奇談収集家

新聞に広告を出して奇談を集める恵比酒一とその助手氷坂のもとに、広告を見てやってきた奇談の持ち主たち。その奇談なるものを聞いた恵比酒と氷坂は…
自分の影に刺された男
公務員の仁藤晴樹は、大学生のころから自分の影に怯えるようになった。最初はバイトの帰りに大きな公園を通った時に、八つなければならない影が7つしかないことを知ったときだ。それから影に怯えだし、カラオケのステージではひとつだけ違う動きをする影を見て卒倒した。
大学を出てからは仕事や結婚などで影のことは暫く忘れられたが、最近再び影に怯えるような出来事が続いた。後輩と帰宅する途中に、ふと影を見ると影が手を振ったり、ナイフを持って襲いかかられそうになったりした。
そして先日は一人で帰る途中に、影を気にしないでいいように暗い道を選んで歩いていたら、いきなり背中からナイフで刺された。幸いに傷は浅かったが、これも影が差したに違いない。この話を聞いた恵比酒は大喜びしたが、氷坂は奇談でもなんでもないと言い出し…

古道具屋の姫君
大学で国文学を教えている矢来和生は、学生時代にある古道具屋の店先から、髪の長い美しい娘が座っているのを見て、その美しさに吸い寄せられるように店に入っていった。
ところが娘の姿は消え、店の奥から男の声がして主が出てきた。和生が娘の話をすると、今度は主が顔をこわばらせ、店の奥にある大きな姿見を見せた。
そして主はこの姿見の由来を語りはじめた。姿見には若い女の霊が宿っているのだという。娘に一目で惚れてしまった和生は、その姿見を買い、翌日届けてもらった。するとその夜、娘が枕元に現れた。
だが、それで終わりだった。それ以降、娘が現れることもなく時は経ち、和生は大学の講師となった。そしてある年、講義を聞く新入生を見て和生は驚いた。その新入生が、かつての姿見の娘に瓜二つだったのだ。結局、和生はその娘と結ばれたのだが…この話を聞いた恵比酒は大喜びしたが、氷坂は奇談でもなんでもないと言い出し…

不器用な魔術師
世界的に有名なシャンソン歌手紫島美智が、まだ無名のころ、十数年前のパリであった出来事。金のなかった美智は、古びたアパルトマンに住んでいた。隣に住んでいたのは、金持なくせにケチな老婆。
その老婆は美智が歌を練習していると壁を叩き、ベランダに出て抗議した。うるさいというのだ。そのくせ自分では大きな音で夜中までラジオを聞いていた。その老婆は財産を守るためか、部屋にいくつもの鍵を付け、部屋から一歩も出ずに生活した。食品や日用品は業者に届けさせるのだ。
美智はそんな老婆から一刻も早く離れたかったが金がなくどうすることもできない。仕方なく外出しては、カフェで時を過ごした。そんな美智が知り合ったのがパトリスという青年。
パトリスは自らを魔術師と名乗った。美智はパトリスが何もないところから花を出して少女にあげたり、美智がなくした指輪のありかを言い当てたりするのを驚嘆の目で見た。
やがて美智はパトリスと親しくなったが、ある年の大晦日、パトリスがアパルトマンにいてはいけないと予言した。美智はその言に従って、一晩パトリスと過ごした。
夜が明けて帰って見るとアパルトマンは火災にあい、老婆は部屋で死んでいた。美智も外出していなければ、命はなかったはずだ。美智は魔術師パトリスに救われたのだった。この話を聞いた恵比酒は大喜びしたが、氷坂は奇談でもなんでもないと言い出し…

