雲上都市の大冒険

第17回鮎川哲也賞受賞作。
昭和27年11月、戦後の復興もかなり進み始めたころ、青年弁護士殿島のところに、岩手県の四場浦鉱山のオーナー三河正造の息子正一郎から電話があった。すぐに鉱山に来いというのだ。
実は正造は数日前に坑道の中で首を切り落とされた死体となって発見されたのだった。そして、その陰惨な事件の犯人もわかっていた。座吾郎という男だった。座吾郎は20年前から正造の指示で坑道の奥深くに作られた牢で監禁されていたらしい。
いたらしいというのは、その事実を知っているのは正造と看守役の恩田とその妻令子の3人しかいなかったからだった。今、正造は殺され、恩田は不法監禁で逮捕され、令子は口を堅く閉ざしていた。
断片的に分かったところによると、座吾郎は何かの理由で監禁された20年前、自分をこんな目に合わせた正造や関係者への復讐を誓い、20年後に脱獄して皆殺しにするとわめき、以後もことあるごとに口にしていたという。
その20年後というのが来月、つまり昭和27年12月にあたっていた。最初は気にしていなかった正造も、あまりに狂信的な座吾郎の態度に、12月が近づくにしたがって神経質になってきていた。
そして牢を鉄格子から扉に変更し、さらに扉を溶接し、鍵穴までも塞いでしまった。坑道の奥の一角にごく小さな食事用の穴があるだけの扉を持ち、ほかには空気用とトイレ用のごく小さな天然の穴が岩壁に空いただけの密室が出現したのだった。
厳密にはもう一つ天然の穴があったが、それは4m以上もの高さにあるもので、穴も細く脱獄には全く役に立たないはずだった。ところが座吾郎は、見事にこの密室空間から脱出したのだった。
朝、看守の恩田が食事を持っていったところ、牢部屋の中には座吾郎の姿はなかった。急いで正造に知らせるべく恩田は走ったが遅かった。坑道の中でしたとなっていたのだった。
このような事実が明らかになったころ、正一郎から殿島に電話があったのだ。殿島は四場浦鉱山の顧問弁護士をしていたのだが、正一郎は自分の身を守ってほしいというのだ。というのは座吾郎の行方がわからなかったからだった。
正一郎は自分も座吾郎に殺されると信じていた。殿島はお門違いだと断ったが、顧問契約打ち切りを匂わされ、金銭的な問題もあるので引き受けざるを得なくなって岩手県に向かった。
その道中、東北線の列車の中で不思議な青年と出会った。後にその男は、探偵役となる男だったが、殿島はとにかく四場浦鉱山に入った。
四場浦鉱山は日本有数の硫黄鉱山で、四場浦山の頂上には鉱山関係者1万5千人が住む雲上都市ができていた。そこでは鉄筋のアパートが建ち、水洗便所やセントラルヒーティングが完備していた。小学校や中学校は当然として高校まであった。
病院は鉱山関係者は無料で利用でき、商店街もあって会社の補助があるために物価も安かった。祭りは福利厚生の意味もあってしょっちゅう開かれ、屋台はすべて無料となるという。その楽園のような都市で殿島は、正一郎が雇った名探偵荒城咲之助の助手とて事件に挑戦することになった。
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