷の屋根に幼い女の子の死骸が乗っているのが見つかった。梯子をかけて死骸をおろすと迷子札もないので、どこの誰ともわからない。それよりもなぜ、どうやって女の子が屋根になぞ登ったのか?旗本屋敷からの依頼が町方を通じて半七のところに来た。半七は広重の絵にヒントを得て…というのが広重にまつわる話。
いたずらな川獺に顔を引っかかれて血だらけになった男が荒物屋に入ってきて水を飲ませてもらった。その小さな出来事があった翌日、下屋の道具屋が何者かに五十両入りの財布を奪われ、顔を傷つけられたと自身番に届け出てきた。半七は強盗事件を調べるうちに、前日の川獺のいたずらと関係していそうだとあたりをつけた…というのが川獺の話。
朝顔屋敷
八丁堀の同心から呼び出しを受けた半七が同心の屋敷に行くとそこには旗本杉野大之進の用人が来ていた。その用人が言うには…
大之進の一子大三郎は、今年素読吟味を受けることになっていた。素読吟味とは旗本や御家人の子息に対する試験のことで、その朝は早起きして朝六時までに湯島聖堂に入り待機するのが慣例であった。大三郎も例に漏れず朝早く中小姓と中間の二人を共に屋敷を出て聖堂に向かった。
途中で中小姓が草履の鼻緒を切り、中間の手を借りて鼻緒を挿げ替えたが、その間に大三郎の姿が掻き消えていた。あたりを捜したが姿は見えず、先に聖堂に向かったかと聖堂に行ってみたが、大三郎はまだ出頭していなかった。屋敷に戻ると屋敷にも帰っておらず、当年十三歳になる大身の旗本の跡取りが消えてしまったのだった。
大三郎は、学力には何の問題もなく素読も問題なく受かるほどの力があり、逃げたとも思いにくい。屋敷内で手を尽くしたが、手がかり一つつかめず内々で町方に相談にという次第だった。
命を受けた半七が調べ始めると、杉野の屋敷は朝顔屋敷と呼ばれ、朝顔を極端に嫌っていたが今年の夏に朝顔が咲いたという…
猫騒動
長屋に住むおまきという老婆は、孝行息子で魚の行商をしている七之助と二人暮らし。七之助は近所でも評判がよかったが、その一方でおまきの評判はさんざんだった。
おまきは猫好きで、長屋の部屋中に猫を飼っていた。その数は二十数匹に及び近所を徘徊し鳴き声もうるさかった。長屋一同相談をしておまきの猫を海に沈めて始末してしまった。おまきは別段悲しむ風でもなかったが、一週間ほどしておまきが死んでしまった。
七之助が仕事に廻っている間のことで、医者の診断では卒中とのことだったが…怪談風の物語。
弁天娘
半七のところに神田明神下の質屋山城屋の番頭利兵衛が訪ねて来た。
山城屋の小僧徳次郎が口中が腫上がり何も喉を通らなくなり、熱が出て苦しんだあげくに死んでしまった。医者も手の施しようがなく、病後は兄徳蔵のもとに宿下がりをさせたが、その徳蔵が山城屋に因縁をつけてきたというのだ。
徳蔵の言うところによれば、徳次郎は死ぬ間際にお此さんに殺されたと言って息絶えたというのだ。お此は山城屋の娘で器量はよかったが縁遠く、二十七になるのに一人身だった。今は隠居所で祖母と共に暮らしていた。
徳次郎は、そのお此に殺されたというのだ。徳蔵は実直を絵に描いたような魚屋で、とても嘘を言うとは思えない。今度も思い余ったように山城屋に乗り込んできたというのだが…番頭の頼みは、半七にぜひとも真相を確かめてほしいとのことだった。
山祝いの夜
湯治に行っている与力の夫人を見舞うために、子分を連れて箱根に向かった半七。明日は箱根に登るという前夜、泊まった小田原の宿屋で事件に遭遇する。
泊まり合わせた駿府の商人二人が夜中に殺され、持っていた金を奪われた。役人の詮議が始まり、半七達も部屋で待っていたが、そこに相宿になった七蔵という男が飛び込んできた。
七蔵は旗本の中間で、とかく悪い噂のある男で、半七の子分を見知っていた。七蔵は、今回の事件にもかかわりがあると言い出し、助けて欲しいと訴えた。
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