安達ヶ原の鬼密室

太平洋戦争末期、本土決戦も間近のころ、梶原兵吾少年は学童疎開をしていた寺を抜けだしてやみくもに歩いた。反戦思想があったわけでも、急に弱気になったわけでもなく、兄や周囲の人たちが戦死したことから思いついて、この世の楽園を捜したのである。
いつしか気を失い、気が付いたら部屋の中で老婆に介抱されていた。聞けば、この家の玄関先で倒れていたのだという。もともとあまり丈夫ではなかったが、長時間の歩行と3日間何も食べていないことで、倒れてしまったらしい。
兵吾が倒れていたのは、疎開先より100qほども離れた、海に突き出した半島の中に建つ枡形の邸だった。武者の像が建つ中庭を、ぐるりと2階建ての建物が囲んでいたが、構造は奇妙であった。窓が小さくてほとんどが嵌め殺しだったし、中にはへの出入りは2階からしかできなかった。
邸の持ち主は東京の企業家で、老婆は留守番であった。本当は連れ合いも一緒なのだが、たまたま用事で外出しており、したがって邸にいるのは兵吾と老婆の2人だけだった。老婆は、しばらく休んでいけと親切にしてくれたが、戦争はこんな田舎にまでその影を落としていた。
兵吾が気付いた日に、侵入してきた米軍機と防衛する戦闘機の空中戦があったのだ。そして珍しいことに、日本軍機が米軍機を撃墜した。そしてその夜、兵吾は恐ろしいものを見た。
夜中に目覚めた兵吾は、小さな窓の外に鬼の顔を見たのだ。驚いて部屋を飛び出すと、今度は廊下で鬼を見た。確かに頭に2本の角をはやした鬼だった。その鬼が老婆のいる方に向かった。兵吾は鬼から老婆を守ろうとしたが、老婆は全く相手にせず、兵吾が寝ぼけたのだという。
だが兵吾の恐怖はまだまだ続く。やがて訪ねてきた軍の4人の兵士。その兵士が次々に殺されていくのだが、それが中庭の彫刻の虎の口に死体を咥えられたり、武者の像の持つ槍に喉を突かれたりと、いずれも奇怪な状況で死を迎えていた。
それから半世紀以上たち、この事件の真相を教えてほしいという依頼が八神探偵事務所へ。少し前に、不可解な男女の殺人事件が起きたばかりで、それを見事に解決した八神探偵は、2つの事件に共通性を見出した。
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