ニュートンの密室

箱根空間美術館では、開館15周年を祝うパーティが盛大に開かれていた。この美術館は1年前に経営危機が表面化し、そのときに総合エンタテインメントの総帥であり、芸能界に大きな力を持つ大山憲吾が買い取り、館長に就任していた。
大山は文化事業に貢献することが使命だと公言していたが、実際には美術がわかるわけではなく、単なる売名あるいは宣伝行為であるとする批判もまた多かった。しかし大山は、そんな批判を気にもせず、むしろ素人にもいいものだとわからなければ、芸術ではないと言っていた。
さて15周年を記念して正面庭園には、記念モニュメントが新たに作られた。大山が買っている若手女流芸術家高桐ルイが制作した「ニュートンの密室」と題されたそれは、直径8メートル、高さ15メートルの巨大な円筒だった。
ステンレスで作られ、表は金色に表面加工され、内部に入るための扉が1ヶ所だけついていた。その扉を使って中に入ることができ、中に入ると下には砕石が敷き詰められ、上部には空が見えた。つまりこの円筒には蓋がされていないのである。
扉は常時鍵が掛けられており、オートロック式で外からしか開けることはできなかった。中からはとっかかりひとつなく、物理的に開閉が不可能なのだ。万が一を考えて、内側には3メートルほどのポールが建てられ、そこには監視カメラが据え付けられて常時モニタリングされていた。
「ニュートンの密室」は15周年記念パーティでお披露目され、ルイの挨拶の後に特別に内部が公開される予定だったが、ルイは挨拶の後に行方がわからなくなってしまった。そして「ニュートンの密室」の中に倒れているのがモニターを通じて確認されたのだ。
モニター越しに見ると、「ニュートンの密室」の扉のすぐそばにルイはうつぶせに倒れていた。しかも「ニュートンの密室」の扉はロックがかかっており、鍵を持って来て開けると、ルイの体が邪魔して扉がすぐには開かなかった。無理やり扉を開けて入ってみると、そこには全身を何か所もべーべキュー用の金串で刺されたルイの死体が転がっていた。
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