灰色の砦

ヤクザに下宿を追い出されそうなW大学1年の栗山深春は、友人から大学近くの輝額荘という下宿を紹介された。そこの大家は自らもW大の学生で、麻生ハジメという、人のいい人物だった。その人の好さはカリスマ的で、ここにいる下宿人たちも皆ハジメさんに惚れているような雰囲気だった。
輝額荘はトイレと洗面所、台所は共有で、風呂なしという昭和初期に建った建物だった。もともとは下宿ではなく旅館だったとのことで、作りはしっかりしていたし、その後も丁寧に使われているのでオンボロ感はなかった。
各部屋は6畳から8畳、鍵は自前の南京錠、そして家賃は相場より5千円は安く、敷金礼金なしのうえ電気代は家主負担という破格の条件だった。ただし共用部の掃除は当番制だし、麻生が極端に火事を恐れていて、室内は火気厳禁で煙草もダメだった。
はっきりいってプライバシーはないに等しかったが、住むところに困っていた深春は一も二もなくOKし、さっそく越してきた。住人はほとんどがW大の学生で、ひとり来年W大を目指す佐立という高校生がいた。
最初は少し戸惑った深春もすぐに慣れた。こういう下宿で共同生活する人たちだけあって、皆一癖はあるが気のいい人ばかりだった。それぞれに事情があるらしく、正月に帰省する者は一人もいなかった。
そして年明け、住人の一人カツこと井下勝が死んだ。庭にある焼却炉の裏側で、放置された大理石の柱に頭を打って死んでいたのだ。この場所は高台の崖下になっていて、人が近づく場所でもなく、大谷石は塀に使って余った者がずっと昔から放置されていたのだった。
事故か自殺か殺人かは不明だが、警察は殺人として捜査し、状況から大家の麻生ハジメを容疑者として連日任意で出頭させた。
ハジメに傾倒している輝額荘の住人たちは喧々囂々。深春もハジメが犯人とは思えないのだが、住人の一人で深春の隣室に住む桜井京介だけは妙に落ち着いている。いったい何を考えているのか、といぶかる毎日だが、ついにハジメが解放された。
警察は事故と判断したようだ。なんと井下がハジメの部屋に侵入し、ハジメが銀行から降ろしたばかりの金を盗んで逃げようとして裏の崖をよじ登る途中、誤って落ちて大理石に頭を打ちつけたというのだ。

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