ブラックスワン

昭和45年1月×日、新潟県にある白鳥飛来地で有名な瓢湖の湖畔に7人の男女がいた。男が4人、女が3人で、この7人は昨年末にMデパートでアルバイトをし、それが縁で知り合った仲間だった。
湖に群れる白鳥の中に1羽のブラックスワンが泳いでいたが、そのブラックスワンは弱り切っていた。ブラックスワンを医者に見せようということになり、一行のうちの中野良雄がそのブラックスワンを抱きかかえて一行が泊まっている旅館に保護した。
とりあえず餌を与え、体力を回復させてから、翌日にでも医者に見せようと考えたのだ。一行の中では特に橋淵亜矢子がブラックスワンを気遣い、熱心に面倒を見ていた。翌朝、ブラックスワンの姿がなかった。
旅館の好意で檻に入れられていたのだが、その檻はもぬけの殻だった。そのブラックスワンは瓢湖の白鳥の群れの中で、死体となって漂っていた。
その日の午後、橋淵亜矢子は予定通りに新潟駅から大阪行きの特急白鳥に乗り込んだ。亜矢子を見送った6人は、これも当初の予定通りに新潟駅で解散した。
実家に戻る者、東京に帰る者、居残ってスキーを楽しむ者といろいろであった。亜矢子はこの日の夜10時から、京都駅前のホテルでお見合いが予定されており、そのため一行より一足先に白鳥に乗って京都に向かったのだ。
だが、亜矢子はそのまま消息を絶った。いや正確には京都のホテルで亜矢子を待つ両親に電話があり、また9時ごろに大阪のホテルで電話を架ける亜矢子の姿が目撃されているのが、のちの警察の捜査でわかった。
その18年後、東京成城のテニスクラブで事件があった。そのテニスクラブは会員制で、ビジターは会員の同伴がなければ入れなかった。
ひとりの女性が受付に来て、応対した係員に「ビジターだが、同伴の会員は今駐車場に車を入れているから、このあとすぐに来る」と会員の男性の名前を告げて手続きをし、女性ロッカールームに入って行った。
あいにく受付の女性係員は電話の途中で、会員の名前を聞いたのだが覚えていなかった。数分後、女性ロッカーから叫び声がし、火だるまになった女性が転がり出て来た。
さっき受付を済ませた女性だった。女性は火だるまのまま外に出て、焼死体となった。その女性が書いた受付簿には、橋淵亜矢子とあった。

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