寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁

マンションの3階の浴室で、全裸の女性の死体が見つかった。死体の顔の皮は剥がされているという、猟奇的な状況であった。体の特徴などから死体の身元はこの部屋に住む、九条千鶴子であることは間違いなかった。
死体を発見したのは、浴室の覗きをしていた男だった。浴室の換気用の小さな窓が開いていて、近くのマンションの部屋のベランダから丁度浴室の中が覗けるのだった。
ところがいつ覗いても同じ格好の女の姿に、匿名で110番し死体が見つかった。だが、死亡推定時刻の判定は難しく、死後50時間〜36時間とかなり幅のあるものになった。
千鶴子は家出同然に新潟の実家を飛び出し、以後実家とも連絡せずに銀座でホステスをしていた。そして容疑者として関係のある3人の男が浮かぶが、全員にアリバイがあった。

その後、おかしな事実が出てきた。千鶴子が死亡したと思われる時に、寝台特急はやぶさに乗車していたという目撃証言が出て来たのだ。
捜査にあたった警視庁の吉敷刑事は見間違いと高をくくっていたが、寝台車内で幾枚もの写真が撮られていることがわかるに及んで驚愕する。
千鶴子は東京発車後から名古屋近くまで写真に撮られたりして目立っていた。千鶴子は銀座の高級店でナンバーワンホステスであり、元モデルであったので、只でさえ目立つのに敢えて目立つように振舞ったのだから、はやぶさに乗っていたという証人は複数おり車掌も証言した。
それらによれば、名古屋の手前まで車中で目撃され、翌朝も食堂車で食事する姿が見られ、熊本で下車したという。さらに千鶴子がこの日にはやぶさの個室寝台に乗車することは同僚を始め、多くの人間が千鶴子から聞いて知っていた。
すると死体となっていた千鶴子はどこから自室に戻ったのか。医学上、千鶴子が死んだのは間違いなく千鶴子がはやぶさで移動している時間帯であった。
死亡推定時刻の幅はあるものの、これは間違いないという。死体となったのは千鶴子ではないとも考えられたが、これも否定された。
はやぶさの千鶴子が偽者というのも写真から見てあり得ない。では千鶴子は双子だったのかと考えて、吉敷は千鶴子の故郷新潟に向かうが…
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