卑弥呼の殺人

精神科医にして名探偵の弥生原公彦が急性肝炎で入院した。ちょうどそのころ三流探偵作家で弥生原探偵のワトスン役でもある築島龍一は、編集者から古代史ミステリの執筆依頼を受けた。
築島は古代史の分野はまったくの門外漢で、それをミステリに仕立てる自信もなかったが、昔読んだ高木彬光の「邪馬台国の秘密」に感動したことを思い出し、ターゲットを邪馬台国と卑弥呼にすることにした。
そこで入院している弥生原のもとを訪ずれて知恵を借りることにした。暇を持て余した弥生原も興味を持ち、築島とともに卑弥呼と邪馬台国の猛勉強を始めた。
そこに新たな動きが加わった。パーティーの後に担当編集者に喫茶店に誘われた築島は、そこでファンタジーの人気作家奈々村うさぎとうさぎの友人で大分県で高校教師をしている大野靖子を紹介された。
突然のことにとまどう築島に、編集者は平然と奈々村うさぎが古代史ミステリに挑戦するので、築島の方の古代史ミステリは別の機会に、と言い出した。
さらにうさぎがターゲットにしているのも卑弥呼と邪馬台国なので、これまで築島が準備してきた資料をうさぎに提供し、適当なアドバイスをするよう要請された。
普通であれば怒り心頭に発するところだが、うさぎは現在トップの人気作家であり、しかも美人ときている。築島のように三流のうらぶれた作家ではない。
しかもうさぎが弥生原のことをよく知っていることもわかり、築島は快くうさぎたちの要請を受け入れることにした。話が終わったところで今度は大野靖子が口をはさんだ。
靖子は卑弥呼の末裔だと自己紹介し、驚く築島にその根拠を示した。聞いてみると、あながち否定するようなものではなく、築島も俄然卑弥呼と邪馬台国の謎の解明に興が乗って来た。

そして築島、うさぎ、靖子の3人は大分から北九州へ取材旅行に出かけた。大野靖子は九州では有名なアマチュアの古代史研究家で、独自の研究から邪馬台国は大分にあったと主張していた。
その論は独創的であったが、けっして無茶な理論ではなく、大野靖子も自信を持っていて、地元の出版社からも本が出ていた。
大分に着いた3人は靖子が著作を出した出版社の案内で、卑弥呼や邪馬台国にゆかりのあると考えられている遺跡を巡るが、その夜に殺人事件に遭遇してしまう。
殺されたのは靖子の兄で大分県教育委員会社会教育課長大野忠晴。忠晴は業務上横領の疑いが掛かり、県警が内偵をはじめ、尾行も付いていた。その忠晴が自宅マンションで殺されたのだ。
忠晴が殺されたマンションの表は県警の刑事が見張り、部屋のドアも衆人環視のもとにあった。部屋に入ったのはルポライターで詩人の朽木和也と妹の靖子だけ。
朽木は本来部屋に入れてもらえるような立場ではないのだが、忠晴の秘密を握っているらしく、玄関先で忠晴に何か囁いたところ部屋に招じ入れられたのだ。朽木が入って少しして靖子が入って行った。
それから約1時間、忠晴の部屋には動きがなかったが、あまりにも朽木が出てくるのが遅すぎることから、廊下で部屋のドアを見張っていた監視者が部屋に入ったのだ。
部屋の中には殺された忠晴の死体と後頭部を鈍器で殴られ気絶した靖子がいただけで、朽木の姿はかき消えていた。
のちに意識を回復した靖子に聞くと、いきなり殴られて気を失ったといい、犯人の姿は見なかったと証言した。事件は衆人環視の密室での殺人、まさに弥生原の出番となる分野だった…

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