消える「水晶特急」

国鉄が開発した展望車付きリゾート列車「クリスタル・エキスプレス」は、最後部の展望車が列車名の通りガラス張りであった。
その最初の運行は、この列車の完成にも関わった大物代議士加灘耕平の出身地酒田に向けて行われ、乗車できるのは基本的に招待を受けた人間とマスコミの関係者だけだった。
雑誌LAの記者蓬田夜片子も招待されて、「クリスタル・エキスプレス」に乗り込んだ記者の一人だった。
上野を出て次の停車駅の大宮に着いた時に、夜片子は展望車にいたが、そこに男が散弾銃を持って侵入し、展望車にいた乗客を人質に立てこもってしまう。
男は松本貞男と名乗る単独犯で、列車を引込み線に移動させ、そこで男の乗客を解放し人質は女5人だけとなった。松本は加灘代議士の運転手をしていた松本定一の息子であった。
加灘代議士はR疑獄に関わり、アメリカのR社から多額の賄賂を受取ったとされた人物であった。その金の受け渡しに運転手の松本定一も関与したとされたが、定一は自殺してしまった。
定男は定一は自殺ではなく他殺であり、加灘代議士が指示をして口をふさいだのだと考えた。今回「クリスタル・エキスプレス」をトレインジャックしたのは加灘代議士を呼び出して、真相を自身の口から語らせて、それを報道させるのが目的であった。
したがって松本定男は加灘代議士が来て真相を報道すれば、人質は即時釈放するという。警察を呼ぶのも自由であたったので、警視庁の吉敷が「クリスタル・エキスプレス」に陣取り現場の指揮をとった。

加灘代議士は脳梗塞で倒れており、現在は故郷の酒田で療養中であり、警察では松本定男と交渉し、「クリスタル・エキスプレス」は酒田に向かうことになった。
しかしダイヤより大きく遅れていることや、ルートに非電化単線区間を含むことなどから、出発は翌日の夕方となった。さらにルート上の、奥羽本線峠駅、漆山駅、陸羽西線枡形駅、清川駅の4駅で運転停車することになった。
松本定男は夜片子に停車する駅でそれぞれ記事を電話で送らせ、事件の背景を新聞で報道させることにした。夜片子は峠駅から始まって駅ごとに松本の語った内容をLA編集部に電話で伝えた。
LA編集部には新聞各社の記者が集まり、夜片子の電話の記事を受けた。最後の清川駅からの電話が終わり、あとは30分後に酒田駅に到着するだけとなった。酒田駅のホームには加灘代議士が既に待機しているという。
だが「クリスタル・エキスプレス」は清川駅を予定通り発車したものの、そのまま消えてしまった。次の狩川駅には待てど暮らせど現れなかったのだ。
清川〜狩川間は単線で周囲は全て田んぼ。その中を線路は一直線で走り、分岐やトンネルは一切なく、道路も平行していない。人質を乗せたまま「クリスタル・エキスプレス」は消えてしまったのだ…
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