水色の魔人
草間は小学校6年のころ、仲のいい2人の友達タッシこと光永とニッキこと西紀の3人で少年探偵団を作った。もちろん江戸川乱歩の少年探偵団シリーズに感化されてのことだった。
とはいえ本当に事件が起きたり、怪人物が現れるわけはなく、尾行の真似をしたり人物の素性を予想したりする程度だった。だが、ある日のこと大事件に遭遇した。
そのころ隣の学区で女子が行方不明になる事件が相次いだ。そして子供が消えた前後に水色の合羽を着た怪しい人物が目撃されていた。この噂が伝わると少年探偵団の活躍が始まった。
水色の魔人とあだ名された、怪人物を見つけるのだ。やがて水色の魔人が発見された。タッシとニッキが神社の袋小路に入っていくのを見つけたのだ。その袋小路の先には、神社の掃除用具を入れる小さな小屋が建っているだけだった。
草間は2人から魔人発見の報を聞くと、単身袋小路に入って行った。そして勇気をもって小屋の戸を開いた。するお水色の布が飛び出してきて、無我夢中で逃げた。袋小路の外の出るとそこにはタッシとニッキがいた。
水色の魔人はタッシたちの姿を見ると身をひるがえして袋小路に入っていった。タッシたちが追いかけ、一歩遅れて草間も続いた。だが小屋の戸を開けると、そこには誰もおらず、代わりに行方不明になった女子の死体が置かれていた。
水色の魔人はどこかに消えてしまったのだ。この話を聞いた恵比酒は大喜びしたが、氷坂は奇談でもなんでもないと言い出し…

冬薔薇の館
今は平凡な主婦となっている鈴木智子が高校生の頃、ふとした気持からいつもと違うバス停で降りたことから、その不思議な話は始まった。バス停から宛てもなく気の向くままに歩いていると、目の前に大きな屋敷が現れた。
ヨーロッパ風の屋敷で、広い庭があった。門には東寺と表札が掲げられていた。そして門の中からピシっとした服装の若く目鼻立ちが整った男が声をかけてきて、智子を中に入れてくれた。
その男は東寺光清と名乗り、屋敷の裏庭に案内してくれた。季節は冬だというのに、そこには数々の薔薇が咲き誇っていた。智子は思わず見とれ、さらに案内されるうちに光清に好意を寄せた。
その翌日も、さらにその翌日も智子は光清に会いに行った。そして光清に言われるまま、ある日智子は屋敷に住むことにした。父親は既に死んで、母親と2人暮らしだが、その母親とは折り合いが悪く、智子は家を出る決心をしたのだ。
許しを得て家に身の回り品を取りに帰った智子だったが、そこに母親が交通事故にあったという電話が入った。取るものもとりあえず病院に向う。その結果、光清との約束を破ることになってしまった。
光清のもとに行けたのは母親の容体が安定した半月後のことだった。しかしそこには、智子の居場所はなかった。光清はほかの女と庭を歩いていたのだった。半月前の智子のように…
この話を聞いた恵比酒は奇談でも何でもなくただの恋物語だと不機嫌だったが、最近その屋敷を見に行った智子が、その様子を語りはじめると俄然興味を示した。一方氷坂はその話を聞いて…

金眼銀眼邪眼
11歳の田坂大樹が近所のキリン公園で遊んでいると、ヨミという名の猫を連れたナイコという少し年上の少年が現れた。その少年は、なぜか大樹のことを知っているばかりか、大樹の家が今どういう状況にあるかもよく知っていた。
そして大樹が学校も家も好きではないことを確認すると、大樹に一日だけの家出を勧めた。大樹とナイコは大樹の家のポストに書置きを残し、ナイコの案内で夜の街を探検した。それはスナックだったり、ゲームセンターだったり、カラオケボックスだったりした。
大樹は初めての世界に戸惑い、ナイコが平然と酒を飲むのに驚きしていたが、段々と恐ろしくなって来た。夜が明け、キリン公園に戻るとナイコは一緒だったことを固く口止めして大樹と別れた。
大樹が家に戻ると、誘拐されたと大騒ぎになっていた。だが大樹はナイコとのことは約束通り誰にも話さなかった。一週間ほどして大樹の誘拐犯として、ある夫婦が逮捕された。
この話を聞いた恵比酒は、これがなんで奇談なのかと首をひねったが、氷坂の方はこの話にある意図が隠されていると言い出した…

すべては奇談のために
奇談収集家恵比酒と氷坂の名をあるところで耳にした山崎輝夫は、恵比酒と氷坂の前で物語を語った人物に会ってみた。だが話を聞けば聞くほど嘘っぽく、恵比酒と氷坂のいるはずの店ストベリーヒルの場所すら特定できなかった。
山崎は奇談収集家の話そのものを信用しなかったが、数日後やはり恵比酒と氷坂の前で話をした人物と出会い、さらにほかにも恵比酒と氷坂を知っている人物と会った。こうなるともう自分でも恵比酒と氷坂に会ってみたくなった。
そしてある方法を使ってストベリーヒルの場所を突きとめることに成功し、奇談を引っ提げて恵比酒と氷坂に面会した。


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