動く家の殺人

弱小演劇集団マスターストロークの制作担当に応募したのは、いくつかの難事件を解決した信濃譲二であった。マスターストロ−クでは6年前に舞台稽古中に伊沢清美が事故死するという事故があった。
清美の死をきっかけに劇団は一時壊滅状態になったが、現在は代表の風間彰のほか斎木雅人、毛利恭子、松岡みさとの4人で小さいながらも奮闘していた。
清美の父親伊沢保則は有名な建築家であり、清美が死んだ当時は劇団員たちを相当恨んだようだが、このところ心境が変化して娘の演劇を愛する気持ちがやっとわかってきたと公言していた。
そして保則は娘の気持ちを受け継ぐために、シアターKIという円形劇場を作り、弱小劇団に貸していた。シアターKIは客席数3百の小さな劇場であったが、大劇場並みの設備を誇っていた。
だが貸し出しは弱小劇団のみで、料金も驚くほど安かった。保則に言わせれば、これも娘の演劇を愛する気持ちに少しでも答えるためとのことだった。

保則は清美の命日の日から4日間、清美の追悼公演をマスターストロークに依頼してきた。かつてあれほど恨んだ劇団であったが、それも水に流した上、料金は一切取らないという。
マスターストロークでは4人のほか、清美を知っている当時のメンバーで、その後ほかの劇団に移った滝川陽輔と住吉和郎にも出演を依頼し、滝川の台本で「神様はアーティストがお好き」と題するコメディ・ミステリを上演することにした。
信濃が制作を担当したのは、この公演であった。揉め事はあったものの、なんとか開演を迎えたその初日、舞台の上で事故が起きた。
小道具のナイフが本物とすり替わっていて、舞台上で刺される役だった住吉和郎の脇腹にナイフが突き立てられたのだ。幸い傷は浅く、住吉は一週間程度の怪我で済んだ。
だが、事件はそれで終わらなかった。最終日の最後の舞台で、やはり小道具のナイフが本物とすり替えられて、今度は滝川陽輔の胸に深々と突き立てられ、陽輔は舞台の上で絶命したのだった。
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