螺旋館の殺人

過去に15冊ものミステリを出版し、記念碑的な作品も多いミステリ作家田宮竜之介だったが、10年前に長篇を出版して以来ミステリの執筆はせず、今はもっぱら評論家として活動していた。
これは田宮の才能が枯渇して、いい作品が書けなくなったためで、事実10年前の長篇も世間からは黙殺同然の扱いを受けた。
今では作家としては旧作はそこそこ売れているものの忘れられたような存在となり、その代わりに辛口の評論家としての方が受けがよかった。そのほかに田宮は出版社の主宰でミステリ創作講座の講師の仕事をしていた。
ところがミステリ講座で素人相手に講義をしているうちに、田宮の中で創作意欲が高まり、またミステリを執筆したくなった。
そのことを出版社の担当者に相談すると、出版社では創立30周年ミステリ特別書下しの企画があり、その第1期配本にぜひ田宮を入れたいとの意向であった。
正式に話が纏まり田宮は創立30周年ミステリ特別書下しのメンバーに加わり、秩父にある自身の山荘に篭って執筆を始めた。
この山荘は田宮が執筆のために建てたもので、バス停のある山麓から1時間あまり登ったところにポツンと建っていて周囲には何もなく、電話すら引かれていなかった。

山荘篭りを始めてから少しして田宮の担当者沢本和彦が様子を見に山荘に来た。田宮は梗概を見せるが、それは海外のサスペンスの焼き直しのような作品で、沢本はダメを出した。
作品に自信を持っていた田宮は、これで自信を喪失し鬱状態に突入し、一行も書けなくなってしまう。もともと感情の起伏が激しく、躁鬱の気があるのだった。
そんな苦境を救ってくれたのがミステリ創作講座の教え子の一人である白河レイ子であった。レイ子は自分が書いた原稿を見て欲しいと山荘まで押しかけてきたのだ。
最初はいやがる田宮だったが、最後はレイ子に負けて作品を読んでしまう。それがきっかけで田宮はレイ子と体の関係を結んでしまった。
レイ子との情事が田宮に思わぬ回春効果をもたらし、その日を境に田宮は鬱を脱して、人が変ったように執筆を始めた。暫くして訪れた沢本も田宮の変り様に驚いたが、途中まで書かれた作品を読んでみて、その素晴らしさに更に驚いた。
その作品「螺旋館の殺人」は新本格風で、かつての田宮の作品とは味わいが違い、出来はそのどれよりも良さそうなのだった。
田宮は締切まで好調を維持して脱稿し、山荘に沢本を呼んで原稿を渡した。沢本は傑作が締切に間に合うように渡されて感激し、山荘を降りて秩父から列車に乗り込んだ。
ところが、列車の中で隣に座った女に原稿を持ち去られるという失態をしてしまう。田宮の原稿は行方不明となったが、数ヵ月後に同じ出版社の新人賞に応募し当選した「サーキュラー荘の殺人」が田宮の「螺旋館の殺人」そのものだったのだ。
そのことを知った沢本は「サーキュラー荘の殺人」の作者鈴田美也子に会うが、その美也子こそ列車の中で隣に座った女であった。
沢本は美也子を問い詰めようと美也子のマンションに行くが、ドアには鍵が掛けられておらず、浴室の中には美也子が死体となって横たわっていた。
島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -