上高地の切り裂きジャック

御手洗潔ものの中篇2篇を収録。
上高地の切り裂きジャック
長野県上高地で発見された女優細川みどりの死体は、発見時には既に腐敗が相当進行していた。検死によれば死後5日程度とされた。
みどりは5日前の朝までロケのために上高地に滞在し、その後5日間オフで、横浜の自宅に帰り、再びロケに戻る予定であった。したがってオフに入った直後に殺され、そのまま死体は放置されたことになる。
みどりの体は陵辱され体内に男の精液があった。さらに下腹部を大きくえぐられ、膀胱や腎臓が持ち去られ、その部分の体内には石ころが詰め込まれていた。
みどりの住む横浜のマンションが捜索され、そこにあった手紙から横浜の大病院牧原病院の経営者の息子で、落ちこぼれ医大生の信悟が容疑者として浮かんだ。DNA鑑定をするとみどりの体内に残っていた精液は、信悟のものとわかった。
5日前の朝、マネージャーが松本駅までみどりを車で送っているから、その後みどりは上高地まで何らかの方法で戻ったか、信悟に死体を運ばれたことになる。
みどりは運転免許を持たず、みどりが公共交通機関やヒッチハイクで上高地に戻った形跡はない。したがって信悟が運んだと考えられたが、信悟も免許はなく、横浜でのアリバイがあるために上高地往復は車でも無理だった。
証拠から信悟は犯人と考えられたが、状況からは犯行は無理なのだ。だが警察は信悟を逮捕し自白を引き出そうとした…

山手の幽霊
医大生正木幸一が一人で暮らす家は横浜山手の根岸線のトンネルの上にあった。一戸建てのこの家には、最初に建てられた頃に流行したシェルターが地下に埋め込まれていた。
個人用の核シェルターとして売り出されたものだが、地下室としても利用できるために結構売れたものであった。家を建てたのが市役所の土木課勤務だった乾という人間だったこともあり、業者から安く仕入れられたのも設置の一因だった。
ところが、この家には因縁がついた。人が死ぬ家だというのだ。乾は家を建てたものの、4年後に癌で死去した。わずか40歳で、若いだけに病気の進行も早く、あっけない死であった。
その乾は死ぬ直前に家を大岡という役所の上司に売ることを決めた。大岡と乾は上下関係にあったが仲がよく、気心も知れていたし、乾は生命保険にも入っていなかったので家を売らなければ残った夫人もどうしようもなかったのだ。
大岡の方も妻と娘を抱え古いマンションから一戸建てに移りたかったころで、それが人気の山手であれば文句はなかった。話はすぐにまとまり乾の死後、ほどなくして家は大岡に渡った。
ところが大岡が引っ越してくると娘が難病に罹り寝たきりになった。娘には恋人がいて、それが正木幸一であった。やがて大岡の娘は自ら生命維持装置を外して自殺、それを悲しんで母親も後追い自殺。
大岡は娘の遺言として正木幸一に山手の家を格安で譲った。これが正木が医大生の身で、山手に一戸建てを持てた経緯だった。

正木幸一は引っ越してくるとシェルターを使う予定がないので外から釘付けにした。そのとき友人達とシェルターの中を確認したが、中には何もなく人もいなかった。
それからしばらくしてシェルターから異臭がするので釘を外してみると、中には大岡の餓死した死体があった。いったいどこから大岡の死体は入り込んだのだろうか。
一方、大岡の死体が発見される数週間前に正木幸一の家の下を走る根岸線で不思議なことがあった。豪雨の中を走る終電車が山手トンネルに入る直前、線路に人がいて急停車した。
その人間は走って逃げたが、電車は徐行でトンネルに向かった。するとトンネル前方で真昼のような光が瞬いた後、電車の前面窓に女の死顔が逆さにかぶさってきた。
運転手は慌てて急制動をかけて電車は急停止。車掌とともに運転手は電車の周囲や屋根までも調べる。が、どこにも何もなかった。運転手はそのまま精神的に追い詰められて寝込んでしまった。
この話を聞いた御手洗は電車の事件と大岡の死には密接な関連があるというのだが…


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