巴里人形の謎

パリのサン・ドニ通りに程近い、小さな路地に建つアパルトマンで、人形作家の沖村嶺が首を吊って自殺したのは3年前のことだった。
沖村の造る人形はビスクドールといわれる、頭部や手足が磁器で作られた人形であった。沖村はアパルトマンの地下室で首を吊ったのだが、天井からぶら下がった沖村を車座のように彼に造られた人形達が囲んでいた。
そして床の上には沖村の死体をグルリと一周して、ドアから外に出て行くような小さな人形の足跡が残され、さらに地下室の階段を昇っていく赤いドレスを着た人形を郵便配達夫が目撃していた。
沖村が死の半月ほど前に書いた手記には、沖村の手ではっきりと「私は、私の造った人形に殺されるかもしれない」と書き残されていた。
もし郵便配達が人形を見たのが事実なら、沖村は手記に記したように、自分の造った人形に殺されのかもしれなかった。
沖村は、この事件以降、パリで客死した天才的人形作家として有名になり、テレビでも取り上げられ、沖村が自殺したアパルトマンには日本人観光客も訪れるほどであった。

3年後、名古屋にある巴里館というアンティークドールの店で、牧准平の出版記念パーティが開かれた。牧が沖村嶺のことを書いたノンフィクションを出版することになったのだ。
とはいえ少し気の早い出版記念パーティで、牧の本はまだゲラの段階で、題名も決まっていなかった。牧と沖村、おれに霞田志郎、稲垣鞠子、鶴田苺子の5人は、高校時代同じ文芸部に属した同級生であった。
その牧の本のパーティと言うことで、志郎、苺子も招待され、志郎の妹霞田千鶴も同伴することになった。ちなみに巴里館はもうひとりの同級生稲垣鞠子の母親の店であった。
だたし本音を言えば、志郎も苺子もパーティへの出席は気が進まなかった。牧という男は独善的で嫌味な男だったからだ。会場でも推理作家として名をなしている志郎に、嫌味を並べて千鶴を不快にさせた。
パーティではその牧と稲垣鞠子の婚約が電撃的に発表されるおまけもあったが、最後は悪酔した牧が部屋に担ぎ込まれて、三々五々出席者が帰っていった。
その翌朝、霞田家に警察から電話が入った。悪酔いして部屋に担ぎ込まれた牧が殺されたというのだ。霞田姉妹が駆けつけると、寝室にナイフを突きたてられた牧の死体があった。
部屋の中はめちゃくちゃに荒らされ、牧も犯人に抵抗した跡があった。ただ奇妙なことに牧の死はナイフでの刺殺ではなく、首を絞められたことによる絞殺だった。
同級生の牧の他殺、そして死の少し前まで牧と言葉を交わしていた志郎は、千鶴や苺子とともに否応なく事件の渦中に首を突っ込むことになった。
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