リベルタスの寓話

リベルタスの寓話という中編が前後編に分かれ、それに挟まれてクロアチア人の手という中編が入る構成。

リベルタスの寓話は紛争が一応は収まったクロアチアで起きた凄惨な殺人事件を描く。民族浄化を目指すセルビア人の地下組織の3人の男の遺体が、廃墟となったビルで見つかった。3人はいずれも首を切られ、あたりは血の海だった。
これだけでも凄惨なのに、もう一体ムスリムの男の遺体が転がっていた。ムスリムの遺体は首こそ胴に繋がっていたものの、腹は割かれすべての臓器が引き出され、その代わりに臓器に見立てた色々なものが詰め込まれていた。たとえば膀胱の代わりに白色電球、腎臓の代わりにマウス、肺の代わりに飯盒の蓋と虫かご、膵臓の代わりに携帯電話、腸の代わりに掃除機のホースという具合で、心臓だけが遺体から切り取られた本物が置かれていた。
さらに周囲には無数のといっていいほど、物理的に徹底的に破壊されたパソコンが散らばっていた。ムスリムの男の臓器は、すぐ近くの大学のプールに浮いているのが後刻発見されたが、腸だけはなかった。
さらに4人の男の性器が抉り取られて、標本用の容器に入れられて大学の塀に沿って並べられていた。一歩扱いを間違えば紛争が再燃しかねないこの不気味な事件に、駐留しているNATO軍も頭を痛めキヨシ・ミタライに相談することにしたが…

一方、紛争が一応収まったクロアチアから2人の男イヴァンとドラガンが日本に招待された話がクロアチア人の手。2人は俳句をたしなみ、俳句の国際コンクールで優秀賞を取り、東京深川の芭蕉記念会館にVIPとして宿泊していた。
ある夜、イヴァンとドラガンは2人で近くの居酒屋に行き、泥酔して戻って来た。会館の職員が2人を居室に案内し、2人は部屋を中から施錠した。職員が帰り、会館内はイヴァンとドラガンの2人だけになる。
翌朝、会館前の道路でイヴァンのスーツケースを持った外人がタクシーにはねられ、その拍子にスーツケースが爆発して外人は死んだ。一方会館内の居室ではドラガンと思われる男が死んでいた。それも異様な死に方だった。
ドラガンは部屋の大きな水槽に顔と右手を突っ込んで死んでいた。この水槽は隣のイヴァンの部屋にもあり、2つの水槽は壁越しに細いパイプで繋がっていた。ドラガンの死因は溺死だったが、どうも死んだのは付着した藻の状態や、浮遊物などからイヴァンの部屋の水槽でだったようだ。
さらに不思議なことに水槽にはロビーで飼われているはずのピラニアが入っており、ドラガンの顔と右腕のひじから先はピラニアに食われて無残な状態だった。しかもドラガンの居室は中から閂錠が掛った密室だった。
イヴァンとドラガンに宛がわれたVIPルームは頑丈な鉄のドアが唯一の出入り口で、その扉は金庫の様だった。鍵は内側からしかかからず、外から鍵は開けられなかった。発見時も業者を呼んでバーナーで焼き切らねばならなかったほどだ。
さらに窓はなく、したがって現場は閂を内側から掛けてしまえば、水槽の細いパイプ以外は一切外部と連絡できない密室だった。そして捜査が進むとなんとドラガンの部屋で死んでいたのはイヴァンであり、路上で爆死したのはドラガンであった。この難解な事件に警察はお手上げとなり、石岡経由で御手洗に相談を持ちかけることに…
島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -