キマイラの新しい城

無名の探偵石動戯作は、千葉にある中世フランスの古城を移築して作られたテーマパーク「シメール城」の常務大海永久に呼び出された。
「シメール城」は長年廃墟のまま放置されていたが、江里アミューズメント社長の江里陸男がこの城に魅せられて再建を思い立ち、一大プロジェクトを敢行した。
瓦礫同然だった城は、多くの煉瓦や石に分解されて貨物船で日本に運ばれ、中世城郭史専門の学者や建築家によって、みごとに再建された。
城は居館と塔のふたつで構成されていた。四角い居館の右側に円筒形の塔がくっついた格好で、居館と塔の境目には塔の屋上への急な階段がついている。
居館は1階建てであったが、妙なことに窓はひとつもなく、塔の方は10メートル近い高さがあり、正面には縦一列に明り取りの小窓があった。
ただ一箇所の入口を入ると居館の玄関で、その奥に広間、広間の右側に塔への出入口があった。広間の左側には居間があり、さらにその奥は寝室だった。

この「シメール城」を建設したのは、フランスのヴァンデ地方メニボンの小領主の長男のエドガー・ランペールという男だった。エドガーは武芸に優れ、特に騎馬戦に長けていた。
稲妻卿と渾名されるエドガーは第7回十字軍に参加したが、帰国後は世をはかなんで隠棲し、相続権を弟に譲って、隠棲場所として「シメール城」を建てたのだった。
ところがエドガーは「シメール城」の塔の中で背中を剣で刺されて死んだ。殺害当時、塔の中にはエドガーしかおらず、扉の外には弟や家族、関係者達が大勢いたが、塔自体は密室であった。
エドガーの死は表向きは病死とされたが、非業の死を遂げたエドガーは亡霊となって城に取りついた。城が日本に運ばれた際に、亡霊まで運びこまれ、しかもその亡霊は江里陸男にのり移ったという。
江里陸男は自分はエドガーだと主張して、「シメール城」の居館の寝室で寝起きし、さらに自分を殺したのが誰かわかるまで成仏できないから、専門家に調べさせると言い出した。
その専門家として大海が選んだのが石動だったのだ。石動は魔術師イスルギーとして江里陸男に会って話を聞くことになった…
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