A先生の名推理

「夏の最終列車」を除き、鎌倉在住でいつも駅前の喫茶店の同じ席に座ってココアを飲む、店内でも黒いベレー帽をけっして脱がないA先生が、私が持ち込む不可思議な謎をたちまち解き明かす探偵壇。「夏の最終列車」は津島氏のデビュー作品。
叫ぶ夜光怪人
台風一過の蒸し暑いある夏の夜、地方都市の手塚市を走る国道から、闇を切り裂いて野獣の咆哮のような悲鳴が上がった。国道は8車線の幹線で、その両側には多くの住宅や商店が並んでいたが、その咆哮は寝ていた人々を起こすに十分だった。
その野獣のような声の恐ろしさに多くの人は窓を開けようとは思わなかったが、何人かは勇気を持って窓を開けた。その人たちが見たのは国道をゆっくりと歩く青白い光を放つ怪物の姿。その怪物がぎごちない足取りでゆっくりと国道を歩く。姿を見た人はあまりの恐ろしさに声も出ず、思わず宇宙人を想像した。
やがて我に返った人が警察に通報し、警官が駆け付けたが時すでに遅く怪物の姿はどこかに消えてしまった。その怪物を捜す過程で、今度は若い男の死体が見つかった。その死体は公園の池に浮いていた。
身元を示すものはポケットには何もなく、死因は溺死であった。不審死なので現場検証が行われたが、その写真が出来上がったとき人々は戦慄した。死体の隅に白く得体のしれない幽霊のようなものが映っていたのだ。
さらに別の警官が今度は国道沿いの住宅で女の死体を見つけた。田端よしえという前衛画家のアトリエだった。怪物捜査のために戸別訪問していた警官が、鍵の掛かっていない家を見つけて声を掛け、反応がないので上がり込んだところ、アトリエに頸を絞められたよしえの死体を見つけたのだ。
アトリエの中はめちゃめちゃに荒れていた。怪物に続いて男の溺死体、さらに女流画家の絞殺死体と警察は休む間もなかった。よしえのアトリエの現場検証が行われたが、今度の写真にもまた隅に白く得体のしれない幽霊のようなものが映っていたのだ。

山頂の出来事
平井市の郊外にあるわかさか山の山頂には平井大学の山小屋があった。山小屋といっても本来は天体観測用に作られたものだから、三畳ほどしかない簡素なものだった。
その山頂の山小屋を目指して、皆木という学生が夏の夕刻自転車をこいでいた。わかさか山は、外から見るとそれほどではないが、いざ登ってみると結構こう配がきつく、山頂近くにはトンネルが4つもあった。
それらを抜けて山頂手前の最後のカーブを抜けると、皆木は唖然とした。確かにそこにあるはずの山小屋が跡形もなく消えていたのだ。言い知れぬ恐怖に皆木は自転車を駆って山を降り、友達を訪ねて事情を話した。友達の車で再度わかさか山を登ると、不思議なことに山小屋はちゃんと鎮座していた。
一方、同時刻わかさか山の対極にあるわさか山では事件が起きていた。2つの山はそっくりで、違いといえば山頂の小屋の有無だった。わさか山の方には小屋はなく、かわりにわさか婆さんの霊を祀る碑が建っていた。
その碑の前で新婚旅行客を乗せた旅館のマイクロバスの運転手が、瀕死の重傷を負った男を見つけたのだ。運転手はバスを停めて、新郎と協力して男をバスに運び込みUターンして病院に向った。
だが男は病院に着く前に亡くなった。この2つの出来事は皆木によって、友人に手紙で伝えられた。不可思議な出来事に興味を持った友人は夏休みに皆木を訪ね、2人はレンタサイクルでわかさか山に登った。
最初のトンネルを潜ると山頂に山小屋が見えた。ところが2つ目のトンネルを抜けると山小屋は消えていた。次に3つ目のトンネルを出ると今度は山小屋が屋根を下にして逆さに建っていた。そして最後のトンネルをくぐりカーブを抜けると、2人の目の前には何事もなかったように山小屋が鎮座していたのだった。

ニュータウンの出来事
1年前の春に富野市に完成したニュータウンは、8車線の国道に沿って巨大な建物が林立し、銀行や証券会社などの金融機関、新聞社や放送局などの情報機関が一堂に集められたビジネス都市であった。
やはり1年ほど前に富野市で発生した5億円の銀行強盗事件の犯人は、奪った5億円をニュータウンの造成地の穴に隠し、ほとぼりが冷めた頃に隠した金を取りに来たが、時既に遅くその上にはビルが建っていた。
警察にも捕まらず強盗に成功し、金の有るところもわかっているのに、それを取り出すことが出来ないのだ。そこで強盗犯人は考えた。そしてある方法を使って富野市のニュータウンの半分を瓦礫の山にしてしまったのである。

浜辺の出来事
私は友人の安田と一緒に赤木市のはずれの海に面したひなびた場所にある屋敷に行った。その屋敷は安田の叔父さんが所有するもので、その叔父さんのところに脅迫状が届き、心配した安田がいくつかの難事件を解決した私を誘ってその屋敷に向ったのだ。
安田の叔父さんというのは、かつてはかなり悪どい金融業をしており、多くの人から恨みを買っていた。その屋敷も背後は崖で、前面には水を引き、さらに跳ね橋で渡るという前時代的な防備を施していた。
私たちが着く前に赤木市では不思議な事件が起きていた。夜海岸で火の玉が出たかと思うと女の生首が海に浮き、それを見た小学生が親に報せたのだが、親や消防団が海浜に来た時には消えたいたのだった。
それは小学生の見間違いとされたが、見間違いではなかった。私と安田が叔父さんのモーターボートに乗って屋敷に向かうときに、同じような女の生首が浮かび、ボートについて来たのだ。
その女の生首は火傷で焼けただれて、正視できたものではなかったが、いつしか消えていた。さらに奇怪な出来事は続く。叔父さんの屋敷に入ると応接室には巨大な化け物が徘徊し、さらにいきなり壁の絵から出火して屋敷を全焼してしまったのだ。

宇宙からの物体X
千年に一度訪れるという、小型の彗星が木星に衝突する瞬間を見ようと河本市には多くの天体ファンが集まっていた。ここ河本市一帯は非常に空気が澄んでおり、天体観測に適したところだったのだ。
村川大学を代表する3人の助教授、金尾与一、番野豊、下谷元春もその中にいた。天体物理学を専門にしている金尾が、ほかの2人を誘ったのだ。あまりの人の多さに、3人は藪を抜けて少し離れた場所にテントを張った。
さっそく観測を始めたが、そのときにすぐ近くに小さな隕石が落ちた。すぐ近くとは言っても、藪の中を30分ほど歩きやっと洞窟の中から白い煙が立ち上っているのを確認できた。
さらに洞窟に入って探し廻り、やっと30センチ前後の大きさのラグビーボールを思い出させる隕石を発見した。こうなると天体観測どころではない。大発見だ。
すでに熱はかなり冷めており、下谷は反対したものの金尾と番野は隕石を黙って持ち帰ることにした。あくまで反対する下谷は袂を分かち、河本に残って天体観測をすることにした。
大学に戻った金尾は、さらに自身の住む寮に隕石を持ち込み2つに割った。すると中から出てきたのは…やがて金尾の死体が発見された。
金尾はヒトデのような物体に顔を抑えられたうえ、首を鱗のついた長いもので巻かれ窒息死した。次には番野が殺された。腹を割られそこからは何かが飛び出したような痕跡があった。こうなると疑われるのは下谷であるが、その下谷も自宅で不可解な死を遂げたのだった。

夏の最終列車
津山発岡山行きの津山線最終列車が山間部に差し掛かったとき、非常ブレーキがかかった。車掌である私は、そのときちょうど車内改札をしており、列車が停まると運転席に駆け付けた。
運転主任は人が飛び込んできたという。2人で降りて列車の下を捜すと、女の轢断死体があった。その死体は首が轢かれてちぎり取られていたが、運転主任は近くの溝からその首を見つけた。
首は運転主任の奥さんのものだった。だが、私は津山駅で発車する少し前に、運転主任と駅で口論している奥さんの姿を見ていた。奥さんは最終列車に乗っておらず、車の運転もできない。
第一津山から現場までの道路は、工事区間もあって列車より早くつくことは不可能だった。自殺にしても、どうやって奥さんは現場まで来たのだろうか…


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