玄武塔事件

夏の一日、野上探偵事務所ご用達の喫茶店紅梅のアルバイト、アキは友人の沢渡千春と多賀谷紫織とともに、紫織の故郷である海辺の東雲村に向かった。
東雲村にある玄武屋敷という広大な屋敷に、紫織の伯父の多賀谷貴峰が住んでおり、そこに滞在して海の幸を満喫しようという計画だった。
だが、東雲村に近づくにつれて、気になることがあるのか紫織の元気が失われていった。それに合わせたかのように台風が接近しており天候は最悪で、東雲駅に着いたころには風雨が激しくなっていた。
駅には屋敷からの迎えの車が来ていたが、その車が山道に差し掛かると、一人の老婆が道に飛び出してきた。老婆は一枚の紙切れを差し出し、うちのクロが殺されたとわめいていた。
その老婆はお里といい、クロとはお里が飼っている犬の名であった。お里が差しだした紙には墨で、「こいつには10年前に痛いめにあわされた。だから復讐してやる」とあり、春雪と署名されていた。
その紙切れを見た紫織の顔色は真っ青だった。後でわかったことだが、春雪とは貴峰の息子の一人で、10年前にお里の息子と喧嘩をして相手を殺して逃亡した男だった。
その逃亡の際に、お里の飼うクロに足を噛まれたのだった。足を引きづりながら山に入った春雪だったが、その後の行方は杳として知れなかった。その春雪が復讐のために村に帰ってきたのだった。

さて玄武屋敷は海や村を一望できる崖の上に建てられており、敷地内には俗に玄武塔と呼ばれる展望塔もあった。しかし関係者は陰気な人物ばかり。
出迎えたお手伝いの妙子はのっぺりした無愛想な人間だし、同居している義理の妹の柘植真智子とその娘の琴絵は自分勝手な性格だった。
真智子は亡くなった貴峰の妻の妹であったが、夫と離婚調停中で娘を連れて同居していたのだ。さらに屋敷には貴峰の長男の貴司も滞在していた。
実は紫織がずっとふさいでいたのは、貴峰が紫織と貴司を結婚させたがっていたからだった。貴司はどちらかといえば軽い人間で、お互いに結婚を望んではいなかった。
一方柘植真智子と琴絵親娘は琴絵と貴司の結婚を熱望していたが、その目的は貴峰の莫大な財産だった。真智子と琴絵は貴司と紫織が結婚の意思がないことを表明しても、紫織を仇敵視していた。
そして、その状況を一切無視して貴峰は、琴絵と貴司の結婚は絶対に認めず、貴司と紫織を強引に結婚させようとしているのだ。
当然玄武屋敷の空気は険悪になった。さらにそこに逃亡している殺人犯春雪が戻ってきたとの噂である。この状況で事件が起きないことがおかしい。嵐の夜の最初の犠牲者は真智子であった。
真智子は玄武塔に紫織を呼び出し、2人が時間をおいて塔に入ったのは工事をしていた職人に見られていた。職人は2人が入った後は誰も出いるしていないと証言した。
しかし塔には紫織の姿はなく、殺された真智子の死体だけがポツンと転がっていた。紫織は行方不明になってしまったが、同時にそれは殺人の最終力容疑者になったことでもあった。親友の苦境にアキは野上探偵事務所に助けを求めた…

島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -