水晶のピラミッド

アメリカ南部ルイジアナ州ニューオリンズのずっと南のはずれに、岩だらけのビッチ・ポイントと呼ばれる岬がある。その最南端に、岩場がさらにメキシコ湾にとびだしたところがあり、その沖に小さな島がぽつんと浮んでいる。
岩場と島との距離は20mほどで、その間には日本橋という太鼓橋が架かっている。そして島にはピラミッドが建っていた。そのピラミッドは鉄骨と強化ガラスを組み合わせて造り上げられた、透明のピラミッドだった。
しかし全部が透明ではない。下半分はエジプトにある本物のように、丁寧に石を積んで造られていた。上半分が鉄の枠にガラスをはめ込んだ透明な造りだった。
そして透明なピラミッドの中には、黒々とした岩山が収まっている。さらにピラミッドの傍らには小さな窓が点々とつけられている石の塔が建っていた。
この石の塔はトーテムポールの巨大版のようで、居住用であった。塔の屋上は見晴台になっていて、その見晴台に向って塔の周囲を螺旋階段が巡っている。
塔は7階建てで螺旋階段からは各階への入口がついていた。塔の屋上とピラミッドの中段のガラスが始まるあたりとは、空中をブリッジで結ばれている。
島にあるのはそれだけであった。地元ではこの奇妙な島のことをエジプト島といっていた。もちろんピラミッドがその名前の由来であった。

エジプト島に奇妙な建物を建てたのはポール・アレクスンという男だった。アレクスン家は兵器産業で財を成した大財閥で、ポールはその一族であった。
だがポールは1984年3月にオーストラリアのブリスベーンから400kmの砂漠で、レンタカーにガソリンをかけて焼身自殺していた。以来、エジプト島は無人となったが、財宝が隠されているという噂が広まり、徹底的に調べられた。
しかし島からもピラミッドからも塔からも何も発見されなかった。やがて島は人々から忘れられていきつつあったが、1986年8月に映画の撮影に使われることになった。
主演女優は大スターレオナ松崎。そのファンでもあるアレクスン財閥の現当主リチャード・アレクセイも撮影に立ち会うこととなり、レオナとともに島に乗り込んできた。
撮影はハリケーンの中のシーンで、ハリケーンの襲来に合せて行われた。夜になり外で暴風雨に耐えながら出を待つレオナ、そしてその前に現れたのは怪物だった。その怪物を見た瞬間、レオナは気を失ってしまった。
そして翌日、塔の最上階で寝ていたはずのリチャードが死体となって発見された。リチャードは部屋の中で泳ぐような格好で死んでいた。しかも死因は海水による溺死。地上30mの部屋でである。
部屋の唯一のドアは中から閂が掛かり、窓は嵌め殺し、小窓が2つついているが虫除けの目の細かい網が張られ中が見えないほど。
おまけに螺旋階段は3人のボディガードに見張られており、ピラミッドからのブリッジはピラミッド側の鉄格子に鍵が架けられているうえに、ブリッジに有刺鉄線が巻かれて通ることはできない。
部屋の中は円形でベッドとクロゼットが一つあるだけ。クロゼットの中には何一つ入っていない。自殺にしろ殺人にしろ、いったいどうやって地上30mの密室の中で溺死したのだろうか。
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