日本殺人事件

Samuel Xという匿名の作者が書いたThe Japan Murder Caseという本を見つけた山口誠也が粘り強い交渉の結果それを翻訳したのが本書…という設定。
主人公はアメリカ人の東京茶夢(トウキョウサム)で、茶夢はきっすいのアメリカ人だが、旧姓東京という継母を持ち優しくされた。父母の死後にアメリカを食い詰め、日本のカンノン市に住む伯父のトウキョウバショーを頼りに日本にやってきた。カンノン市でまず逗留したハットリ旅館の女中のエクボ(父親は警察署長)と妙に気が合い、2人で怪事件に立ち向かう。
ただしSamuel Xは実際に日本行ったことはなく、怪しげな資料と想像力でThe Japan Murder Caseを書いたものらしく、いまだ人力車が走り、侍が息づき、家々の門前には鳥居がたち、遊郭が公認された日本が舞台であった。
微笑と死と
米軍が駐留するカンノン市の日本旅館に逗留した東京茶夢は、夕食に日本酒を飲みすぎて夜中にトイレに立った。
その帰り、迷路のような旅館の廊下を迷ったあげく部屋を間違えてしまったが、そこでは裃姿のアサエモンという男が見事に切腹して果て、その側には息子のモンドと妻のハルが立っていた。
アサエモンとモンドの父子と茶夢とはカンノン市まで来る船の中で知り合っていたが、アサエモンは米国企業の支社に在籍し、本国からくるリッパート社長に対し従業員解雇の撤回を求めにカンノン市を訪れるという話を聞いていた。
リッパートは業績の悪化を理由に日本での大量解雇を目論んでいたが、終身雇用を原則とする日本では組合を中心に反遺体運動が起き、アサエモンがその代表として来日したリッパートと話し合う予定だったのだ。
ところがリッパートはアサエモンの要求を拒否するどころか侮蔑的な態度をとった。憤ったアサエモンが思わず刀の柄に手をかけるとリッパートは社長である主君に刃を向けるとは忠義心のかけらもない奴と嘲笑った。
そこで武士道の恥を悟ったアサエモンは切腹して首をリッパートに渡し、その首と引き換えにリッパートは解雇を撤回することにしたのだ。
リッパートはアサエモンが切腹する前に現れて女中に案内されてアサエモンの部屋に現れ切腹に立会い、そのまま白木の箱に入れたアサエモンの首を抱えて帰って行ったという。
その帰る姿は旅館の女中も目撃していた。ところがアサエモンの首を抱えて去って行ったリッパートは、そのまま首とともに行方不明になってしまった。

侘の密室
ワキ千家のお茶会に招待された茶夢。ワキ千家は現在の家元14世ソウユーが不治の病にかかり、その後継として2人の養子ゲンサイとセンオーのどちらが15世になるかで揉めていた。
ゲンサイはワキ千家をビジネス的に発展させ日本一の座にした功績がある半面で、スキに通じる遊び心満点の茶道を目指していた。
一方のセンオーはソウユーの姉の子でソウユーと血縁関係があり、ワビの心に通じる茶道を目指した。つまりゲンサイとセンオーは正反対の考え方であったのだ。
ゲンサイは茶道教室やお茶のチェーン店を出店し、一方センオーは一人さびしく庵を結んでいた。そのセンオーの茶を久しぶりにゲンサイが所望して久しぶりに茶会となったのだ。
正客はゲンサイ、それにセンオーの弟子でありながらゲンサイに洗脳されつつある派手好きのシューコー、茶夢に茶夢が滞在する旅館の女中の笑窪の4人であった。
当日茶室で茶を喫し終わり、ゲンサイを先頭に客たちは茶室を去った。10分ほどして忘れものに気づいたゲンサイと笑窪、それにつきあう形で茶夢が茶室に向かうと途中でシューコーとも出会い、結局4人は茶室に戻った。
ところがにじり口も裏口も内部から掛金がかけられていて入れない。仕方なく茶夢とゲンサイで裏口を壊して入ってみると、センオーが背中をナイフで刺されて死んでいた。傷口の位置からも自殺ではないうえに、そもそも凶器は茶室の中からは発見されなかった。

不思議の国のアリンス
カンノン市の海に浮かぶクルワ島に行くには、島と陸との間にかかる1本の橋が唯一の道であった。橋を渡ると鳥居型の大門があり見番がある。
カンノン市に初めて来たときに船の中で知り合ったサヘイジに誘われて茶夢はクルワ島に渡った。そしてサヘイジの誘いで大店のミウラ楼にあがり、そこで今をときめく花魁のアリスガワに会い、その後は芸者をあげてのドンチャン騒ぎとなった。
その騒ぎの最中に芸者の腰巻が風に乗って窓から下に落ち、ちょうど行きかかった牛の目の前に落ちた。
それを見て興奮した牛が暴走を始め、牛が引いていた象の見立ての人形が倒れ、たまたま側にいたワカマツ楼の花魁マツカゼが死んでしまった。象の牙に見立てた刀がマツカゼの喉を切り裂いたのだ。
事件は事故とされたが、これを機に場はお通夜のようになった。やがて大引けとなったが茶夢のことをアリスガワが見染めて、一夜の相方を勤めることになった。
深夜アリスガワの部屋で酒を飲んでいるうちに茶夢は寝入ってしまい、翌朝起こされるまで気づかなかった。翌日楼の若い衆に起こされるとすでにサヘイジは帰ったあと。
しかも勘定は全て茶夢に押しつけられていた。茶夢は騙されたのだ。さらに茶夢が寝ていた隣の部屋ではアリスガワが両腕を切断されて事切れていた。
詐欺どころか殺人の容疑までしょい込むことになった茶夢だったが、なんとか警察署長とバショー伯父のおかげで容疑者からは外された。
やがて昨日のマツカゼの死とアリスガワ殺しが関連することが分かった。風吹けばジョロ屋が損する、翔ぶ鳥あとを濁すとそれぞれ書かれ、カマイタチと署名された紙がワカマツ楼とミウラ楼に投げ込まれたのだ。


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