鬼流殺生祭

維新の騒擾がいまだに覚めやらぬ明詞(めいじ)7年に、公家出身の華族の三男九条惟親はフランス留学から帰国した旧友武知正純を横浜の港に出迎えた。
正純は遠縁に当たる霧生家の蝶と婚約して、今般の帰朝を機に結婚することになっていて、港に出迎えた蝶と久しぶりに再会した正純も幸せいっぱいであった。
霧生家は肥前の出身で、藩政時代は藩の重役であり、維新後は当主の貞道が陸軍の幹部として名を馳せていた。正純も霧生家の親戚にあたっていた。
代々霧生家は女腹で、近親から婿を迎えるのが慣わしになっていた。そのために正純も幼い時から蝶の婿になることが決まっていたが、長じて蝶と正純は相思相愛になっていった。
ところがその幸せ絶頂の正純が、霧生の牛込の邸で夜中に腹に刃を突き立てられて殺されてしまう。九条が駆けつけ、通報を受けた警察もやってきて事情聴取を始めたが、邸の中のものは正純を殺すのが不可能であった。
正純が死んでいた部屋に行こうとすると、誰もがある部屋を通らなければならず、その部屋にいた人間は誰一人通っていないというのだった。
それでは外部から何者かかが侵入して正純を殺したのかというと、邸の窓も玄関も内側から鍵や心張りが掛けられて出入りできず、しかも霧生家の門前には夜っぴてそば屋が出ていて、門を出入りしたものはいないと証言した。

正純殺人事件は邸の中の人間には殺す機会がなく、かと言って外からは誰も出入りできないという不可能事件になったが、事件はそれで終わらず、次には霧生家の嫡男が路上で刺されて殺され、さらに霧生家で当主貞道が殺される。
貞道は雪の朝、首と胴体が切り離されて発見された。雪が積もったその朝、貞道の首が庭の立ち木の側で見つかり、貞道の部屋には腹を十文字に切り裂かれ、内臓が飛び出た貞道の陰惨な死体があった。
霧生家にはある種の呪いが掛かっているというのだが、その話を聞いて九条は困惑し、友人の朱芳に援けを求めるが…
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