誰彼(たそがれ)

甲斐辰朗が生まれて1年後に双子の弟が生まれた。しかし体が弱かった辰朗の母親は双子が生まれると世を去ってしまった。辰朗の父親は一人では3人の赤ん坊を育てられず、双子を安倍家に養子に出した。
子供が欲しかった安倍夫妻は大喜びで、双子の兄を誓生、弟を兼等と名付け可愛がっていたが、双子が5歳の時に安倍夫人が交通事故死してから様子がおかしくなった。
安倍氏は双子の育児を放棄したりすることはなかったが、兄を可愛がり弟を遠避けるようになった。それは、あまり目立たないように行われたが、敏感な子供達はすぐに父親の心を察した。
それでも誓生は弟を気にかけ、兼等も表面上は気にしない様子であったが、双子が高校を卒業すると兼等は安倍家を去った。
やがて兼等は小規模ながら学生運動のリーダーとなるが、運動が下火になったのと兼等の組織が弱小だったことから行方がわからなくなった。
一方誓生の方は大学を出て高校教師となり、結婚もせずに父親と一緒に過ごす。父親が倒れると教師を辞めて父親の介護をして過ごすようになる。
そんな誓生はかつての兼等のグループの仲間から兼等が南アルプスのアジト付近で死去したとの連絡を受けた。兼等は南アルプスのアジトで密かに組織の軍事訓練をしていたが、仲間割れからリンチに会い監禁を受けた。そこから逃げ出す途中に雪深い南アルプスの山中で死去したと言われた。兼等が家を出て15年以上が過ぎていた。
甲斐家に残った辰朗の方は双子の弟の存在も知らず父親と2人で幸せに過ごしたが、長じて突発性難聴に見舞われ耳が聞こえなくなってしまう。
辰朗は人工内耳の手術を受け各地を放浪したが、その間に神の啓示を受け宇宙との交信が可能となる。各地で徐々にシンパを増やし、やがてそれは組織となり、ついに13万人の信者を擁する新興宗教汎エーテル教団の教祖となり信者からはメンターと呼ばれ敬われる。このような状況で事件は起きた。

汎エーテル教団にはメンターが冥想するための塔が建っていた。塔の1階が神殿で、最上階がメンター専用の冥想室。その間を直通エレベーターが結ぶだけであった。
エレベーターは一基しかなく、最上階に上り一定時間経つと1階に自動的に降りる。メンターは3日間冥想すると6日間は布教活動をし、再び3日間の冥想にふけるという9日周期の生活をしていた。
冥想の間は誰もエレベータを使えず、メンターはトイレにも行かず、風呂にも入らなかった。冥想室は広い空間で何もないのだった。
そのメンターのところに数通の脅迫状が届いた。命を奪うというものだった。メンターの秘書の山岸裕実は学生時代の友人法月綸太郎に相談。綸太郎は教団本部に乗り込む。
メンターの冥想の時間が来ると綸太郎は裕実や幹部とともにメンターが冥想室に向かうのを見送った。その後3日間神殿では3人の護衛が交代でエレベーターを監視するのだった。
その数時間後、都内のアパートで首無し死体が見つかった。部屋の表札には安倍兼等とあり、10月ほど前から同居していたフィリピン人女性は同居人をカネヒトと呼んだ。
そのカネヒトは3日間アパートでフィリピン女性と過ごすと、6日間はどこかに消えてしまい、再び3日間を過ごすという9日間周期の生活をしていたのだ。
その日は女性と過ごす最初の日であったが、女性のところにカネヒトから電話があり、外に呼び出されている間の凶行であった。
外で待ち合わせをするはずであったがカネヒトが来ず、アパートに戻った女性が部屋に入ると浴室に首のない死体があったのだ。この事件を聞いた綸太郎は強引に冥想室に入るが、そこには誰もいなかった…
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