砂の城の殺人

女子高生の倉西美波は、知人の武熊こと野々垣武志のかわりに2日間のアルバイトをすることになった。かつても武熊の代わりにアルバイトをして、事件に巻き込まれるという苦い経験があるのだが、今回は仕方がない面もあったにせよ、美波が原因で武熊が怪我をしてしまい、その名代というわけだった。
アルバイト先は阿賀野瑞姫という廃墟専門の女性カメラマンの助手で、2日間にわたり廃墟の撮影に同行するというものだった。危険を伴うために破格のバイト料が魅力だったが、真相はどうも武熊が瑞姫に一目ぼれして、必要でもないのに強引に助手を頼みこんだらしい。
そういう経緯から美波は相手に断られるかもしれないと考えていたが、瑞姫は美波の父親がカメラマンと知ると助手として雇ってくれた。美波の父親忠臣はけっこう有名なカメラマンだったが、スペインを撮影旅行中に行方が分からなくなっていたのだ。同じカメラマンとして瑞姫は忠臣を尊敬する先輩と考えていたようだ。
バイトの2日目、ひょんなことから美波の親友で、男勝りの立花直海も同行することになった。直海の父親は名刑事で、その影響で直海も正義感が強く、廃墟撮影は住居侵入であり法律違反だというのだ。そのことを瑞姫に掛け合うとい、直海は出かける前から息巻いていた。
その日は豪雨で撮影は中止と思っていたが、結局行われることになった。現場に向かう車の中で直海が法律違反だと詰ると、瑞姫は素直に頭を下げた。ただ、今日これから向かうところは、そんな心配はいらないという。今日の予定の廃墟は瑞姫の実家だというのだ。

道々瑞姫が語るところによれば、瑞姫の実家は人里離れた山林の中にポツンと建つ洋館で、そこで両親と兄2人、弟1人と暮らしていた。父親は実業家で、かなりに資産があったが妻と死に別れ、後妻を持った。瑞姫の兄2人栄一と伸治は最初の妻の子で、瑞姫と弟の真樹夫が後妻の子供だった。
父親が病死してゴタゴタが起き、瑞姫が高校生の時に母親が消失してしまったという。実家で兄2人と母親が財産分与の件で話し合っている最中、頭が痛いと言って自室に引き揚げた母親の姿がそのまま消えてしまったのだ。それを機に兄弟たちは実家を離れ、今では廃墟となってしまっているとのことだった。
そして今、リゾート化したいと不動産屋が目をつけてきた。兄2人は酒好きで、遊び好き、金銭感覚などないに等しい箸にも棒にもかからない人間だから、すぐに土地を売りたい。一方、弟の真樹夫は癌で余命いくばくもないという。そういうわけで今回実家で瑞姫と兄2人の話し合いがもたれることになったのだ。
場所を実家にしたのは瑞姫の希望だった。瑞姫は母親が実家にいる夢を、最近何度も見たという。予知夢とも思えるその夢の真相を確かめたというのが理由だった。たんなる夢だとわかれば、土地の売却に同意するとの条件に、兄2人も渋々ながら会同に同意した。
瑞姫、美波、直海の3人に栄一と伸治の5人は廃墟となった洋館に集まったが、早々に不気味な出迎えを受けた。瑞姫の母親の寝室に死体があったのだ。死体は椅子にかけたままでミイラ化しており、母親の服を着ており、手には指輪が嵌っていたから瑞姫の母親に間違いはなかった。
そのミイラ化した死体を見た瞬間、瑞姫以外の4人は驚愕の叫びをあげたが、瑞姫は夢の通りだと死体にすがった。その直後、豪雨による橋の流失で下界との連絡を閉ざされてしまった。廃墟だから電話も電気もガスもなく、携帯も完全に圏外で、文字通り孤立してしまう。それを待っていたかのように事件が起きた。栄一が密室の中で殺されたのだった。
廃墟とはいえ中から閂を掛けられた部屋で、直前まで生きていたはずの男が息絶えてしまった。閂は錆びついて硬く、それがかえって細工を困難にしていた。窓も中から錠が掛けられており、なによりもほかの4人に栄一を襲う機会があったとは思えないほど、ごく短い事件での殺人だった。
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