風精の棲む場所

京都市の北に隣接する風神村は、地図にも載っていない山深いところにある村だった。府道から車1台がやっとの未舗装の林道に分け入り、しかもその林道は途中で崖崩れにあって通行不能だった。
それを見て風神村に向かう作家浅間寺竜之介と愛犬であり相棒であり相談相手でもあるサスケは驚いた。その崖崩れは、どう見ても起きてから1年は経っていたからだった。
風神村への道は、この林道しかないはずで、村人にとっては唯一の生活道路であるはずだからだ。人の生活がかかった道路に起きた障害を、1年以上も放置しておくことなど考えられないからだった。
不思議に思いつつも竜之介はサスケとともに崖崩れを徒歩で乗り越え、村への道を辿った。竜之介とサスケが風神村へ向かったのは、村の女の子で竜之介の大ファンという西風美夢からのメールだった。
美夢のメールは、毎年村で行われる祭りのメインイベントである奉納舞の踊り手に選ばれ、その踊る姿をぜひ見てくれというのだった。聞けばその村の女の子は、12歳から24歳の間に踊り手を勤められるが、それは神前で抽選により選ばれるので、誰でもなれるものではないというのだ。
その晴れ姿をぜひ見てほしいと美夢に懇願された竜之介は、時間もあったし、距離的に近くだったこともあって承諾したのだが、地図を調べても風神村の地名はなく、美夢から略図と引き合わせても、村までの道は途中で途切れていた。
こうなっては直接行ってみるしかない、というわけで竜之介とサスケは村に向かい、崖崩れに遭遇したというわけだった。崖崩れを乗り越えて小一時間歩くと、目の前に風神村が現れた。本当にあったのだ。
村に入った竜之介は、美夢をはじめ歓迎を受けた。美夢の父行雄も自ら雉を撃って、その肉をふるまってくれた。聞けば奉納舞は明後日だが、明日夜にはリハーサルが行われるという。
リハーサルは本番さながらに行われるので、美夢はそのリハーサルを竜之介に見てほしかったのだ。あとでわかったことだが、本番の舞は踊り手の親族たちは見ることができなかった。その間、神様にお祈りをささげているからだった。
そういうわけでリハーサルが親族たちが舞を見る唯一の機会だった。そしてリハーサルが始まった。きらびやかな蝶の衣装に身を包み、美しく化粧をした踊り手たちは、雄蝶役が美夢たち4人、雌蝶役が6人いた。
雌蝶の役は昨年と一昨年の雄蝶役から3人づつが選ばれる決まりだった。そして奉納舞は美しく、また見事で、竜之介も見とれてしまった。やがて舞が終わったが、その直後、雄蝶に扮した一人の女性が、舞台裏の楽屋として使われる小スペースで殺されているのが見つかった。
衣装を着けたまま、柳葉包丁で刺し殺されていたのだ。現場は人里離れた辺鄙な村で、警察もすぐには来られない。しかも現場を調べてみると、外部との間で行き来はできず、密室状態であったことがわかった。村人たちに懇願され、竜之介は事件を調べ始めた。
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