高木彬光の長篇第4作、神津恭介ものの長篇では第3作にあたる本作品は、昭和25年3月13日から8月29日まで、青森の地方紙「夕刊東奥」に163回に渡り連載されたもので、のちに単行本化された。
高木彬光は初期には読者への挑戦を付していたが、本作品も例外ではなく5千円の懸賞金をつけた犯人探しとなっていて、正解者が4人いたという。
神津恭介のもとに配達された一通の手紙。それには魔弾の射手が、明夜帝都劇場に姿を現し、魔弾の第一弾が放たれるかもしれない…と記され、帝都劇場の切符が一枚同封されていた。
指定どおりに帝都劇場にやってきた神津。舞台はカルメン。そしてカルメンを演じるのは水島真理子。ところが水島真理子は途中で「デア、フライシュッツ」と叫んで気絶してしまった。
「デア、フライシュッツ」とはドイツ語で魔弾の射手の意味。神津は楽屋に水島真理子を訪ねるが面会を拒否され、魔弾の射手と叫んだ理由も答えてくれなかった。
水島真理子が気絶したのと前後して、神津の1つおいて隣の席にいた男が姿を消していた。神津はその男が気になっていたが、それが画家の倉橋優作と知る。
その倉橋優作を翌朝訪ねた神津は、倉橋が自宅で死体となっているのを発見した。死体の顔は女物の黒いショール、その手には女物の黒い手袋、そしてショールの下の顔は無残にも切り刻まれ、目も鼻も口も全て切り取られていた。
死因となった胸の傷口からはどす黒い血が流れていたが、傷を作った凶器は見当たらなかった。そして死体のそばにはウエーバー作「魔弾の射手」第一幕のピアノの楽譜。ついに魔弾の射手は魔弾を放ったのだった。
倉橋の死体の顔にかけられていたショールと手袋は水島真理子のものであった。水島真理子は家で暴漢に襲われ、その時にショールと手袋を持ち去られていたのだった。
事件の鍵は水島真理子にあると睨んだ神津は、真理子の故郷青森に向かった。ところがそこでも魔弾の射手に先を越される。真理子をよく知る真理子の親戚の長田雄吉が、殺されてしまったのだ。
雪の上に倒れていた長田の死体の周囲には足跡はなく、銃弾は体の中で消えていた。雪の密室ともいえる状況にさすがの神津も絶句する。
さらに事件は水島真理子のパトロンで、元子爵の南条勝彦と南条家の別邸に真理子とともに住むオペラ歌手木下薫、テノール歌手宮下孝次、ヴァイオリニスト原晋作、芸能マネージャー大垣忠則らが関係し、複雑な人間模様も絡んで混沌とする。
そして魔弾の射手とは戦前、東洋の魔都といわれた上海で、殺人請負を業としていた男に付けられた名前であることがわかった。
戦前の殺人請負者魔弾の射手が東京で再び活動を始めたのだろうか…
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