水の殺人者

東都商事の課長牧原憲一はコピー室に置き忘れられていた一枚の紙を見つけた。牧原がと入れ替わりにコピー室を出て行った、百瀬邦彦が忘れていったものらしい。
百瀬は28歳の若者ながら陰気な男で、1年ほどまえに社内でも評判の美女浅沼美代子と婚約したが、式の直前に美代子から婚約解消を申し渡されて破談になり、それ以来ますます暗くなり、覇気もなくなっていた。
そんな百瀬だから、おそらくボーッとしてコピーをとっていて、原本を置き忘れたのだろう。牧原はコピー室から出て百瀬の姿を探したが、どこかに言ったらしく見渡せる範囲にはいなかった。
仕方なくコピー室に戻った牧原は、その紙を見て少し驚いた。タイトルには殺人リストとあり、牧原憲一、浅沼美代子、佐々木幹夫と3人の名前が書かれ、牧原から順に番号が振られ、それぞれの電話番号が載っていた。
イタズラか願望の類だとは思ったが、牧原は自分の名前が一番に出ていることが気に入らなかった。浅沼は婚約を破棄したから当然であるにしろ、なぜ自分の名前がトップなのか…
実は牧原は浅沼は一時期不倫をしていて、浅沼が百瀬との婚約を解消した一つの原因もそれだったのだが、牧原と浅沼の関係は誰にも知られていないはずで、だから牧原には百瀬に恨まれる筋合いは何もないはずだった。
そこで牧原は百瀬にイタズラをすることにした。自席に戻るとリストの一番目を百瀬邦彦とし、牧原以下を順にずらした殺人リストを作り、牧原の机に裏返しに置いておいたのだった。

それから暫くして百瀬と浅沼の間にひと悶着があった。浅沼は百瀬との婚約を破棄したあと、すぐに寺尾聡という商社マンと結婚していたが、会社を辞めずに牧原や百瀬と同じフロアで勤務していた。
その浅沼が百瀬のところに怒鳴り込んだのだ。浅沼の机に殺人リストと題する紙が置かれ、その紙を百瀬が作ったに違いないと浅沼は言うのだ。
浅沼の机に置かれた殺人リストには、百瀬邦彦、牧原憲一、浅沼美代子、佐々木幹夫とここまでは牧原が作ったのと同じだったが、5番目に寺尾聡つまり浅沼の夫の名前が追加されていた。百瀬はもちろん殺人リストなど知らないと言う。いったい誰がそんなことをしたのだろうか…
さらに数日して百瀬邦彦が死んだ。荒川の河川敷で水死体で見つかったのだ。事故と自殺の両面で調べられたが、警察は最終的に自殺と断定した。
ところが百瀬の死は牧原と浅沼にはショックだった。殺人リストの一番目の人物が死んだのだ。特に2番目に書かれた牧原は日に日にイライラが募った。
ついにそのイライラに耐え切れず、牧原は浅沼に電話して会う約束を取り付ける。会う理由はもちろん殺人リストについての情報交換だ。
だが、その会見は実現しなかった。浅沼のところに向う牧原が何者かに襲われて殺されたのだった…
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