螺旋

房総の東金市に住む諫干博士は、日本における精神病理学、精神分析学の権威であったが、引退してからは人里離れた地に引き込んで、自給自足の農業をして暮らしていた。最近では環境保護団体にも加わって、この地を通過する予定の第二房総導水路建設反対運動にも積極的に参加していた。
第二房総導水路計画は国主導で進められ、すでに60%が完成していたが、東金や成東、大網地区の自然が破壊されるという理由で反対運動が起きはじめた。特に天然記念物である成東湿原が 第二房総導水路建設の影響で涸れはじめているとの調査結果が出てからは、環境庁も放っておけず、環境アセスメントの再調査がなされることとなり、工事は事実上中断されていた。
一方、 第二房総導水路建設にあたっては都築裕三という建設業者が裏で暗躍しているという噂が絶えなかった。都築は自ら建設業を営む傍らで、地元中小建設業者からなる千葉建設共同懇親会という団体の世話役も務めていた。
第二房総導水路の工事の一部をこの建設懇親会が受注していたが、通常こういう公共工事では中小業者が直接元請けになるのは異例のことであり、この受注獲得には都築の暗躍があったといわれていた。
東金、成東、大網地区では 第二房総導水路建設を巡って反対派と賛成派が対立していたが、この状況の中で殺人事件が起きた。環境庁のアセスメント再調査の事前準備を行っていた瀬下という男が殺されて、東金浄水場のタンクに遺体を投げ込まれたのだった。死因は青酸中毒であった。
瀬下は東金駅前のホテルに滞在して拠点としていたが、死体が発見される数時間前にホテルの瀬下の部屋でボヤ騒ぎがあった。このボヤ騒ぎと瀬下殺人事件とは何らかの関連がありそうだったが、捜査は進んでいなかった。
それから数か月、今度は諫干博士が死んだ。諫干博士は悪天候の夜、親しくしているS新聞木更津支局の垂水記者に電話をしてきて、瀬下殺しの犯人がわかったといってきた。垂水記者と新人の関口記者が博士の屋敷に駆けつけると、博士は密室状態の中で殺されたのだった。
島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -