奇蹟審問官アーサー

アンデス山脈の麓にあるケレス村は、その背後に火山を抱える小さな村であったが、カトリック教徒のあいだでは世界的に知られることになったひとつの奇蹟で一躍名を知られることとなった。
その奇蹟によって村にいることを要求された12人は、その現象を顕現させるために選ばれたような存在だった。彼らは現代の十二使途であったが、その12人がそろいもそろって教会での会合に遅刻するという事件があった。
遅刻の理由は家の時計が壊れていたとか、車のエンジンがかからなかったとか、子供の世話に時間を取られたとか、友達と喋っていて時間を忘れたとかいう些細なものであったが、それが彼ら12人の命を救った。
彼らが順次教会に到着すると、教会はすでに炎に包まれていたのだった。呆然と立ち尽くす彼らの前で教会はその姿を炎に没し去った。これはまた彼らが遭遇した奇蹟の一つなのだろうか?
これらを調査するために派遣された奇蹟調査審問官アーサー・クレメンスが派遣され、また日本からは雑誌記者室田が取材に訪れた。彼らの到着を待っていたかのように不可解な事件が村に連続する。
十二使途のひとりであり、鉱山業を営む地主オズバルト・ロザスが自宅で何者かに襲われたのだ。殴打されたロザスは重傷を負ったが命に別条はなかった。警察が呼ばれ捜査が開始された。
ロザスは医師によって手当てが施され、別室で休んでいた。ロザスの家はL字型をしており、ロザスが襲われて休んでいる部屋は横軸の端にあった。

さて事件それで終わらなかった。別室で休んでいるロザスが再び何者かに襲われる様子を見せた。その姿はL字型をしたロザスの家の縦軸にいた捜査陣や関係者たちが窓を通じて目撃していた。
ロザスは何者かと戦うような様子であったが、部屋にはロザス以外の姿は見えなかった。やがてロザスは狂ったようになると大きな窓を開けて部屋の外を流れる川に向かった身を躍らせた。これが十二使途が神の見えざる手によって死に至らしめられた最初の事件であった。
次の犠牲者はティッセン・ガルデルという学生であった。ガルデルが殺されたのは空中であった。ガルゼルはハンググライダーで池の上を飛行していたが、いきなりバランスを崩して墜落した。落ちた時には銃で頭を射抜かれて殺されていたのだった。
第三の犠牲者はセサル・ケロールという鉱山で働く男だった。ケロールはすでに廃棄された山中にある養殖試験場の一室で撲殺されていた。その部屋は出入口も窓も内側から錠がかけられていた。
しかもその養殖試験場の三方が見渡せる位置には人がいて、殺害があったと思われる時刻以後に試験場から出ていく人の姿はなかったと証言した。
残る一方である試験場の裏側は生垣が連なり、その先は池が広がっていた。ケロール事件は二重の密室の中で犯行が行われたのであった。

島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -