篠婆 骨の街の殺人

山間にある忘れられたような小さな篠婆には、陶杭焼という焼物が伝わっていた。この篠婆にやってきたのは、ミステリ作家志望の鹿頭勇作。
勇作は2回ほどミステリの新人賞で最終選考まで残ったことがあるだけで、まだデビューすらしていなかったが、篠婆を舞台にしたトラベルミステリを書こうして、この地にやってきたのだった。
大阪から快速に乗り、篠山口の駅で降りて、篠婆に向うローカル線の篠福鉄道のホームに降りた。そのとき同じホームに向う一人の青年がいたが、その青年は死んでいるのではないかと思うような雰囲気であった。
勇作は青年の後から一両きりの列車に乗り込んだ。車内いたのは先に乗り込んだ青年だけで、その青年はいくつか前の座席に座っていた。
ほかに乗客のないまま、やがて列車は発車した。勇作のところからは、青年のダッフルコートのフードだけが見えていた。そのフードが列車のゆれに合わせて動いているのを見て、勇作は眠くなり夢うつつの状態になった。
暫くして勇作が気がついたのは、篠婆の駅に着く寸前だった。勇作は慌てて立ち上がり青年の側に向かう。その青年と勇作は大阪から快速の車中でも一緒で、快速が篠山口の駅についたときに会話をしていた。
その時の話では、青年も篠婆で降りるはずであった。しかし青年は立ち上がろうともしない。勇作は青年が寝ているのではないかと思って側に行ったが、なんと青年はそこで死んでいた。青年の首筋は血に染まっていたのだった。

一両きりの列車の乗客は勇作と青年だけであったし、篠山口から篠婆までの10分間、列車はどこにも停まらずに走り、車内への出入りは不可能だった。
当然、勇作が疑われ警察に連行された。死んだ青年の名は進藤隆義といい、篠婆陶杭焼の作家虚空蔵太郎のマネージャーであった。
進藤隆義は無類の慌て者、粗忽者であり、この日は大阪で行われている太郎の個展に出かけて壷を預って篠婆に戻る予定だった。
その壷は太郎が気に入らなかったのか、個展の会場から引き下げられたもので、壷は後刻に宝塚駅のホームで割れた状態で見つかった。
壷の破片は進藤隆義のコートにもついていた。すると事件は宝塚で起きたのか?粗忽者の進藤隆義は宝塚で殺されたのを忘れて篠山口に向い、さらに列車を乗り換えてからやっと自分が殺されたことを思い出して死体になったのか?
まさかとは思うが、この事件はそのように考えなければ辻褄が合わないのだった…
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