蛇遣い座の殺人

友人に騙されて取り込み詐欺の片棒を担がされた私は、自殺するためにW県紫野村にやって来た。この村は別荘を中心とするリゾート開発で栄えたが、数年前に台風に襲われて壊滅的な打撃を受け、今は死の村と呼ばれるほど淋しい寒村であった。
しかし、その村にも名物があった。オランジュ館というフランスから移築された尖塔を2つ持つ本格的な城館である。
城の周囲にはぐるりと堀が巡らされ、跳ね橋でオランジュ館とは出入りする。跳ね橋は普段は引き上げられているが、人が出入りするときだけ架けられるという方式がとられていた。オランジュ館の持ち主は影平氏といい、その娘の耀子が近々結婚するという。
結婚式の日には村の人間が全て招かれていた。私は村でただ一軒の宿に入り、その話を聞き散歩がてらオランジュ館を見に行くと一人の男がいた。
一尺屋遥という名で、一尺屋はオランジュ館の影平耀子から手紙を貰いやってきたのだという。手紙には耀子のところに1ヶ月ほど前に結婚を止めるよう、脅迫状が届いていたのだった。
その脅迫状を見て以来、影平氏の様子がおかしくなり、奇行が目立った。例えば家中の電化製品を一斉に新品に変えたり、隣町からトラック1台分の殺虫剤を買い求め、そのスプレー缶を庭に埋めたりした。
一尺屋への依頼は耀子を守ることであったが、一尺屋自身は影平氏の奇行の裏には何かあると睨んでいるようであった。

さて、結婚式当日、私は一尺屋とともにオランジュ館に入った。
館の中には様々な絵が掛けられていたり、甲冑があったりといかにも西洋の城館という感じであった。ただし絵は全て同一人であり、服装が違っていた。説明によれば、それは死んだ影平氏の妻だということだった。
庭園はバラ園、ワインの泉、迷路の3つに分かれていて、ワインの泉の噴水には赤ワインが使われていた。そしてオランジュ館には不思議な伝説があった。
フランスにあったころ、執事が空中を歩き壁を突き抜けて転落死していた。空中を歩くところは一人の男に目撃され、その男の証言を信じれば、執事は壁を突き抜けて転落死したということになる。
だが、その証言を信じるものは誰もおらず、男は精神に異常をきたしてしまった。その伝説に彩られた本格的な西洋の城オランジュ館で、耀子の結婚を祝って食事会が行われた。
食事会が終わると影平氏が立ち上がり礼を述べたあと、城館内にルビーが隠されているので今から宝捜しをし、最初に見つけたものに引き出物としてルビーを差し上げると言った。
そして全員で籤を引き、それぞれ探す個所の分担を決めて城内に散った。その間に悲劇が起きた。ホールにある大時計の中に庭師が閉じ込められて死んでいるのが見つかった。
発見者の悲鳴で皆が大時計の前に集まっていると、今度は屋根の上から悲鳴が聞こえてきた。外に出て見上げてみると尖塔の上に何かが引っかかっていた。
懐中電灯を向けてみると、それは人間であった。人間が尖塔に突き刺さっていたのだった。
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