法月綸太郎の冒険

法月綸太郎の第1短篇集。1990年春から92年春までに発表された7篇。うち4篇は図書館がらみの事件を扱う、図書館シリーズ。
死刑囚パズル
死刑囚有明省二の絞首刑が執行されることになった。朝から準備が行われ、最後の餞に甘党の有明のために最高級の饅頭と最高級の日本茶が振舞われ、有明に首に絞首縄がかけられた。
そして、いよいよ執行という寸前に有明の体が痙攣し、海老のように反り、そのまま死亡した。有明の死因はニコチン中毒。お茶を入れるために使った湯の入った魔法瓶の中に、ニコチンが入っていた。死刑執行寸前の死刑囚を毒殺した人間がいたのだ。
通常死刑囚には最後の一服として煙草が与えられるが、有明は煙草を吸わないために、所長がかわりに饅頭とお茶にした。しかもそれを決めたのは執行の日の朝のこと。毒殺犯が事前に準備するのは不可能といっていい。
それにも増して、なぜ死刑になるのに、その直前の死刑囚を殺さなければならなかったのかが、最大の謎であった…

黒衣の家
老父が病死し、その家に集まる子供たち。長男夫婦とその子供は老父母と同居し、次男夫婦は老母と折り合いが悪く、長女夫婦はごく平凡であった。
葬式が終わると次男夫婦と老母との間で言い争いが起こり、売り言葉に買い言葉で次男夫婦はさっさと帰ってしまった。その翌日から老母もがっくり来たのか、二階に上がったきりの生活。二階には半分寝たきりの老母の妹がいたので、二人で昔話に花を咲かせているようだった。
食事も二階に運ばせて、姉妹で差し向かいで食べていた。その食事を運ぶのは長男夫婦の子供の仕事。その日も夕食が運ばれたが、味噌汁を飲んだ老母が苦しみだして死んでしまった。それを見たショックで妹も意識を失い、老衰も手伝って意識不明の状態が続く。
老母の味噌汁の中には農薬が入っていた。妹の味噌汁は無害。いったい誰がいつ老母の味噌汁に農薬を…

カニバリズム小論
大久保信の住むアパートの部屋に警官隊が踏み込んだとき、信は女性の手首をフライパンで焼いていた。そして大型冷蔵庫の中からは女性の生首と手足が見つかった。殺されて、バラバラにされた死体は信と同棲していた女性のものだった。
信が殺人を犯したことは間違いなく、本人も認めているが、信はなぜカニバリズム(人肉虐食)に走ったのだろうか…

切り裂き魔
図書館の本の冒頭の数ページが切り取られるという事件が起きた。それも推理小説場ばかりで、この2ヶ月間に立て続けに起きていた。
本文にはまったく影響は無いが、器物破損であることは間違いなく、切り取られた冊数も量が多かった。美人司書から事件の解決を頼まれた綸太郎は…

緑の扉は危険
死後、図書館に蔵書を寄付すると申し出ていた資産家が首吊り自殺した。しかし未亡人は蔵書の寄付を頑として拒み、図書館との間がトラブルになった。
美人司書からその解決の助っ人を頼まれた綸太郎は資産家の屋敷に秘書と乗り込む。書斎の上階にある書庫には8千冊あまりの膨大な蔵書。
資産家は書斎で首を吊ったのだが、書斎の2つのドアのうち1つは中から閂が掛り、もう1つのドアは開かずのドアだった。開かずのドアは内側から緑色に塗られ、大の男が5人がかりで押しても引いても開かなかった。
資産家は生前「自分がこの世を去るとき、緑の扉が開かれるだろう」と謎のような言葉を言っていたという。それを聞いた綸太郎は…

土曜日の本
1991年刊行の「鮎川哲也と50円玉20枚の謎」に収録された作品を改題したもの。書店に現れ50円玉20枚を千円札に両替していく中年男。毎週ではないが、現れるのは必ず土曜日の夕方で、両替以外は本を買うでもなく見るでもなく、そそくさと帰っていく。
この男はなぜ毎週50円玉を千円札に両替するのか、その50円玉はどうして毎週この男の手元にたまるのか、というのが謎で、この謎に若手ミステリ作家が競作で解答篇を書くというのが「鮎川哲也と50円玉20枚の謎」の企画であった。
「土曜日の本」では書店に現れる中年男は、あきらかに変装していて、その男を法月綸太郎が尾行することから始まるのだが…

過ぎにし薔薇は……
休館日を除いて毎日図書館に来ては3冊の本を借り出し、翌日にはその本を返却して、再び3冊の本を借りる女。借りていく本の種類はバラバラで脈絡はなく、女が本を借りるところを見ていると、開架式の書架から本を取り出して、天小口(本の上部)をチラッと見ては、元に戻すか借りるかを決めている。
その女は装丁家の本間志織。その不思議な行動に図書館の美人司書から、尾行を頼まれた綸太郎。志織の後をつけると、志織はほかの図書館でも全く同じ事をしていた。いったいその目的は…


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