死者は旅行中
晶文社

合作で活躍したボアロー&ナルスジャックのひとりトーマ・ナルスジャックの1948年の作品。地中海を行く貨物船白鯨号で起きる密室での殺人や人間消失をサスペンスタッチで描く。光文社発行のミステリ雑誌EQの1982年3月及び5月号に掲載されたのち、1988年にボアローの「三つの消失」とともに晶文社「大密室」に収録された。
ソアール・ディマンシュ紙の記者であるジル・サン=タボルドは、エジプトのアレクサンドリアの街中でグラディス・エバーハートと偶然に出会った。観光客の写真を撮っては売りつける街頭写真屋が2人の写っている写真を撮ったのがきっかけだった。
サン=タボルドは仕事でカサブランカまで行く予定だったが、グラディスによればペストが発生したために飛行機は欠航だという。しかしグラディスの伯父のチャールズ・エバーハートが白鯨号という貨物船のオーナーで、今夜船はタンジールに向け出港するのだという。
そこでサン=タボルドは白鯨号に便乗させてもらうことにした。実はサン=タボルドはグラディスに一目惚れしてしまっていたのだった。船の中で長時間にわたりグラディスと2人きりになれるとなれば、長旅も苦ではなかった。
しかし船には他にも便乗者がいたのだった。5人のアメリカ人で弁護士のジェラード・ニコルソン、大学教授のトム・バッジ、銀行の重役のルイス・ターマンス、石油会社副支配人ビル・トーフィ、技師のピーター・バイヤーという錚々たる顔ぶれだった。
さらに船には不気味な荷物が積まれていた。エジプトのミイラだった。どうもそのミイラには、呪いを呼ぶという言い伝えがあるようだった。それを裏付けるように、船が沖合に出ると風雨が強まり、やがて嵐になった。
そのなか浪間に漂うランチを発見し、乗っていた男を救助した。その男は肩を短剣で切られて大怪我をしていたが、強靭な体力の持主で、船医によれば命に別状はなく、回復もかなり早いだろうということだった。事実男は普通にしゃべることができた。
それによれば男の名はジェラード・コールドウェルといい、シカゴ・トリビューン紙の記者をしているということだった。パレスチナに密入国するユダヤ人の実態を探るために他の船に乗っていたところを襲われ、命からがら逃げだしたのだという。しかしその話も本当かどうかはわからなかった。
そして怪しい雰囲気で嵐の中を進む白鯨号に、ついに事件が起きた。船室から叫び声がしたのだ。すぐに周囲の人間が駆けつけたのだが、その部屋の中には、血だまりの中に短剣が落ちているだけで誰もいなかった。部屋の主はバッジ教授。
血の量からいって瀕死の重傷か死んでいるはずなのにバッジの姿も犯人の姿も部屋の中にはなかったし、船室から逃げ出すことも時間的に不可能だった。これをきっかけに船の中では5人のアメリカ人が次々に襲われ、消えていくのだった。
Thomas Narcejacのメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -