湯布院の奇妙な下宿屋

農業が本職の名探偵一尺屋遥から、その事件の記録者である東京に住む作家八追純平のところに、大事な用事があるから湯布院まで来てほしいと連絡が入った。
お見合いがあって行けない八追の代りに、八追と同じアパートに住むコンビニでアルバイトをしている青年八木司朗が湯布院に行くことになった。
八木は八追の出版した小説で一尺屋の活躍を知っており、あわよくば一尺屋の探偵ぶりを見て自分も小説にしようと考えていたから、渡りに船とばかりアルバイトをほっぽらかして由布院に向かった。
一尺屋と八木が由布院の狭霧荘という下宿屋に落ち着く。狭霧荘は資産家狭霧吉宗が建てた下宿屋で、全てが離れ形式であった。
それぞれの棟は菱形をしており、対角線上に八棟が建っていて、中央には円形のホールがあった。下宿であるから賄付きで、食事は円形ホールに一同が集まって摂ることになっていた。
奇妙なのは各棟の作りで、バスやトイレを含めて部屋が全て三角形なのだ。そこに住めるのは吉宗の面接をパスした芸術家のみ。小説、染色、陶芸、絵画にバイオリニストまで多彩だった。

吉宗はつい先ごろ心臓発作で死去したが、その時に奇妙な遺言を残した。吉宗の唯一の親族である狭霧木綿は、狭霧荘の男性住人3人のうちから配偶者を得なければ遺産を継承できないというものだった。
そしてその配偶者の名を記した新しい遺言状を公表する日に死去したのだ。したがって木綿は遺産を無条件で相続し、配偶者も自由に選ぶことができた。
ところがその直後から狭霧荘には奇妙なことが次々に起きた。染色家の部屋が荒されお気に入りの帽子が盗まれて、その帽子が湯布院名物の観光馬車の馬に被せられていた。
次に小説家が書きかけた小説がフロッピーごと盗まれ、ガラス工芸家の会心の作であるシャンパングラスが部屋の中でこなごなにされた。さらに画家が書いた絵がナイフでズタズタに切り裂かれた。
ここに至って狭霧荘のオーナーとなった木綿は、八追の小説に出てくる名探偵一尺屋に事件を依頼し、これに応じた一尺屋が八追の代理の八木とともに狭霧荘にやって来たのだった。
それを待っていたかのように狭霧荘で殺人が起きた。尊大な態度を皆から嫌われていた画家が出かけたきり帰らず、翌朝近くの湖で死体となって発見されたのだった。
警察は事故か自殺と考えたが、一尺屋は状況から殺人に違いないと睨む。警察の検死の結果、死体からは毒物が採取され一尺屋の予想通り、画家は殺されたものとわかった。
だが、画家の死はまだ事件の最初であった…

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