夜は千の鈴を鳴らす

博多駅に着いた寝台特急あさかぜ1号の二人用個室の中で女性の死体が見つかった。鬼島政子という鬼島総業の女社長で、鬼島総業は不動産、居酒屋チェーン、レストラン、画廊、ボウリング場、ゴルフ場など幅広い分野に進出し、従業員200人以上を有する会社で、名前の通り鬼島政子が興し、一人で大きくしてきた会社であった。
政子は金銭にシビアで仕事に厳しく意志の強い女性で笑うこともめったになく、従業員からは畏怖される反面、業界では成功者としてその凄腕が評価されていた。
政子は前夜東京を出るあさかぜ1号に乗ったが、車掌によれば誰かと車内で待ち合わせ、その相手が現れない様子だったという。
列車が浜松に着くと、政子に手紙が手渡された。浜松駅の駅員が若い男からあさかぜ1号に乗っている政子に渡してくれと依頼されたものだった。
その手紙を読んだ直後から政子は半狂乱になり、泣き叫びだしたという。そして車掌に「列車を停めて、人が死ぬ、ナチが見える」と意味不明のことを叫んで泣きつき、それをなんとか車掌が宥め個室に落ち着かせていた。その翌朝博多に着いた車内で死体となって発見されたのだった。

政子は狭心症でニトログリセリンを常に持っていたが、政子の持ち物の中からはニトログリセリンは見つからず、また浜松駅で手渡された手紙は室内で燃やされていた。
警視庁捜査一課の刑事吉敷竹史は、ニトログリセリンが発見されていないことと手紙が燃やされていることから、政子の死は殺人ではないかと疑い一人で捜査を始める。
そして政子が1億円の都内の土地を、ホスト上がりの秘書草間宏司に譲渡する土地権利書があったことから、犯人となり得る最右翼として草間をマークする。
しかし草間はアリバイを主張、当夜は大垣から東京行きの夜行普通列車に乗っていたというのだ。大垣夜行の車内では泥酔して騒ぎを起こし、そのことは大垣夜行の車掌も証言した。
あさかぜ1号と大垣夜行がすれ違うのは浜松と名古屋の間で、あさかぜはその間どこにも停車しない。したがって草間が大垣夜行に乗っていれば政子を殺すことは不可能であった。
それでもあきらめきれない吉敷は、愛知県幸田町にある政子の実家にヒントを掴みに向う。幸田町周辺で聞き込むうちに、政子の実家では24年前に政子の父とその愛人が猟銃で撃ち殺されて、愛人の死体は引きづられて、すぐ裏を走る東海道線の線路上に放置され、そこを走ってきた夜行寝台急行に轢かれたことが判明。
24年前の事件は迷宮入りになっていたが、あさかぜで政子が死んだのは幸田町の政子の実家付近と考えられ、吉敷は二つの事件がシンクロしているのではと考え始めた…
島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -